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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
一年夏 ――小笠原の章――
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5回:もう一人いる

「どうだった?練習に混じった感想は」

「キツイっす!」


 ロッカールームにて笑顔混じりに先輩と話す朝比奈。流石に静岡県内でも十本の指に入る強豪である。練習量が中学の野球部とはまるで違う。二、三年がケロッとしているところを見ると、どうやら基礎体力に大きな差がある様だ。


 だが、技術は別である。フリーバッティングやシートノックを見ていても、そこまで自分と差があるようには思えなかった。このチームで、自分は中心選手として活躍できる。朝比奈はまた一つ自信をつけた。


「しかしお前らいいなぁ。普通入った直後にロッカーなんて使わせてもらえないぞ?俺達だって先輩が引退するまでずっと外で着替えてたのに」


 先輩に肩を小突かれる。確かに成田を含めた外で着替えている連中には、少し申し訳ない気持ちになってくる。


「まぁでも、全国に行こうと思ったらこれぐらいの格差はつけるべきやないですか?」


 畑山が発言の主を睨む。特待生の一人、滋賀の高坂である。


「あ、勘違いせんといて下さいよ。天狗になってるわけやなくて、監督やコーチも神様じゃないから全ての部員を平等には鍛えられへんわけで」

「それで?」

「少数精鋭を鍛えていきたいから、こういう特待生制度も設けたわけでしょ?これって正解やと思いますよ」


 畑山は明らかに外の一般入学グループに同情している。それが分からないわけでもない筈なのに、高坂は意志表示を行った。

 自分は、お前達一般入部とは違う。その『お前達』には、畑山達上級生も含んでいるかもしれなかった。


「よせよ、高坂」

「いや、何も変なこと言ってへんやろ」


 捕手志望の里見はいきなり輪を乱しかねない高坂に呆れたのか、溜め息を漏らす。投手志望の真柄は目もくれずゲームをしているが。


「今年の新入生からいち早くレギュラーの座に就くのは、少なくともこの四人の誰か。優先順位をつけて鍛えていく。素晴らしい方針やないですか」


 部室がシン、とした空気に包まれた。明らかに怒号が飛び交う前の執行猶予の時間であった。察知した朝比奈が堪らず耳を塞いだその数秒後、予想外の事態が起こった。


「……ふっ」

「ふふ、ははは」

「ダハハハハ!」


 怒号どころか、部室内は爆笑の渦に包まれたではないか。朝比奈達特待生はキョトンとするしかなかった。宣戦布告をされ、プライドを傷つけられた筈の上級生が、腹を抱えて笑い転げている。

 面白く感じたのか、ゲームをしていた真柄も真似をしている。


「な、何が可笑しいんや!」

「だは……すまんすまん」


 過度な笑いによって生み出された涙を人差指で拭きながら、畑山が謝罪する。


「いやいや……お前は知らされてないから無理ないよな、そりゃ」

「は?何をですか」

「監督が本当に欲しかったのは、お前ら四人じゃないらしいぞ」

「何やと!」


 座っていた里見と朝比奈も思わず立ち上がる。特待生以上に優れた、望まれる人材など、新入生の中にいるわけがない!

 ……真柄は相変わらずゲームを続けている。


「一体誰ですか!」

「誰って……誰だっけ?」

「俺忘れた。武丸だっけ?」

「そんな名前の奴いなかったぞ。卍丸とか?」


 そのあまりに適当な発言のせいで、また室内に爆笑が生まれた。高坂は茫然として立ち尽くしている。


「まぁ、今日はロッカーが人数分無かったから名目上だけ特待生を優先させたらしいからな。あまり浮かれるなよ、一年」


 他に最優秀選手がいると言うのか。その疑問の先に、朝比奈は成田の顔を思い浮かべた。


「すいません、お先に失礼します」

「おう、お疲れ」


 朝比奈は急いで成田に話を聞きに行った。

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