21回:明日こそ本気出す
「1番、岡島」
「はい!」
秋季大会直前。智仁高校では、栄光の背番号授与式が始まっていた。選ばれる可能性のある特待生達は、心臓をエンジンの様に鳴らしながら待っている。真柄以外は。
「2番、里見」
「えっ」
「里見!」
「は、はい!」
選ばれると思っていなかったのか、焦りながら背番号を貰いに行く里見。謙虚な里見らしいや、と先輩が笑いものにしている。
その頃、神頼み体勢に入っていたのが朝比奈である。
「『あ』来い……『あ』、『あ』!」
その優れた動体視力で、最初の一文字を読み取ろうとする朝比奈。
「3番、『か』たおか」
「4番、『た』ぐち」
「5番、『し』ばはら」
次は6番、すなわち遊撃手のレギュラーナンバーである。
――来い、来い、来い~!
「『あ』」
逆にその瞬間だけ、朝比奈は眼を閉じて祈った。
「さひな」
「来たぁー!」
「返事をせんか! 朝比奈通、6番!」
「はい!」
あまりに恥知らずな朝比奈の挙動に大笑いが起こった。何にしても、一桁のレギュラーナンバーが貰えるのだ。小躍りしたくもなると言うもの。
「はい通ちゃん、おめでとう」
「お、おう!」
今までの五人は二年のマネージャーが渡していたのに、朝比奈の時は舞子が背番号を手渡した。朝比奈からしたら頭がフワフワして、舞い上がりそうな気持であった。
「七番、斎村」
「……はい」
「八番、高坂」
「はいな!」
この二人も順当に選ばれた。違いはどちらがレフトで、どちらがセンターかというだけだった。芯太郎の守備範囲なら、今大会はセンターを試すと言う事も有り得たのだが……。
「9番、真柄」
「……へ」
「返事をしろ! 真柄忍、背番号9! お前だよ」
「は、はい~」
10番(二番手投手がよくつける番号)だと思っていたのか、真柄は反応が遅かった。部員たちがざわつきはじめる。どうやらライトのポジションは正規の外野手ではなく、真柄になるらしかった。
投げない時はライトを守り、ピンチになればリリーフでマウンドに上がる。そういう起用法が部員たちの頭に浮かんだ。
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「おめでとう、朝比奈」
練習後、推薦入学の成田が声をかけてくる。
「お前もベンチ入りできて良かったじゃないか」
「はは……これでもレギュラー入り狙ってたんだけどな」
成田は背番号13を貰ったが、本人はライト……真柄が入るポジションのレギュラーを狙っていた。
「しょうがねぇよ。起用法の違いだ」
「分かってるって」
「成田君、お疲れさま!」
朝比奈と一緒に帰るために、舞子が合流する。
「マネージャー、お疲れ」
「良かったね、ベンチ入り」
「はは……君の彼氏ほどじゃないけど、俺も頑張るよ」
「「かれっ!?」」
「じゃあな朝比奈、また明日」
朝比奈と舞子は急な牽制球に動揺した。気が付けば、霧隠才蔵の様に成田は消え去っていた。
舞子は真っ赤な顔で取り繕う。
「な、なーに言ってんだろね! 彼氏……だなんて」
「あ、うん」
「帰ろっか!」
朝比奈は、9月に舞子に告白しようと決めていた。が、決断できないままズルズルと秋季大会まで来てしまった。
どこかで、ハッキリさせたい。そういう思いは確かにある。
ふと、まだ顔が火照っている舞子に目をやる。この魅了するような目、頬、口。好きだからこそ、魅力を感じるからこそ、二の足を踏んでしまっているのだ。
「……活躍したら、言おうかな」
「え、何!?」
「何でもない。帰ろうぜ」
帰り際、整備した筈のグラウンドで、他の特待生と芯太郎が守備練をしている姿が見えた。外野の練習が少なかった真柄に、コツを教えているらしかった。




