直人との出会い
学校という場所は僕らにとって一つの社会であり、大人たちが生きる社会とよく似ている。
使う人間、使われる人間。
頭を使う人間、体を使う人間。
細かく比べていくと違う部分もあるのだが、強者と弱者で成り立っているという根本的な部分は同じだ。
大人の社会は”立場”が分かりやすい。
肩書きがあるからだ。
係長、課長、部長、副社長、社長、会長。
他にも色々なものがあるんだと思う。
係長よりも社長の方がエライという事実は社会とは程遠い小さな子供ですら既に理解しているのではないだろうか。
けど、僕らの社会の”立場”というものは非常に分かりにくく、外の人間が一目で分かるようになっていない。
例えば、僕と彼。
外から見ればどちらも同じ高校生だ。
しかし、内側から見ると僕らはまるで違う。
彼は”強者”で僕は”弱者”だ。
誰が決めたわけでもないが、僕らの社会ではそれは誰もが認めていることだ。
僕らの社会に立場を明らかにするようなシステムは今のところまだ存在していない。
僕と彼の立場を決めているのは本人を含めた周囲の人間の認識だ。
それはとても原始的なものだが何よりも強力でそう簡単に変わるようなものではない。
周囲の人間が彼を”強者”としたのか、あるいは彼が周囲の人間に自分が”強者”であると認めさせたのか。
どちらにせよこの事実は変わらない。
そして僕が”弱者”であることも。
彼の名は田中 直人。
僕らの世界に君臨する絶対的強者。
言うなれば王のようなものだ。
王といっても現代の”象徴”として存在するものではなく、歴史の教科書に出てくるような絶対的権力者として存在する王だ。
白を黒と言えば黒になるし、右を左だと言えば右は左になる。
彼の発言がこの世界のルールだ。