冒険の始まり
序章終了です。いよいよ本編です
「やぁ、気がついた?」
頭がヒビが入ったような痛さを感じる。
二日酔いした後の朝はこれほどの苦痛を味わうのだろうかと思うと俺は二十歳を超えても、お酒は飲まないと決意する。
声が頭に直接響いてくるようだ。
直前までの記憶が完全に抜け落ちている。
自分に一体、今日は何があったのだろうか。
何やら大切な事があった気がするが頭痛でそれどころではなかった。
「頭....イテェ」
「まぁ、君は一度死んだからね。時期に回復するよ」
そうか....俺は死んだのか。
そう、言われてみると確かに直前まで自分の身体をトラックが踏み潰した記憶があるような。
悪い夢と思っていたが、どうやらそうではなく、これは現....実????
「えっ!!?俺死んだの!!?」
「そうだよ、君は死んだんだよ。だけど僕が命を救ってあげたんだ。感謝してくれよ」
「あ..ありがとう。それでお前は誰?」
よく分からないけど感謝されるようなことをされたなら感謝しなくてはならない。
例え、相手が全く顔見知りではない女の子だとしても。
「まぁ、僕はこの世界で広く使われる所でいうと神様と呼ばれる存在かな?」
自分のことを神様と名乗る女の子は確かに普通の人間だとは思えない程の可愛さだ。
頭に天使の輪っかの様なものを付けて服装は白を基調とした清楚なワンピース。綺麗な黒髪をしていて胸もそこそこ大きい。
この世に神様と言われる者が存在するならまさにこの女の子だろうと思える程の完成度の高いコスプレだ。
「なるほど。神様のコスプレか!写真撮らせて!!」
「....この僕をコスプレ呼ばわりだと......?よかろう、神様にとっては性別や背格好など些細な問題であるという証拠を見せよう。」
神様は、クルッと身体を1回転させた。
白いワンピースがヒラリと舞ってパンツが見せそうだったから必死に下のアングルから凝視していたが、残念ながら絶対領域という壁が立ち塞がった。
「ち..ちくしょう....」
俺は思わず地面に座り込んで倒れこんだ。
この見えそうで見えないライン。
その先には、一体どんな桃源郷が広がっているのだろうか。
「おいおい!僕を見たまえ!!」
顔を上げるとそこにはプロレスラーも真っ青な筋骨隆々なムキムキなレスラーが立っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あの天使の子をどこにやった!!?」
「だから、それは僕さ。いくら見た目を変えられる人までいても完璧に性別まで変えられる人はいないだろう?これが神様だっていう証拠さ」
見た目だけでなく、声も野太く渋い声に変わっている。
幾ら変幻自在に声を変えられる人でもここまで声を変えることは不可能と言っていいだろう。
「じゃあ....本当に神様なの????後、元の姿に戻ってください。お願いします。」
「しょうがないなぁ..大体周りを見たまえよ。君がいつも見てる風景かい?」
神様が一回転すると先ほでの可愛いい天使の様な神様に再び戻った。
俺は、辺りを見回す。
辺りには一面に雲が広がっていた。
俺が先ほど地面だと思っていた足元を確認するとよく見たら柔らかい。
俺は地面を手で掬うとまるで綿菓子の様にふわりと雲が浮かぶ。
「......ここどこ??」
「ここは、まぁ君たちで言う所の天界さ。大体異世界に旅立つ前の冒険者は一度ここに集めている。」
異世界....?その、単語に違和感の様な引っかかりを感じる。
その単語を聞くだけで憎悪が滲み出して来そうだ。
一体何故だ....?
俺は、一旦呼吸を整え冷静になる。
....そうだ。
「疾風の野郎が死んでたと思ったら異世界に飛ばされて女の子とイチャコラしてたんだ....」
何故、こんな衝撃だった事件を忘れていたとはトラックに轢かれた衝撃はよほどのものと見える。
「....それだよ。その気持ちだよ。だから、僕は君を生き返らせたんだ。」
..??神様が言っている事が全くもって理解不能だ。
「俺が知っている神様っていうのは、主人公を異世界に送り出してくれる人じゃないのか?」
ほとんどのアニメ、マンガ、小説では神様と言うのは主人公を異世界に飛ばすことはあっても、まさかこれ程までに異世界を憎んでいる人を選ぶとは到底思えない。
「よく知っているね。僕の行動がまさか現世で知れ渡っているとは想定外だよ。」
「いや、もうそれはジャパニーズ娯楽文化の進化ってやつだよ」
日本の文化というのは神様の行動までも判明しているというのだ。
恐るべし、日本という国であろう。
「いつもならもちろんそうなんだけどねぇ..最近増えてるんだよ。全く冒険しないとひたすら力を盾に女の子とイチャイチャしているだけのダメダメな異世界転生者がさ。」
確かに、最近のそういう主人公は増えてきているのだろう。
これ程までに異世界転生者が増えたら何人かそういう主人公が現れても確かにおかしくはない。
「そこで、君が選ばれたのさ!僕が知っている中で君ほど異世界に憎悪を向けているものはいない!まるで、親が殺された程だ!!!君ほど適任だった男はいないんだよ!」
神様の言っている事がイマイチ理解できない。
俺が、異世界を憎んでいることが何が関係あるのだろう。
「つまり..俺は何をやればいいのだ!」
「いいかい、君には僕から主人公補正を受けた能力や武器を無効化する能力、 主人公撲殺を授けよう!!これで君は堕落し腐りきった主人公共をボコボコにして欲しいんだ!!!」
主.. 主人公撲殺???
何と響きのいい言葉であろうか。
俺はそのスキルを武器に腐りきった主人公をボコボコにしてもいいという高揚感に胸が張り裂けそうだ。
「俺にやらせてくれ!!!」
願ってもない話だ。
異世界に蔓延るクソ主人公共に、八つ当たり...ゲフンゲフン。天誅を与えるチャンスがやって来たのだ。
「君なら、そう言ってくれると思ったよ。それと剣道をやっていたらしいし普通のショートソードと言われる剣はプレゼントしておくよ。是非有効活用してくれ」
俺の、この長年にわたる努力が報われる時がついに来たのか。
剣道を長年嗜んでいる者には敵わないとしても、相手は恐らくゲーム中毒のヒキニートみたいな奴が能力を手にして暴れているような奴らばかりだ。
剣など使わず多少、強かった喧嘩だけでも勝てる自信はある。
「ひとまず、ボコボコにしたら上を見上げて、帰る!と叫んでくれ。それで君は元の世界に戻れるさ。..では、腐った異世界を存分にぶっ壊してくれ!!」
いよいよ、始まるのだ。
俺の壮絶な八つ当たりの冒険が幕を開ける。