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左中間の悪魔 ―呪われた力で目指す甲子園―  作者: 大培燕
一年夏 ――小笠原の章――
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10回:物凄い打率

 真柄は運命の三球目を、同じ力加減で投げ込んだ。

 力のあるストレートが唸りをあげて、またもやど真ん中へ。

 そしてそれを、芯太郎の渾身のスイングが捉えた。


「打った!」

「やっぱりこいつは!」


 インパクトの瞬間、実力者達は目を疑った。


「あれ……?」


 金属音と共に、打球がグングンと、空高く舞い上がり……。

 入った。真柄の良くほぐされたグラブの、深いポケットに。


「アウト~」


 ピッチャーフライ。捕球し終わった真柄が、マウンドから降りてくる。


「おい……」

「朝比奈、待て!」


 朝比奈が先程のリプレイの様に芯太郎に近づき、胸倉を締め上げる。


「典型的なドアスイングじゃねぇか!ふざけんな!」

「痛い、痛いって朝比奈!」


 ドアスイングとは、さながらドアを開けるように腕の伸び切った、遠回りのスイングの事である。要するに目を疑うような下手なスイングを芯太郎は見せてしまったのだ。


「だから言ったのに……く、苦し……」

「落ち着けって! おい!」


 高坂と里見が二人掛かりで朝比奈を引きはがす。


「参考までに聞きたいが芯太郎」

「え?」


 怯える芯太郎に里見もまた、困惑しながら尋ねる。


「打率は?」

「だりつ?」

「お前の打率だよ、シニア時代の」


 理解した芯太郎が、モジモジしながら回答する。


「……わり八分」

「は?」

「一割八分」


 里見、そしてその場の全員が耳を疑った。

 一割八分。数字ほど、悪いと言い切れる打率ではない。十回打席に立てば、一回はヒットを打てるという事なのだから。

 しかし、先ほどのドアスイングを見て、その一割八分の内訳は容易に想像できた。

 十回に一回、ラッキーな『内野安打』か『ポテンヒット』。

 各々の目に失望の色が浮かんだ。


「ありえへんわ……あの監督、アホとしか思えん」

「笑えない冗談だな。帰る」


 里見と高坂の二人は呆れかえり、足早にグラウンドを後にする。朝比奈はあまりに理不尽なメンバー選定に絶望し、その場から動けなくなってしまった。芯太郎も溜息をつきながら、やはり泣きそうな顔で帰り支度をはじめた。


「ね~、もう俺投げなくていいの?」


 取り残された真柄が朝比奈の肩を掴み、揺さぶって遊んでいる。


「ねぇわ……これはねぇわ」


 されるがままに左右に揺さぶられながら、朝比奈は天にこの非道を訴え続けた。

 しかし、朝比奈が何を言おうとベンチ入りのメンバーは決定事項なのである。ベンチ入りは真柄と芯太郎。少なくとも春季大会はこの布陣で動かない。

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