4 盗賊団アジトでの戦い
王から許可を貰い盗賊団襲撃へと向かうため王都から出た。
例の如く兵士1小隊が護衛についたが皆訓練をしているため中々に屈強で、一応王から「自由に使って構わない」と言われている。
だが兵士達から聞こえてくるのは
「おい、あいつって団長と隊長を締めたっていう・・・」
「ああ、例のステゴロ勇者だよな・・・」
という会話である。
お前ら小声で話してるみたいだが丸聞こえだぞ。
とりあえず自己紹介と方針は話しておくべきだろう。
「ええ、今回の任務にあたる予定だった団長と隊長を締め上げたため急遽隊長として参加する事になった義仲 昴だ、今回任務は近くの村々を荒らしこの国に仇なす盗賊団への報復だ、この任務の間は俺の命令に従ってもらうが何か文句がある奴は前へ出ろ」
兵士達が静かになり1人が手を挙げた。
「隊長殿、質問よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「ダン団長をボコボコにしたのは本当ですか?」
「あいつらが喧嘩を売った、俺が買った、上下関係を解らせた、異議のある奴はこの場で俺とやるか?」
「い、いえ!、大丈夫であります!!」
「なら他に質問のある奴はいるか?」
兵士皆静かになった、これだけ言えば
大丈夫だろうか?
「何もなきゃこのまま盗賊団へ襲撃をかける、準備はいいか?」
「はい」
「返事はレンジャーだ、あと声が小さい!!!」
「「「「「「レンジャー!!!」」」」」」
俺結構楽しんでるな、としみじみ思う。
これを期にこの小隊は俺直属の精鋭に育てるのも良さそうである。
高校の時は派閥には入らず単身で数十人相手を締め上げたこともある。
この小隊を俺までとは言わなくとも鍛えればそれなりに戦力にはなるだろう、そうすれば兵士の自信にもつながると考えた。
そんなことを考えつつ出発した。
「では諸君らにはこの任務中トレーニングも兼ねて貰うこととする、盗賊団のアジトまではどれ程かかるか、誰か答えろ」
「おそらく今夜には着くと思われます!」
「それは現在このペースを維持した場合か?」
「途中に休息を10分入れて夜までになります!」
現在のペースはほぼ徒歩と同じくらい、それで夜までってちょっと長すぎじゃないだろうか?
襲撃が夜からなら相手は寝静まる頃だろうが恐らく相手もそれを解っているはずでありしかも兵士達は歩き疲れると思われる、ならばとる作戦は・・・
「では徒歩での移動はこれより終了、ここから走って目的地まで移動する」
「は、走ってですか?」
「ついてこれない者は置いていく、ついて来れた者上位3人に俺の報酬から金貨5枚を追加してやる、行くぞオラァ!」
「「「「「レンジャー!!!」」」」」
鎧の重さは推定10キロ、食糧は各自1キロ、武器は5キロ、総重量16キロである。
この装備なら体力もつく事だろう、さて何人が弱音を吐くか楽しみだ。
10分後
軽いマラソンのつもりだったのだが3分の2は少し遅れている、いくら何でも早過ぎる。
俺を含む先頭はまだ少し余裕がある様なので少し質問をする。
「なぁ、兵士は皆どうやって基礎体力を強化してるんだ?」
「ハァ、ハァ、基本的には、鎧を着けずに、城外を周回したり、グランドで城外以上に、走り込みをして、います!、ハァ、ハァ」
予想外の返答だった、鎧を着て敵と向き合う兵士が鎧を着けずに体力強化など無駄でしかない。
これは城へ帰ったらみっちり教えなければな。
全く、前任者は何を考えていたのやら。
(現在腹部へのダメージにより治療中)
20分たった頃には大分先頭人数も減り、現在5人数まで減った。
この小隊の人数は30人数、その中で疲労感が高くともついて来られたのはたった5人だけということだ。
「よし止まれ、今から30分間休憩にする」
「れ、レンジャー」
「尚遅れた者は遅れた分だけ休憩は減らす事とするから忘れんなよ
?」
「!?、レンジャー!」
遅れたんだから休憩が減るのは当たり前だよなぁ?
そして続々と休憩場所に到着する兵士達、各兵士に減らした分の休憩時間を教えた。
残り15分ともなれば全員集まったが、相当疲弊している為戦力にはならないだろう。
だがそこには考えてがある、考えと言うよりはごり押しに近いが。
休憩を終え再びマラソンペースで走り始める。
休憩から一時間した所で兵士から呼び止められる。
「隊長殿、ハァ、そろそろ盗賊団の、アジト近くです、ハァ、ハァ」
「わかった、全体止まれ、ここで遅れている者を待って作戦を与えるからしばらく休憩してろ」
「レンジャー」
20分した頃兵士が全員集まった。
まずは現状確認と作戦立案だな、それにより任務が完遂するか決まる。
「まずは皆ご苦労、これから作戦を決めたいと思うが動ける者は何人いる?」
「はっ、現在動けるものは先頭にいた隊長殿と5名、遅れてきたもので10名程かと思われます」
「わかった、では盗賊団アジトの周囲の状況を理解している奴は前へ出ろ、そして現在位置とアジトの位置関係、さらにアジトの情報を教えろ」
「では失礼いたします」
兵士が説明し始める。
どうやら今の俺ら小隊の位置はアジトの森をはさんだ正面のようだ、そしてアジトは小さい山にあるようで出入り口のような洞窟は2ヶ所だとのこと。
これは意外と好都合である、そして作戦を一部指示する。
「まず偵察を出す、洞窟の入り口に見張りがいないか見てこい」
「では自分が行きます」
「くれぐれも見つかるんじゃねぇぞ」
「レンジャー」
数分した頃、偵察に行った兵士が戻ってくる。
だが何か様子がおかしい。
「全く見張りが居ません、それどころか中でどんちゃん騒ぎが聞こえます」
「宴でも開いているのか、それとも逃げる準備か、では次の指示だが、酒を持っているものは出せ、あと周囲の落ち葉や枯れ枝を集めろ」
兵士に材料を集めさせているうちにアジト入り口の2ヶ所を少し調べた。
材料が集まり次の指示を出す。
「では今から二手に別れる、動けない者は向こうの入り口に集めた落ち葉や枯れ枝を持って行け、入り口に着いたら材料を入り口から入った所に山にして酒をばらまき火をつけろ、けして火を消すんじゃねえぞ?、動ける者は別の入り口前で俺と待機だ、行け!」
「「「「「レンジャー」」」」」
その声とともに兵士たちが動き始める、俺とともに動く兵士にさらに別の指示を出す。
「別動隊が動けば敵も動く、それを狙って入口前で待ち伏せるぞ」
「待ち伏せ、ですか?」
「そうだ、今別動隊はもう一方の入口で持っていった材料と酒で火をつけさせる、洞窟の風の流れは燃やす予定の入口から別の入口へと流れているから、もし盗賊が山火事だと思うなら煙が来ない方へと逃げ出すだろう、そこをもう一方の部隊の俺らで殲滅するぞ」
「わかりました」
別の入口へと到着し兵士に入口を囲むように配置した、相手は逃げるために入口を2つにしたのだろうが今回はそれを逆手に取っているのだ。
「お前らはここで待機、逃げてきた盗賊を逃すんじゃないぞ」
「レンジャー!」
「俺は中に入る」
そのまま兵士に待機させ俺は洞窟へと入った、中は案外広いようで盗賊の寝床のような場所もあった。
そしてその先から男の焦る声は聞こえる。
「おい!、向こうから煙が入ってきてるぞ!」
「くっそ!、なんで火事なんか起きてんだ!、反対から出て確認するぞ!」
どうやら作戦はうまくいったようで目の前の通路の先から複数の足音がする。
さてさて、団体さんの到着だ。
「おいなんだテメェ!」
「ここを俺ら黒蜥蜴盗賊団のアジトだってわかってんのか?あぁ?」
やばい、凄い小物臭がする。
笑いを堪えているのを盗賊は煙にむせていると勘違いして攻撃してくる。
「そこをどきやがれぇ!」
「生憎、そうもいかないなぁ」
「もしや、この騒ぎはお前の仕業か!?」
「だったらどうしたってんだ!!」
飛びかかってきた盗賊に対し拳を突き上げ吹き飛ばす、盗賊は天井へと激突し気絶した。
後から後から盗賊が走ってくる、目の前には約40人程度の盗賊がいる。
その後方にがたいのいい髭面の二刀流の男が居る、おそらく盗賊のリーダーだろう。
「てめぇらに最後通告だ、おとなしく捕まりゃ命は保証してやるぞ?」
「はっ、何を言うかと思えばおもしれぇ冗談だな小僧、お前1人で何ができるってんだ?」
「お前ら全員ふん縛って金貨に変えることが出来るぞ?」
「ふざけやがって!!、やっちまえてめぇら!!」
盗賊が俺めがけ走ってくる、あるものは短剣を持ち、あるものは金槌を持っている。
自分の高校時代を思い出す懐かしい光景だ、1人で団体を相手にしたことを思い出した。
手加減の必要がないので俺の気が済むまで嬲ってやろう。
短剣の男の攻撃を容易く半身で避ける、その男の腕を肘と膝で挟み込み腕を折った。
男が落とした短剣はそのまま蹴り飛ばし金槌を持った男のふとももへと突き刺さったところに腕の折れた男を背負い投げで投げつける。
奥から押し寄せてきた盗賊達は突然味方が飛んできたことに驚き動きが止まる。
その隙を澪逃すことなく手当たり次第攻撃して倒れさせる。
あるものは膝を逆側へ折られ、あるものは地面へと叩きつけられ、あるものは俺の拳と壁に挟まれて気絶した。
「おいなんだよあれ!?」
「そんなん俺が知るか、何人かで取り押さえろ!」
盗賊団のリーダーは半狂乱になりながらも今目の前で起きている自体を処理しようとするが統率が取れていない。
意識のある盗賊は既に10人にまで減っている。
「なんだ悪名高い盗賊団と聞いたんだが、これじゃ大したことねぇな」
「それを言うのは俺を倒してからにしてもらおう」
盗賊団のリーダーは片手にシミター、もう片手にはメイスを持っている。
状況に応じて斬りつけるか叩き潰すかを変えるようだ、だがそれを武器に頼っていては俺は倒せない。
盗賊団長は左手のメイスを叩きつけてくるが俺は容易く避ける、だがその避けた位置にシミターが迫る。
「おおっと」
「今のを避けられるとは大した野郎だ、ならこれはどうだ!!」
盗賊団長がシミターによる高速の斬りつけと要所要所にメイスによる打撃を加えてくる。
だがオーバーセンスによって軽々と避ける、そして兵士団長にしたように腹目掛けて拳を叩きつける。
だが今回はそんな生易しいものではない、なぜなら途中で力を抜く必要がないからだ。
拳は容赦なく盗賊団長の鎧と腹筋を貫き内臓へとダメージを与えると同時に吹き飛ばした。
「ぐふぁ!?ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
10メートル飛んで壁に激突し《ズドォォォォォォォン!!》という轟音を上げていた。
俺マジでこの世界来てどうしちゃったわけ・・・・
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひいぃぃぃぃぃ!!!」
悲鳴を上げながら俺を通り過ぎて逃げる盗賊、少ししてから『ぎゃあああああ!!』という声がしたからおそらく兵士に袋叩きにされたのだろう。
その後、洞窟内を見回りはしたが残党はいなかった、先ほどので全員だったようだ。
ひと仕事終え洞窟から出ると兵士達が何やら顔面蒼白になっている。
なぜなら俺が洞窟に入った後から悲鳴と断末魔が聞こえ、あまつさえ爆発音(盗賊団長を殴り壁に吹き飛ばした衝撃音)と悲鳴を上げながら盗賊団が洞窟から逃げ出て来るのだからさぞや恐ろしかっただろう。
「兵士諸君ご苦労、別動隊と合流して中の盗賊どもを縛りあげろ、終わり次第騎士のアーサーの到着を待って城へと戻るぞ」
「「「「レ、レンジャー」」」」
兵士達は早速作業に取り掛かる。
いい運動になったしこれがいい金になるのだから一石二鳥である、そう思いながら何気なく自分のステータスを確認した。
義仲 昴
拳闘士
スキル
武装破壊 自動回復(小) 鑑定 オーバーセンス カウンターアタック 能力超向上 騎乗 交渉術 アイテムボックス 剛力 硬質 瞬発 回避 魔法軽減 軍事教官
一瞬わからなかったが何やらスキルが増えている。
軍事教官
パッシブスキル、自身の指揮している味方の経験3倍
今回の任務でおふざけ程度に指揮をしたのがこんなスキルを入手することになるとは誰が思っただろう。
だが精鋭を作るのには役に立つだろうし、有意義に活用することにしよう。
任務完了し兵士と待機して約20分後、騎士アーサー率いる小隊が到着した。
自分たちが来る前に任務を終わらせていた俺達に軽く驚いている様子だ。
「勇者殿!、ご無事でしたか!」
「無事も何も手応えなさすぎて退屈だったぜ、盗賊団・・・なんつったっけか」
「黒蜥蜴です隊長殿」
「ああそうそう黒蜥蜴な、多分これで全員拘束、被害にあった奴らの私物がまだアジトにあるかもしれねぇからあとで確認頼むわ」
「わかりました、5名選出して私とアジト内の捜索だ」
「アーサー、俺達は残りの兵と盗賊団を連行して城に先に戻ってるからな?」
「はい、お疲れ様でした、王に任務の報告もして下さればそのまま報酬がもらえるはずですので」
「わかった、んじゃお先~」
会話の後兵士達と城へと帰った、流石に盗賊団を連れては全力で走れないのでランニング程度のスピードで帰ることにした。
十分休んだために兵士達もなんとか付いてくることができた。
途中で起きた盗賊は『ひ、ひぃぃぃい!?、化物ぉ!!』などと喚いて気絶した、俺は人間だ!
昴達が帰った後洞窟内を捜索していたアーサー達は言葉を失った。
洞窟の中の入口から近い部分、おそらく戦闘があったであろう場所だがその有様は壮絶だった。
壁のあちこちがへこみ、破砕されそれが天井まであるのだ、そして一部のへこみには人の拳のような痕跡も残っている。
普通に考えれば人の力が及ばない化け物が襲撃したのかと思う程である。
実際捜索に参加した騎士は「化け物でも暴れていたのでしょうか?」と呆気に取られているほどの惨状だった。
だが王国の兵団長を素手で屠った(現在集中治療中)場面を見ていたアーサーだけはそれを見て
「末恐ろしい勇者殿だな・・・」
と小さな声でつぶやくのであった。
その後アジト内で被害届けのあったアイテムや金貨などを押収し城へと戻った。
俺は城へついた後王に報告しに出向いた。
王室の扉をノックし「入れ」と返事をもらうと部屋に入った。
「任務終わったぞ」
「おぉ、よく戻った!無事であったか!」
「まぁな、で、報酬の件だが」
「ああわかっているとも!、今回捕まえてもらった黒蜥蜴盗賊団は人殺しなどもやった極悪人だ、それ故に捕まえたことでこの一帯はしばらく平和にもなるだろう、それを鑑みて報酬は金貨120枚でどうだ?」
「ああ、それでいい、それともう1ついいか?」
「なんだ?、遠慮せず言ってみろ?」
「今回借り受けた一個小隊だが、あいつらを俺の専属兵士にしたいと思っている」
「それはまたなんでだ?」
「前任者が訓練させるのを疎かにしていたのか全くと言ってもいいほど使い物にならん、だから俺が直々に鍛え直し精鋭へと生まれ変わらせてやる」
「ハッハッハ、それは頼もしい限りだ!、いいだろうその一個小隊くれてやる!」
「ありがとう、今日は疲れたから寝ることにするわ」
「おう、ゆっくり休んでくれ!」
王室から出て自室へと戻ると翌日のことを考える。
今回の任務報酬でもらった金貨120枚でしばらくは問題ないだろう、あとは兵士達の基礎訓練や技術指南だ。
そして今度こそ街に出て見て回ることにしよう。
そう考えて俺は眠りに落ちたのだった。