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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
一年夏 ――小笠原の章――
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4回:4人の特待生

「朝比奈、芯太郎!グラウンド行こうぜ!」


 放課後になり、物真似が得意な伊集院がはしゃぎ始めた。早く新しい『職場』となるグラウンドへ行きたいのである。


「そうだな。芯太郎、ライン大体交換し終わったか?」

「まぁ、俺にはほとんど話しかけてこなかったから、別にいいよ」


 確かに自分に比べて芯太郎に話しかけるクラスメイトは少なかった様に思えた。こういう性分なのか、慣れているのか、芯太郎もサバサバしている。


「結構いるなぁ」


 野球部志望の新入生はグラウンドに集合が懸かった。集まったのは総勢三十二人。おおかた、朝比奈の予想通りの人数となった。


「おまたせ」


 芯太郎も着替えて現れたが……。


「し、芯太郎! バンダナ取らなくていいのか?」


 朝比奈は芯太郎が、バンダナの上から野球帽をかぶっている事に気づいた。黒い野球帽の影から飛び出している青色が、ちょっと格好いいとすら思ってしまう。が、厳格な野球部の中にあってこの格好は不味い。


「さすがにヤバイだろうそれは」

「壇ノ浦先生がいいって……」

「え~? それ本当かよ? あ、その先生が来たぞ」


 身長は175センチぐらいだろうか。忘れもしない、朝比奈の家にスカウトに来た、壇ノ浦監督その人だった。サングラスをかけて、常に表情を見せないのが壇ノ浦スタイルである。


「新入生諸君。よく来てくれた。監督の壇ノ浦だ」


 サングラスが紫外線を弾きながら、壇ノ浦監督の話が始まった。これから三年間の上司となる男。特待生とは言え、芯太郎も上下関係は重んじなければならない。表情筋が緊張する。


「コーチの屋島だ。よろしく頼む」


 如何にも古風で厳格そうなコーチを紹介された後、自己紹介が始まった。


「南東中出身、伊集院秀喜です!趣味はテレビゲームと漫画、特技は物真似です!ポジションはファーストでした!」


 物真似は自分の中での鉄板ネタらしい。ここまでしつこいと朝比奈も少し興味がわいた。


「道半中出身、成田護です。ポジションは主に外野、内野なら三塁も出来ます」


 成田の自己紹介は淡々としていた。しかしその目線は既にグラウンドの状態を気にしているようだった。


「斎村芯太郎です。ポジションは外野です」


 芯太郎は何を考えているのか、出身すら言わない。またも五秒で自己紹介を終えた。

 そしてここからは、いよいよ特待生の紹介が始まる。


「神奈川出身、里見要次。ポジションはキャッチャーです。よろしく」

「福井出身、真柄忍。ピッチャーです~」

「滋賀出身、高坂新兵です。ポジションはサードと外野、特にセンターやっとりました。あ、投手も出来ますんで」

「公苑中出身、朝比奈通。ショートやってました」


 朝比奈以外の三人は出身地方しか言わなかった。全国に出場した学校名を出さなくとも、この後実力で圧倒できるという自信がありありと見える。朝比奈は身震いを起こした。


「公苑中出身、片倉舞子です。マネージャーとしてしっかり選手を支えていきたいと思います。よろしくお願いします!」


 女子マネの存在に、新入生達の顔が綻んでいく。


「結構可愛くね?」

「俺、狙ってみよっかな」


 その様子に、朝比奈は誰にも分からないように舌を打った。舞子の微笑ましい紹介も終わり、いよいよ練習が始まる。


「じゃあ畑山、任せたぞ」

「はい」


 現主将の三年、畑山に監督から発言権が移る。


「一年は基本的に今日は見学。ベンチ前に整列して見ておけ」


 あれ、と朝比奈は肩すかしを喰らった。練習のつもりで中学時代のユニフォームを着てきたのだが、今日は練習に混ぜてもらえないのだろうか?


「あ、特待生はすぐに練習に混ざってもらう。ユニフォームも着て来ている様だしな」


 そうこなくては。

 羨ましそうに見ている一般生徒や唯一の推薦枠である成田を尻目に、朝比奈達四人はグラウンドへ駆け出した。

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