異世界アンチ
まだ、この時点では何もわからないと思います...(笑)
あるサイトでは最近、有象無象に大量生産されているジャンルに異世界転生なんてものがある。
ある日、主人公が唐突に死んでそのまま神様に拾われて異世界でチート能力を使ってハーレムを創設するという最早テンプレ化するまでに根強い人気があるジャンルだ。
ちなみに、俺はこのジャンルが嫌いだ。
親でも殺されたぐらいの勢いで嫌いだ。
小説を読んでいてこのジャンルだと分かった瞬間、電光石火のごとく閉じるくらいには嫌いだ。
勿論、俺が異世界転生が嫌いなのには理由がある。
ただ、単純に面白くないとかそういうベクトルで話しているわけではないのだ。
......ここで、俺と一人の友人の話をしよう。
俺の名前は、 君島一樹。
現在、大学生の一人の何の能力がある訳でもないただの一般人だ。
そんな俺が高校生の時の話だ。
俺は幼い頃から喧嘩が強かった。
そこらへんのヤンキーなら2人がかりでかかって来ても勝てる自信はある。
三人は無理だけど。
その、影響で事あるごとに喧嘩していた。
そんな、なにかあったらすぐ暴力振るうような奴に近づこうとする者なんているはずがない。
うわっ..一樹だ..逃げようぜ...
俺を揶揄する声がヒソヒソと上がる。
俺が、その声に振り返ると脱兎の如く相手は逃げ出す。
....そんな俺にも唯一得意なものがあった。
..........剣の道。正確に言うと剣道塾だ。
俺の家の近くには一つの小さな剣道塾があった。
俺は小学生の頃から剣道の塾にかかさず、週2日その道場には必ず練習に行っていた。
学校なんてものをサボってもそれだけは週2日かかさず通っていた。
県内上位とかなど、並外れた実力がある訳でもなかったがそれでも塾の平均よりはうまかった自信はある。
その剣道塾に通う、同級生。
同じ学校に通い、同じクラスで同じ道場。
その男は、風岡疾風。
如何にも運動がダメそうなもやしみたいな身体で髪は七三分け、ファッション性の欠片もなく丸メガネを愛用していた、所謂非リア充という奴だ。
当然、友達も多い方ではなさそうでいつも、教室の窓際の席に一人でいるような男であった。
不良だった俺と、根暗な疾風。
普通なら決して交わることはない二人のぼっちであったが、同じ剣道をやっていたという事で俺の中で疾風は親友とも呼べる存在になっていた。
疾風の剣道の剣捌きはお世辞にも良いとは言えない腕前であった。
毎回、俺から一本も取れないのにヘラヘラと笑うんだ。
強く当たってもヘラヘラと笑う姿が俺の支えになっていたのかもしれないと今なら言える。
そんな時、高校二年生の夏に事件は起きる。
猛暑の中、夏季の大会が行われることが決定した。
疾風は相変わらず一回戦敗退、俺は三回戦で敗北した。
特段、悔しかった訳でもない。
所詮、凡人ではその程度の実力しか出ないから。
幼い頃から幾ら剣を振るっても、才能という高く遮る壁の前には通用がしなかった。
そして、その帰り道俺たちは大会終わりで疲労が限界まで達していたのかもしれない。
フラフラとおぼつかない足取りで自宅で休息を取ろうと道場仲間と帰宅していた最中信号が赤なのに疾風はフラフラと横断歩道を渡ろうとしたのだ。
トラックのクラクションが響き渡るも、気づいた時にはもう遅かった。
疾風は、トラックに轢かれたんだ。
辺り一面に血しぶきが染み渡る。
近くにいた人の悲鳴で俺たちの意識は現実へと引き戻された。
疾風が......死んだ???
人の命と言うのはこれ程までに脆いものなのか。
こんなに急に死んでしまうものなのか。
俺はその場で涙が溢れた。
普段、喧嘩をして泣かす事は有っても自分が泣く事なんて滅多になかった。
これが突然、友人を失う痛みなのか。
気が狂って血反吐を吐いてしまいそうだ。
突然、殺人事件が起きて大切な我が子を失ってしまう親の悲しみが今なら分かる気がした。
トラックの運転手は頭が真っ白になってその場でうな垂れていた。
やはり、向こうが飛び出した方が悪いとは言え人の命を奪ったんだ。
その、実感が運転手の表情に如実に現れていた。
俺は、ある意味被害者でもあるトラックの運転手に狂おしい程の殺意が芽生えた。
勿論、この運転手が悪いとは微塵も感じていない。
だが、許せない。
大切な友人の命を奪ったこの鉄の塊が許せない。
だが、俺にはどうすることもできない。
俺は涙をこぼすばかりだ。
自分が無力だと悟った瞬間であったのだ。
.........この事件は、ただ通行人が赤信号なのにトラックに突っ込んだだけという単純な事故ではなかったのだ。
何故なら、遺体が発見されていないからだ。
トラックが小さく脆い身体を潰した後、トラックをどかすと確かに血しぶきは水溜まりの如く起こっていたが肝心の遺体は幾ら捜査しても発見されることはなかった。
警察は深くは考えずただの交通事故として、取り扱った。
勿論、トラックの運転手は罪を被る事になったがそれは大した問題ではない。
事件が起こった当初は、大層騒がれた。学校でもクラスの多くの人や同じ道場の人たちも疾風の葬式に参列した。だが、所詮クラスの暗い男が一人いなくなった程度だ。
次第に皆は興味を無くしていくのであった。
しかし俺は、高二の間は絶対にその謎を解き明かそうと必死に推理していた。
だが、所詮はただの一般人。
特別な推理能力があったわけではないし解き明かした所でどうとなるわけではない。
俺も、もうその事件が随分遠い出来事になってしまった。
疾風を失い友達と呼べるものがいなくなったこと以外は何も変わらない生活を送っていた大学生の頃。
さすがにそろそろ不良ぶっていたことも卒業し、親友と呼べるような友達は出来なかったものの普通の友達と呼べるものも数人出来た。
そんな時、大学一年生になった俺。
サークルには、入らずバイトをしながら剣道の塾をこなしていた俺の目の前に現れたんだ。
成長した......疾風が。
だが、その成長はまさに異様といってもおかしくない変貌ぶりだったのであった。