怒り
「あれ???もしかして、一樹君?」
俺が、疾風と認識した男はこちらの存在を確認すると一目散に駆け出してきた。
「もしかして..........疾風???」
直感で、疾風だと思ってしまった男に半信半疑で尋ねる。
疾風は、あの時確かに目の前でトラックに轢かれる事を確認している。
幾ら疲れていたといってもあれほど大きな事件を間違えるはずがないだろう。
確かに、あの時疾風という男はこの世からいなくなったはずなのだ。
それに....俺が一目で分かったのが奇跡と思える程風貌が変わっている。
あの、七三分けだった髪の毛は逆立っていて金髪に変わり服装も殴ったらこっちがダメージを受けそうな程硬そうな鎧に変わっている。
身長も伸びていてそしてなによりも変わっていたのはあの愛用していた丸メガネがグラサンへと変貌しているのだ。
ここまで変わった人間を同一人物だと認識したのはやはり親友だったからか。
雷に撃たれた様な衝撃を受けて頭が真っ白になった俺を引き連れるかのように近くの喫茶店へと導くのであった。
この喫茶店は昔、高校生だった頃、剣道の帰りによく通った喫茶店だ。
疲れた身体にコーヒー2杯でよく粘ったものだ。
疾風が死んでからは、バッタリと訪れるのを辞めた店だったが、どうやら店員は変わってないらしい。
高校生の時に、よく受付にいた女性の店員は少しも変わっていなかった。
高校生の時の楽しかった日々を懐古していると少しも変わっていない女性の店員に席を案内された。コーヒーの芳ばしい匂いが店一面に広がっている。
「僕が奢るよ。なんでも好きなもの頼んでよ」
「え???今日俺って誕生日だったか?」
「そんなんじゃないよ。久々の再会を祝してさ」
そもそも疾風は誕生日の日でも奢ってもらった記憶すらない。
そんな男が奢ると発言した事に違和感しか感じないが、奢られるに越したことはない。
「なら、お言葉に甘えるわ」
俺は、ボタンを押してベルを鳴らして店員を呼び出す。
ピンポーン、と軽快な音が店に響き渡る。
俺は、コーヒーを1杯注文した。
数分程で、コーヒーはテーブルに置かれた。
テーブルにコーヒーの薫りが広がる。
俺は、コーヒーはまず匂いを楽しむタイプだ。
コーヒーの独特の匂いを鼻で味わってからゆっくりとコーヒーに口をつける。
「その癖、高校から変わってないよね。」
「馬鹿野郎。コーヒーは匂いを楽しむのが王道で本来の愉しみ方だ。」
うん、実に美味。高校の時から全く味が変わっていない。
俺の心までも温めてくれるこの感覚は忘れようには忘れられない。
「じゃあ、本題に入ろうか。僕が何故ここにいるかって事だよね」
「あの時、俺は確かにお前がトラックに轢かれたのを確認した。....何故?」
「それは、簡単だよ。僕はあの後異世界転生したからだよ」
...................は????
頭の中が疑問で埋め尽くされる。
確かに、異世界転生なんて物は最近良くマンガやアニメや小説などで頻繁に目にするが現実に起こるなんて一体誰が思うのだろうか。
「僕は、あのトラックに轢かれた後神様に命を救ってもらったんだ。その後、異世界に行ってくれと言われ神様からスキルを授かり僕は異世界に飛ばされた。」
「そのスキルは??」
スキルと言っても多種多様な種類が存在する。
中には使えなさそうなスキルだったり見るからに強そうなスキルを貰ったりする。
まぁ、全部本とかの受け売りだけど。
「シンプルかつベスト。 身体覚醒。身体能力を2,000倍まで強化する能力だったかな?」
に...2,000!!?
俺はその数字の桁に驚愕を隠せるはずがなかった。
せっかく味わっていたコーヒーを思わず吹き出してしまった。
「まぁ、指パッチン一つで軽く船ぐらいなら吹き飛ばす程度かな?」
俺は、両手で頬をつねる。
......よし、痛い。
確認終了。後は現実を受け入れるだけだ。
「さすがにこの世界では使えないけどね。世界を救ったお詫びに神様かは現世に戻る能力をくれたんだ。....そうだ!僕の部屋に来てよ。ちょうど異世界の子が来てるからさ!」
俺は、コーヒーを一気飲みしてそのまま連れられるまま店を後にした。
..正直、あんだけ美味と感じていたコーヒーの味も全く思い出す事は出来なかった。
同じ小さな剣道道場に通う程だ。
俺の家から歩いても5分かかるか程度の所に疾風の家はある。
高校生以来訪れた事はなかった家であったが今でもはっきりと疾風の家は思い出せる。
疾風は、インターフォンを鳴らし家に入っていった。
疾風の家は大きすぎず、小さすぎやいごく一般的な一軒家であった。
俺も、疾風の後に続いて家にお邪魔する事にした。
「お邪魔しまーす....」
玄関で靴を整えた後、疾風の部屋に案内される。
そこには....そこには....
とびっきりの美少女が三人もこの部屋にいたのであった。
「ハヤテー!!遅いよー」
「いやー、ごめんごめん。昔の友達に会ってね」
「みんな心配してたんだよー。ハヤテまだかなーって!」
なんだ....なんだこの状況。
俺はもう混乱で脳みそが沸騰してしまいそうだ。
そんな混乱で完全にショートしてしまった俺に構うことなくたわいもない話を交わした後、思い出したかのように俺の方を向きなおし....
「あっ!紹介するね。このピンク色の女の子がサツキ。」
「サツキです。ハヤテは私のダーリンです♡」
サツキと名乗った女の子は、ピンク色の髪の毛をしていてきめ細やかな肌に胸は大きいのにそれでいてしっかりお腹にくびれができている。
人形のような顔立ちをしていて、こちらの視線が自然と目に入ってしまう魅力が感じられる。
「ハイハイ!次は私!私の名前はカエデ。ハヤテは私のダーリンにしてあげてもいいわよ?♡」
カエデと名乗る子は金色の綺麗な髪をしている所謂お嬢様タイプだ。
胸は少し残念だがスラッとしていてファッションモデルと勘違いしてしまいそうなほどのスタイルだ。
「最後は私ですぅ....私はユウカです....将来の旦那さんはハヤテさんです....!」
ユウカと名乗る女の子は、他の二人と比べて引っ込み思案なのだろう。
背は二人と比べて低めだがあどけない可愛らしさがあり思わず愛玩してしまいたくなる魅力があった。
「もう、みんなぁ....友達の前だから恥ずかしいからやめてよう....」
「いいえ!これだけは譲れません。」
....説明しよう。
俺はこの後、2、3時間に渡って疾風がいかに異世界でハーレムしているかだけを永遠と見せつけられたのだ。
そして、脱力し全ての気力を奪われた後、ハヤテwithハーレム要因に見送られて家に帰宅した。
女は、強い男に惹かれるというのは世の中の心理なのであろう。
指パッチンで船を吹き飛ばすほどの男に、もし自分の事を襲ってきた不良でもボコボコにしてたら惚れていってしまうと言うシステムなのであろう。
俺は、唯一の親友を失った時壮絶な悲しみを味わった。
もし、どこかでいきていたらとは何度願ったことだろう。
....だが....だが...........
この怒りは晴らせそうにない。
一樹は激怒を通り越して殺意が芽生えた。
そりゃ至極当然の事だ。
別にハーレム作ったことが悪い訳ではない。悪い訳ではない。悪い訳ではない。
大事な事なので3回言いました。
決して裏山...羨ましい訳ではない。羨ましい訳ではない。羨ましい訳ではない。
大事な事なので3回いいました。
友人の事を悲しんでいた俺とは違う世界で疾風は壮絶なイメチェンをする程ハーレムして無双して異世界をenjoyしていたわけだ。
許せない......許せない......
この怒りをどこにぶつけようかとフラフラしていると、俺は目の前から走ってきているトラックに気づく事が出来ず轢かれた。