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酒場


その時、時空がグニャリと音を立てて曲がる。

身体は粒子レベルまで分解され、分裂し、塵芥なく消えていく。

脳細胞まで溶かされている感覚に、吐き気を催してしまいそうになる。

そして..そこからの俺の意識は気絶するように無くなった。


....ー....ー...ー...



「......ここはどこ?」


知らない街並み、知らない人の群れ。

何一つが違和感しか感じない。

どうやら賑わっている街のど真ん中に召喚されたのであろうと推測する。

そうでなければ、この人の群れに説明がつかない。


......そうか。ここが異世界なのか。

先ほどまでの出来事が走馬灯の様に呼び起こされる。


俺は、ハーレム主人公をボコボコにする為にこの世界に召喚されたんだ。


......とは、いってもハーレム主人公とは一体誰のことか見当が付かない。

この有象無象の様に人の群れから一人の男を見つけると言うのは至難の技だ。

あの、神様は俺に何一つ情報を渡さないで勝手に異世界に飛ばしたからな。

だが、ハーレムを創設して暴れまわっているなら噂ぐらいにはなっているのではないか。


まずは、聞き込みから開始しよう。

街にすれ違う人達は、皆それぞれの目的があるのだろう。

この人混みの中でも必死にかき分けて前に進んでいる。

とてもじゃないが、聞いてもいい返事も貰えるとは思えない。


それに、なにより俺は人混みが苦手だ。

田舎ではないが決して都会ではない街に生まれた事も原因して人混みに慣れてないため、耐性が欠如しているためだ。


できるだけ、聞き込みは人だかりがない場所で行いたい。

それほどの人は多くなく、誰もが気軽に話してくれる場所......


そんな、場所が存在したら......


「......あっ。閃いた。」


しかし、今すぐその場所に向かっても仕方がない。

俺は、おとなしくこのまま時間が経つのを眺める事にした。


...ー...ー...ー...


辺りはもうすっかり暗くなり、人込みも昼までの事が嘘の様に閑散としていた。

辺りには、宿屋などの店が光を灯している以外はすっかりと暗くなって、自分の目では足元の靴すら確認することは不可能だった。

時刻は夜の9時を過ぎる頃。

表の商店街は店を閉め、人の気配すらなくなっていたが、その通りを三本程抜けると、 昼間とは打って変わって活気づいている通りがあった。


そう、俗に言う酒場通りだ。

酒場のような場所は、仕事の疲れを晴らすべく酒を飲んで思い出話などを語る場だ。

ここなら、自分の話をしたがっている連中ばかりだ。

最近調子づいてるハーレム主人公の事を尋ねたら、恐らく有益な情報が見つかるだろう。

生憎、俺はまだ大学の1回生だからギリギリ酒は飲めないが話を聞くくらいならできる。


この通りは、どうやら全ての店が酒場のようだ。

どの店も活気に満ち溢れていて笑い声が外に漏れてるほどだ。


俺は、その中でも一際大きい笑い声が聞こえる中央の大きな酒場が目に入った。


「....よし、入ってみるか。」


まだ酒場どころか、居酒屋にすら入った事のないからか緊張は隠せないが入ってみない事には、いつまで経っても情報が入る訳ではない。


ドアにはベルが付いていて、開くとチリンチリンと軽快な音を鳴らす。


そこは......別世界が広がっていた。


広く独特な雰囲気を醸し出す店内にはテーブルやカウンターに所狭しと人が酒を飲んで笑いあっていた。


「さて......主人公を知ってそうな人いるかな......?」


聞き込みで重要なのは、手当たり次第尋ねる事ではない。

話してくれそう、もしくは知っていそうな人を見分ける事だ。

駅前などでティッシュを配るお姉さんだって、まだ判別もつかないような幼い子相手にティッシュを配ったりなどしない。


探していると大勢の笑い声の中、カウンターで一人明らかに異質な男を見つけた。


年齢は.....40ぐらいだろうか。ビールジョッキを片手に顔をカウンターに乗せて、奇声の様な声を上げて店主に絡んでいる男を発見した。


「こいつは......どうなんだ?」


思索する。もしかしたら、物語の重大な人物を担う男なのかもしれない。

あるいは、ただの酔っ払いで話も通じない可能性もある。

だが、俺はこの男の呑み方が酒に溺れているというよりは酒に縋っている様に見えた。


勇気を出して、俺は男の前に近づく。


「......酒くさっ!」


男に近づくとその酒のアルコールの匂いに思わず鼻をつまむ。

呑みすぎた影響か、身体に染み付いてしまっている様な匂いだ。


だが、俺は鼻をつまみながら男の横のカウンターの席に座る。

他の席は人で溢れかえっているのにここの周辺だけは人一人すらいない。

......理由はわからなくはないが。


「この世界に、たいそうモテて片手間に魔物倒しているやつがいると聞く。心当たりはないか......?」


その時、先ほどまで酒のことしか頭になさそうだった男の身体がピタっと止まる。

隣に座っても見向きすらしなかった男がゆっくりとこちらに顔を向かせる。

酒で頬を赤らめていた顔に、たちまち涙が滝のように零れ落ちた。


「あんちゃん......うちの娘を......うちの娘を助けてくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」




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