出発
「あんちゃん!!あんたあのクソ野郎をぶっ飛ばしてくれるんだろぅ??金は幾らでもくれてやる。だから...うちの娘を...うちの娘を助けてくれよぉぉぉぉぉ!!!」
いや...俺は知っているか?と質問しただけなんだけど......
40ぐらいの男の目は涙で溢れ、心なしか目の下にクマが出来てしまっている。
恐らく、何日も寝ていないのだろう。
服装もヨレヨレのシャツでもはや見るに堪えない姿と化している。
これが......娘を失った父親の姿なんだと思うと同情してしまう。
「オッさんとこの娘に何があったんだ......?」
「最近巷で噂だったんだよ。大層女好きの高校生くらいの男が村で女を攫ってるってな。」
えっ......この主人公そんな事やってんの?最早、それ敵のやり口で主人公がそんな事やるのか?
と、疑問を隠せない。
「おれは最初他人事のように聞いていたんだが、つい1週間前にそいつががうちの村に現れたんだ......」
「名前はなんて言うんだ?」
「たしか......名前はジハードだったかな。」
「ジハード......」
「そいつは、高校生で異世界から転生した男と言っていたらしい。ただの高校生ならぶん殴ってでも、娘を攫うのを防ぐ所なんだが奴は、刃向かった男達に空から雷を降らせて大人達を黙らせたんだ......」
「異世界から転生してきた男......」
その情報が、正しいのなら俺が探している男はジハードと名乗る男でまちがいないのだろう。
とりあえず的は絞り込んだ。
「そうして奴は村のかわいい子だけ集めて村を去ったのだ。逆らったら雷を身体の近くに降らせて威嚇しつつ......」
「うちの......カエデが......可愛い可愛い世界に1人だけしかいないカエデがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男は再び酒を一気飲みしつつ、叫び出す。男はまた嫌な事を無理やり忘れようとしているのかどんどん酒のペースが増している。
これではもはや使い物にならないだろう。
どうやら、娘はカエデと言うらしい。
しかし、俺は主人公をぶっ飛ばすだけが目的だ。
人助けをしに、この世界にやってきたわけじゃない。
「悪いけど......俺はジハードをぶっ飛ばしはするがそんな女の事は......」
「この子かうちの子だ。頼む!頼むよ!うちの娘を救ってクレェェェェェェ!!!」
男は半ば強引に写真を手ににぎらせた。
俺は、すぐに男に押し返そうとした刹那、写真に写った女の子が目に入る。
「か......かわえぇぇ......」
今まで、どれほどかわいいと感じた女優なんかとは比べ物にならないほどのかわいさだった。
モデルの様なスレンダーな体型。
髪は綺麗な黒色でサラッとしていて
目は宝石の様に輝き少し幼い顔立ちが保護欲をくすぶられる。
胸は少し小ぶりだがまさに抜群のプロモーションだ。
「助けてくれるなら、娘を将来の嫁に迎えてくれたって構わない。あんた程の優しくて、顔もそこそこイケている男なら文句なんてない。だから......だから!!!」
「どこだ......?その男は何処にいる?」
男の顔は、まるで神様の慈悲が与えられたかのような満ち足りた顔に変貌する。
「やってくれるのか!!奴はこの先の道をまっすぐ歩いた所に見える家に住んでいるはずだ!!頼む!」
「後、嫁の件は結構だ。俺はただこの娘の笑う顔が見たいだけだ。」
所詮、俺はこの世界に存在してはならない身。
苦渋の選択だが俺はこの女の子と幸せになる訳にはいかない。
いや......いけない。
俺は一つ目の世界で満足するようでらいけないのだ。
......場所把握。
......志も出来た。
......準備は万端。
主人公をぶっ壊す準備は出来た。
俺は拳を力の限り握りしめ、決意を新たに店を飛び出す。
酒の匂いに、実際に飲んだわけではないが気持ちが昂ぶる。
今すぐにでも、 ぶちのめしてやりたい。
外に出ると夜の風が心地よく吹いていた。
この、門出を祝っているようだ。
「さぁ、始めるかよ。異世界壊しにさ。」