193話『大切な居場所』レイ編
出掛ける前に契約から「早く帰ってきてね」って言われて、嬉しかったのを思い出す
早くお前の笑顔が見たいよ
本物のセリも契約のセリと同じようにオレだけを見てくれたら…なんて、願望から契約が生まれたわけだ
オレはフェイに協力して貰って、なんとか契約を救える方法がないかを探していた
そんな中、悪魔の契約について詳しい魔女がいる事を知った
ただ詳しいだけじゃなく、その契約を無効にする事も書き換える事も出来ると言う
半信半疑、それがどういうものかもわからないし、とにかく話を聞いてみて何か良い方法でも見つかればと思っての行動だ
「レイがここまで契約に夢中になるとは思いませんでした」
「別に夢中と言うわけでは…オレのせいで可哀想な運命を背負わせたなって責任を感じただけだ」
「そうですか?契約はレイの理想のセリ様でしょう?本物よりレイにとって都合が良い空想ですから夢中になってもおかしくないです」
こいつ…オレに本物のセリを諦めさせようとしてるな
本物のセリと契約のセリは違う
契約はオレの空想と願望がセリの中に理想として存在してるだけで、オレが悪魔と契約しなければ存在しなかった
オレが振り回したようなもの…
最初は冷たく突き放して、たくさん傷付けてしまったが
今はあの子を理解して受け入れた
セリも協力してくれてるし
「好きな人がやらかしたコトを一緒に背負わなきゃ、本当に好きって言えねぇよな」
ってセリに言われた時はやっぱりオレの好きな人だって変わらず命懸けて好きになった
今じゃ、セリと同じくらいセリを愛してるかもしれない
オレの理想だからか…可愛くて仕方ないんだ
本物のセリだって死ぬほど可愛いのに、それがオレにだけ一途とかたまらないだろ
「ふっ、オレの方がセリと仲が良いからって嫉妬しないでほしいな」
「何こいつ」
こんなでもフェイとは信頼し合ってる友人同士だ
少し前の激ヤバメンヘラなオレじゃ考えられないくらい器の広さ、成長してる証拠だ
まぁ…今もセリの事でメンヘラになる時もあるからたまに発動するぞ
死者の国から数日かけて噂の魔女を訪ねた
「悪魔の契約について聞きたいと」
ただの噂だと思っていたが本当に存在したとは、これまで何人か魔女を見た事はあるがその誰もが若い姿をしていた
だが、こちらの女性は年配の姿をした魔女だった
「信用出来そうだ」
「見た目で判断ですか?年上の方に安心する気持ちはわかりますけど」
オレとフェイは隣同士で座り、目の前のテーブルを挟み魔女は話を聞かせてくれと言う
テーブルの上にはタロットカードが並べられている
「恋愛のお悩みでしたかねぇ」
「そうなんです…とても悩んでいまして、好きな人に他にも男がいてオレだけのものにならないかって思っています
呪術か何かで呪い殺す事は可能か?」
それは大変ねぇと魔女はまずタロットで占ってくれる
「えっ…そんな話してましたっけ!?
呪術か何かでって、呪い殺すのは呪術だけですよね!?」
「特別にこの呪術を授けよう」
「ありがとうございます!!レビュー最高評価で書いておきます!!」
「それは私も入ってます!?私も呪い殺されたりするんですか!?」
フェイの必死な反応にちょっと笑う
あんたそんなキャラだったか?
お前がな!ってフェイに小突かれた
オレ達良いコンビだと思う
遠慮する、だそうだ
真面目に話聞くか、早く帰るって約束したしな
早く帰ってセリを抱き締めたい
「すみません、聞きたい事が」
魔女はタロットの手を止めて、オレの言葉を遮ってまで伝えてくれる
「大変よ…貴方…金髪の男前の貴方
大切なものを失うと言った結果が出ているわ」
大切なもの…その言葉に、何故か頭に過ったのは契約のセリだった
どうして…オレの大切なものは本物のセリのはずなのに
なんだか胸騒ぎがする…嫌な予感がする
「その…大切なもののために貴女に話を聞きに来ました」
「私で分かる事なら、貴方の力になりましょう」
親切な魔女はオレの話を真剣に親身に聞いてくれた
信頼してもあるが、オレは嫌な予感がして契約を助けたい気持ちから全てを話す
魔女が言った言葉はきっと未来の話だ
契約は長生き出来る存在じゃないと知っている
それを言い当てられただけ
今すぐではなくても、いつかは決めなくてはならない
オレが魂を奪われて契約成立して消えるか、大悪魔シンを倒して契約も消えるか
あの子の運命はどっちにしても…消える…死ぬ運命だけだ
それを阻止したい
もっと…一緒にいたいと思ったから
オレは本物のセリも契約のセリも、どちらも愛してる…どちらも幸せにする
セリごと愛して幸せにしてみせるから
「なるほど…珍しいタイプね
ここに来るお客様は皆さん悪魔の契約から逃れたい方々ばかりです
悪魔の契約と添い遂げたい方は貴方がはじめてね」
「そこまでは言ってないぞ!?」
「言ってました」
添い遂げたいって…そこまでは考えていなかった
本物のセリとは添い遂げたいと百年前から思っていたさ
でも契約のセリは……幸せにするなら、やっぱりそうなのか?
お前と添い遂げたいなんて言ったら…どんな顔をするだろうか…
「レイは好きになると結婚まで考えるタイプですよね」
「フェイはどうなんだ?中途半端な男にセリは渡せないな」
「私はセリ様の恋人になる事も和彦様に許されないのに、添い遂げるなんて無理な話でしょう」
それでよく大人しく言う事を聞いてるな…
いくら自分の主人でも…オレがフェイなら和彦さん殺してるぞ
フェイはフェイで大変だな……
「呪術……使うかい?」
「和彦様がそんなので何とかなると思います?
それに私は和彦様を慕っていますから」
むしろ和彦さんに弱点ってあるのか
「はっ!?忘れていたが、和彦さんはすでにセリにプロポーズしていてセリもそれを受けていた!?
オレもセリにプロポーズしなくては」
「この人まだ付き合ってもいないのに結婚出来ると思ってる所がメンヘラストーカーですよね
ストーカーは自分がストーカーだと気付かないみたいですよ」
「ストーカーする奴なんて最低じゃないか、被害者は相当怖い思いをしているだろうに…可哀想だ」
「お前だよ!?百年前から嫌われても追いかけて追い詰めて脅迫してるのレイだろ!?お前を殺してオレも死ぬとか典型のやつ!」
フェイは感情的になるとたまに口調が荒々しくなる、落ち着けよ
あんたも人の事言えるのか?寝取りフェチで無理矢理犯すのが好きで相手を痛めつけて興奮するヤバい奴にだけは言われたくない
本人にはこだわりがあって殴ったり蹴ったりはしないってなんか言ってたが、生爪剥がしたりするのは良いの意味がわからん
オレは決してストーカーではない、愛が重い事は認めるがストーカーではないぞ
「それほど大切に強く想うなら、方法はあるわ」
「本当ですか!?」
身を乗り出す勢いで次の言葉を待つ
半信半疑な噂だったが、こんな最初から引き当てるなんてツイてるぞ
「大悪魔から契約を譲渡して貰う事」
魔女の言葉はほぼ不可能に近い方法だった
方法があると聞いて期待しては、どん底に突き落とされた気分だ
シンから…契約を譲渡……
確かにそれならあの子を救えるかもしれない
しかし、あのシンが譲渡に応じる事はまずないだろう
「待ってください、それは不可能ではありませんか?
大悪魔がそんな簡単に譲渡してくれるとは思えません
大悪魔に何のメリットが?それこそ魂と引き換えにとなるなら、レイは死ぬ覚悟ですると?
それはセリ様も契約も望んでいません」
フェイの言う通り、オレが考えている事を魔女に話してくれる
魔女も頷き、不可能に近いがフェイの言う通り魂と引き換えで救えると
「納得いきません、それではレイの願いである添い遂げる事は叶わないですよね」
「フェイ…怒ってくれるのは嬉しいが、最初から簡単に上手くいくなんて都合が良い話なんてないんだ……
……ありがとうございました……
貴重なお話が聞けて感謝しています」
オレは絶望にも近い感覚だけを持って席を立つ
「またいつでもいらしてね
貴方達に幸運が訪れますように」
魔女は終始親身に相談に乗ってアドバイスもくれた
幸運か……タロットの結果も気になる所で不安な気持ちの方が大きいが
未来は幸せであるといいな…
魔女の家を出たフェイはまだ納得いかないとブツブツ文句を言いながらオレの隣を歩く
「何のためにここまで来たのかわかりません」
「そんなにフェイが怒る事か?オレの問題だぞ」
「よくわかりませんけど、何か腹立たしいのです!」
オレもフェイも友達がいなかったから、はじめて友達のために怒ると言う感情に戸惑っている
今まで知り合った魔女(キルラ関係)が変なのしかいなかったから、良い魔女もいると知って安心した
でも、魔女って事はさっきの人もまた悪魔と契約してる…していた経験があるって事なんだよな
「まさかレイは自分を犠牲にして契約を救うつもりじゃないでしょうね」
「それに意味はないと思っているから安心しろ
オレが死んであの子だけ生き残ってもずっと悲しませるだけ、不幸にさせるだけだ」
それじゃどうやって救えばいいんだ…
シンが譲渡してくれるとは思えない
「ダメ元でシンに掛け合ってみます?
お義父さん、息子さんをオレにください!とか頭下げて」
「結婚の挨拶か!!?」
「逆にそう言われたら、真剣に考えてくれるかもしれません」
「逆にシンが父親的存在なら絶対にやらんって怒るだろ!?」
「えーそうですか?どこの馬の骨かわからない男なら殺しますけど、レイは世界一のイケメンでお金も持ってるし一途だし強くて優しいし、これ以上ない完璧な男じゃないですか」
そんな褒めてくれるんだ…
フェイはセリ相手には小学生みたいな照れ隠しで天の邪鬼なのに、セリ以外だと割と素直に発言するよな
「メンヘラでストーカーなのに?」
「ストーカーの自覚あるじゃないですか」
しかし、フェイのダメ元でもってのは試す価値はありそうだ
オレは最初から無理だと決め付け諦めてしまっていた
結果はそうだとわかっていても、一度シンと話して反応を見てみる事に何か見出せるかもしれない
「挨拶……行くか
……変じゃないかい、オレ?」
「いつも男前なので大丈夫ですって
でも完璧すぎるので、ちょっと寝癖ついてるくらいの方が親近感わきますよ」
そう言ってフェイはオレの髪をいじろうと手を伸ばす
やめろ!!挨拶行くのに寝癖はマイナスポイントだろ
「早く行こう、シンに会って話をする
どう転ぶかはわからないが、早く帰ってやりたいんだ」
「帰った所でセリ様は香月様の所ですけどね
今頃香月様と仲良くやってるんじゃないですか」
「……帰ったら呪術で全員呪い殺す」
「私も含まれますか!?
って、香月様は呪いの類は無効でしたね」
無敵だった…
「まぁ香月さんと和彦さんの事は認めているし、オレはセリの全てを受け入れてるから余裕さ」
「めっちゃ呪術の紙握りしめて恐い顔してますけど…呪い殺す気満々の顔ですよ
私は認めていないんですか!?」
「フェイは後から出て来てなんかムカつく」
「私からすればレイの方が後から出て来たんですけどね!?」
いつも自分が先だって喧嘩する
シンと話をすると決めたオレとフェイは急いでタキヤの別荘へ向かった
あの弱り切ったシンがどこかに移動しているとは思えないから、行けば会えるハズ
オレは全力でシンを説得するつもりだ
無駄だとわかっていても、必ずお前を救ってやるからな…待ってろセリ
契約を譲渡させて、ずっと一緒にいたいって願いを叶えてやる
大悪魔シンのいるタキヤの別荘は女神結夢の国にある
そこに到着すると偶然天使に会って、オレ達の顔を見るなり大泣きした
「うわ…最悪……怖いから泣くのやめてもらっていいかい?」
フェイも天使の涙に怯えてる
オレもフェイも、天使が苦手だ
なんでかってのは天使の姿がセリにそっくりだからだ
セリは大人だけど、天使はまだ子供で
セリと関係を持ってるオレ達からすると、天使を見ただけで悪い事をしているような気分になって怖いんだ
オレ達は天使には一切そういう感情がないとしても、見た目がそっくりというのは恐ろしいんだよな
「レイ!フェイ!今までどこに行ってたの!?セリくんが行方不明になってから何日も経って……このまま見つからなかったら…どうしよう」
なんだって…?
オレもフェイも泣き止まない天使の言葉に全身の血の気が引いた
何日…も……行方不明…?
嘘だろう…?セリは香月さんのところにいて……
どうして行方不明なんかに…何があったんだ
「みんなで捜してるのに…
セリカちゃんは自分の居場所ならわかるのに、何日経ってもわからなくて」
違う…それは契約がずっと表に出てるからだ
そしたらセリカはセリの居場所がわからない
契約はそれに気付いて早くセリを表に出せ
なぜそうしない?契約は一体何を考えているんだ
「落ち着いてください天使
大丈夫です、セリカ様が生きているという事はセリ様もまだ生きています
いくら契約が表に出ているからと言っても、セリ様の身体が死ぬ時はセリカ様も死んでしまいますから
まずはどうしてこうなったのか詳しく教えてください」
フェイはオレより冷静だった
いや…フェイも冷静じゃない
オレより少しだけ冷静にいられるだけで…オレはずっと心配で頭が真っ白になる
強く握った自分の手が氷のように冷たい
天使から話を聞くと、タキヤと話し合いをするために契約と天使と女神結夢の3人でこの国に来ていたようだ
それで契約が1人でタキヤと話した後に行方不明になったという
「それって、タキヤが怪しいですよね
詰めましょう…私が吐かせます」
「和彦がタキヤと話したみたいだけど、だいごろうに引き渡した後の居場所はわからないって」
和彦さんなら信用できるな…タキヤの言ってる事は全部だが、それは何の解決にもならない
「だいごろうは?」
「見つかってない…」
「わかった、オレ達もだいごろうを捜しに行く」
オレがそう言うと天使は涙を溜めながら小さく頷いた
そんな天使の両肩を掴んで目線を合わせる
「天使…心配で寝てないんだな
それじゃ体調を崩すから、お前はしっかり休め」
天使は強く首を横に振る
「俺が悪いんだ……今のタキヤと話せばわかってくれるよって言って…なのに、こうなって……」
また天使の涙がポロポロとこぼれ落ちる
「……悪いのはお前じゃない
タキヤとだいごろうだ…いいから休め」
「そうですよ天使、貴方は悪くありません
行きましょうレイ、早くセリ様を見つけないと」
天使の肩から手を離してオレとフェイは国を出る
あぁは言っても天使はセリが見つかるまでずっとあの調子だろう、子供の天使には重すぎる可哀想に
「どこを捜しに?この数日、和彦様と香月様達が捜しても見つからないなら私達で見つけるのは不可能かもしれませんよ」
「わかっている
まずは一度死者の国に帰るぞ」
「そこにセリ様がいる心当たりが?」
「どこにいるかなんてわからないさ
死者の国に破魔の矢を取りに帰る
大悪魔シンを倒すのに使うつもりだったが、堕落した悪魔になり下がっただいごろうを倒すのに使う」
だいごろうが何もせずにセリを監禁しているとは思えない…
きっと酷いめに遭っているはずだ
早く見つけてやらないと…待っていろ、オレが必ず助けに駆けつけるから
オレを信じて待っていてくれ…セリ
破魔の矢を取りに行ってから、怪しいところは全て捜した
契約の居場所を大悪魔シンならわかるんじゃないかって最初の頃に会いに行ったが、あれはもう死にかけだ…虫の息で話もできなかった
悪魔だから死ねないだけで、それでも生きてると言えるか微妙だな
「見つかりませんね……セリ様、もう1ヶ月経ちますよ」
「うるさい…そんな事はわかっている…」
1ヶ月……1ヶ月だぞ!?
あの香月さんや和彦さんの力を持ってしても、何も…手かがりの1つも見つけ出せずにいるなんてありえない
苛立ちだけが募って…どうにかなりそうだ
オレはフェイに八つ当たりして……最低だ
それなのにフェイは受け流してくれた
いつものフェイならちょっとした事でも突っかかってくるのに…フェイだって余裕はないだろうに…
「レイ、焦っても仕方ありません
休みましょう…全然寝てませんよね」
「オレは人間のお前と違って多少寝なくても平気だ」
「色んな意味で限界って顔してますよ」
「…お前は余裕があっていいな」
言わなくていい言葉が出てくる……
「余裕はないですよ
でも、だいごろうを殺すって場面にいつ出くわしてもいいように万全でいたいんです」
……お前が正しいよ…さすがオレの友人だ
そして、オレは自分がガキみたいで嫌になる
「もう一度……シンと話してみようと思う…」
「虫の息で話にならないシンと?
まぁそうですね…もしかしたら今日は調子良いかもしれませんし、日を変えるのも大事ですよね」
タキヤの別荘に向かう道で、もう顔を上げられなくなるくらい絶望を感じてる
このまま…本当に見つからなかったら……
破魔の矢を握る手に強く力が入る
クソ……
別荘に近付いてくると、不穏に空が荒れ始めた
「雨が降る前に急ぎましょうレイ」
嵐が来るような……そんな天を見ると、オレの胸騒ぎは酷く高まる
嫌な予感がする……あのタロットの結果が頭を過る
大切なものを失うなんて……
「あれ…?…待ってくれ、フェイ」
自分の中の当たり前の違和感に気付く
「どうしました?」
シンのいるタキヤの別荘に近付けば近付くほど強まる雨と風
その手前で、オレは自分の強さが戻った事を感じた
痛いくらいの大雨の中で、オレとフェイは立ち尽くす
「……強さが…戻った……」
シンに奪われていたオレの強さがオレの身体に満ちて懐かしい感覚を…手放しで喜べなかった
「えっ…?どういう事ですか……あの虫の息だったシンが死んだと言うのですか?」
悪魔は自然に死ぬ事はないハズ…誰かに倒された?それとも……
「わからない…でも、シンが死んだらあの子も……」
最悪の事態が頭を支配する
何が…あったんだ……何もなくてオレの強さが戻る事なんてないだろ
まだ見つけられていないのに…
大切な…セリを…オレは失うというのか…?
こんなに…オレの知らない所で…
「しっかりしてくださいレイ!これからシンに会って確かめるんです…
まだ…レイは大切なものを失ったと決まっていない
私は……そんなの決め付けませんよ
自分の目で確かめるまでは…」
雷も鳴り響き、フェイの言葉が届かない
それでもフェイは無理矢理オレの手を引っ張りタキヤの別荘の正面まで来た
「レイ?それは?」
フェイに言われて、その視線を追うとオレの手にある破魔の矢が淡く光ってある方向をオレの意思とは関係なく指していた
「オレの力が戻ったから…?」
オレの力が破魔の矢に影響しているのか?
「気になりますね、もしかして破魔の矢は私達に力を貸してくれているのでは?
その先に進んでみましょう」
オレ達は破魔の矢に導かれるように先を進む
辿り着いた場所は地下の物置だった
「行き止まりですね…とくに変わったところはありませんし、この別荘はすでに和彦様が調べ尽くしていますから」
感じる…破魔の矢がそうせよと言うのを…
オレは物置の壁めがけて破魔の矢を引いて放った
「レイ何を!?」
壁が破壊されるコトはなく、先に進める道が現れる
「これって……」
「悪魔の世界だ、ここは悪魔の世界の入口の1つだったんだ」
ここにセリがいるって言うのか…
これじゃ見つかるわけがない、オレもはじめて見るし
悪魔の世界は悪魔しか行けない
悪魔以外がこの世界に行くには引きずり込まれるか…悪魔に取り憑かれたものか
こうして、破魔の矢でその道を開くかって事か…
「和彦様と香月様に報告を」
「いや、待ってる時間はない
ビビってるなら2人が来るのを待っていろ
オレは1人でも行く」
躊躇う事なく悪魔の世界に繋がるその道に足を入れる
破魔の矢の光がさっきより少し強くなってる…オマエが案内してくれるんだな
ありがとう……
「いえ…私も行きますよ
今のレイと2人ならどんな悪魔も敵じゃないですから」
「オレの本当の強さを見せてやる」
「私とレイでセリ様を助けに行きましょう」
「言われなくても」
オレとフェイは先に進む
もうすぐ行くから……遅くなってすまない
………どうしよう、破魔の矢がセリの居場所じゃなくてただ悪魔の世界がここにありまーすって教えただけだったら
魔を祓う矢だから悪魔に反応するのは当然だし
そんな期待して勘違いでしたって言うのはやめてくれよ
もう捜せてない場所はここくらいなもんなんだからな
悪魔の世界とは言っても不思議なもので、ずっと一本道を歩かされる
もしかして関係ない場所には行けないようになってるのか?
オレ達はただ破魔の矢に導かれるようにその道を進むだけ
すると、窓のない奇妙な館に辿り着いた
「変な建物ですね」
「センスは皆無だな」
破魔の矢が光らなくなった
案内はここまでってコトか
「行くぞ、死ぬなよ」
「建物の中で弓矢は使いにくいでしょう?私より自分の心配してください」
フェイはキルラに壊された槍から新調した槍を自慢するように見せてきた
心配しなくても、オレは短剣の扱いも天才なんだよ
窓もないし、他に出入り口もないから正面突破だ
もちろん正面のドアには鍵がかかってるが、鍵ごと吹っ飛ばす
「何事だ!?」
「悪魔以外が何故ここに?」
「何でもいい!だいごろう様に万が一悪魔以外が来たらここは通すなと言われてるんだからさっさと殺せー!!」
聞く前に、正解をくれてありがとう
あんたら全員皆殺しにしてやる
「やっとセリ様を見つけましたね」
「まだ会えるまでは安心できない」
ここにいる悪魔はオレとフェイの敵じゃなかった
次々襲ってくる悪魔達を倒してトドメは破魔の矢を刺す
そんなに時間をかける事もなく全滅させて奥の部屋まで辿り着く
「ここに…セリと……だいごろうがいる…」
ドアのぶに手をかけると震えが止まらなくなった
オレの力が戻ったって事が……ここを開けたら、最悪を受け入れる事になるような気がして……
「ここを開けたら、レイにとっての絶望が待っているかもしれません
…怖いのなら、お帰りください
セリ様の事は私が助け出します」
フェイの手がオレの手ごとドアのぶを掴む
その熱い手がオレの氷のような冷たさを溶かす
……いや、オレはセリを助けに来た
どんな結末でも…ずっとオレを信じて待っていたはずだから、それを裏切る事なんてオレは絶対にしない
覚悟を決めて部屋のドアを開ける
目の前に広がる光景は、床に酷い暴行を受けたセリが倒れている姿と
「えっ………私…?」
フェイの姿があった
オレもフェイもあまりに惨い光景に言葉を失い足が止まる
「遅かったねぇ?待ちくたびれちゃったなぁ」
違う…コイツはフェイじゃない
フェイの姿に化けただいごろうだ
「おっと!その物騒なものはしまってくれ」
破魔の矢を見てだいごろうはセリから離れたが、その顔はピンチというよりは何か企んで面白がってる
先に部屋に入って駆け付けたのはフェイだった
オレは…怖かった……
「セリ様…しっかり……
レイ、セリ様は気を失っているだけのようです
息はありますが…これは……酷い…」
フェイはセリを抱えて様子を確認してくれる
オレも傍に寄って確認するが…その姿に…激しい感情が渦巻く
回復魔法が使えるセリなら身体の怪我はない
やっぱり……ここに監禁されてから、ずっと契約が耐えていたんだ……
セリを守るために…オレのために……
震える声で……だいごろうを睨み付けた
「……だいごろう…あんた、セリに……」
怒りで手に力が入る
「バレてた?」
だいごろうはフェイの姿から本来の姿に戻る
泥のような姿に、もうコイツは神族から完全な悪魔になってしまったんだなとわかる
「待ちたまえ、勘違いするな
その男はボクを愛してると言って抱かれていた
契約はレイを裏切った
ボクは悪魔の契約に誘惑されただけで何も悪くない
契約も本物と同じ尻軽だったみたいだなぁ!!残念!!!
そいつの中はどんな女より気持ちよかったぞぉ!!!」
醜く歪む笑いに吐き気がする
最低最悪な感情が邪魔して言葉が出ない
契約が…あの子はオレを裏切ったりしない
だいごろうがセリを酷く傷付けた事だけははっきりとわかる
フェイも信じられない言葉の数々に追い付いていないみたいだ
「殺す…」
なんとか絞り出された言葉だった
早く…こいつを殺さないと……なのにショックが大きくて身体が動かない
フェイも同じ…
「殺す?今から君たちはここで絶望して死ぬのに?
ボクはあの時に契約から堕落した空の神をぶつけられた事が最大の屈辱だったよ
あの醜い空の神を吸収しなきゃ助からない状況にさせた契約が憎かった
悪魔の契約如きが、神族のこのボクをだよ!!?」
逆恨みだろうが、あんたがセリを追い詰めようとしていたのを返り討ちにされただけの
「あの天使は役に立たなかったが、勇者共々倒れてくれたらよかったのに
ここで契約だけでも潰せて最高に気分が良い
契約の惨めな姿を沢山見れてねぇ
綺麗なところは1つも残ってないくらいたっぷり穢しておいたよ
最期は好きな男にも会えずに消滅なんてお笑いだと思わない?」
だいごろうの笑いが部屋中に響き渡る
……知りたく…なかった……信じられない
本当に…あの子は………
オレが1番納得できるだろ…自分の力が戻ったのは…それしかないんだからな……
「殺してください…レイ
許せません……もうあのゴミ野郎を喋らせるな!」
「わかってる…」
破魔の矢でだいごろうを殺す
わかってるのに…どうして身体が動かない?
ショックが大きすぎて身体が重いだけじゃないのか?
フェイも同じように動けないようだ
「動けないよねぇ?
この部屋に入った瞬間に君たちの負けだよ
絶望は悪魔の大好物、君たちはそこで絶望して魂を食われて死ぬのさ
レイの魂はシンにやる事になるけど、ボクの好きなタイミングで契約を消滅できるようにしてくれたから当然のお礼だよ」
消滅って言葉にさらに絶望が重くのしかかる
絶望すればするほどこいつの思うつぼなのに……クソ………セリ…すまない……
「もっと絶望のどん底に突き落として、もう君たちは立ち直れないほどの絶望で心壊してくれ
この部屋の数時間前の記憶を見たまえ
あーぁ最高の気分……!!!」
だいごろうの叫びの後、部屋の記憶の時間が巻き戻る
目の前では今行われてるかのようなリアルな光景が広がるが、触れる事すら出来ない
「…だいごろうは私の姿に変化して…セリ様を…契約をこんな酷い目に……許せない…許せません……
私の姿でセリ様を傷付ける事は…」
吐き気がするほどの酷い記憶の時間が流れる…
「やめろ……やめて…やってくれ…」
目の前でお前が……酷い目に遭っていく
尊厳を踏みにじられ…オレのために……その身も心も……犠牲にして
「嫌!痛い!痛いよ!やめて!!許して!!」
助けたいのに、助けられない……
過去の記憶を見せられてるだけ
お前の苦しむ姿に目を覆いたくなる…お前の泣き叫ぶ声に耳を塞ぎたくなる
「助けてレイ…」
何度もオレに…助けを呼ぶ声が……死ぬほど辛かった……
守れなかったオレは……自分が許せなかった
愛してるって大切な言葉を吐き出され…
セリの憎しみも苦しみも悲しみも…全ての感情が流れ込んでくる
どれだけ……辛かったか……悔しかったか……悲しかったか……
最期まで…お前の泣く声にオレの心も壊れていく
お前が謝る事なんて…何もないのに
身も心も穢されて消えていった……
会いたいと願っていたのに…オレは間に合わずに知らない間にお前を死なせてしまっていた…
オレが謝るべきだ…お前を守れずに、間に合いもしなかった
あの時…オレと一緒にいたいって言ったお前を置いて行くんじゃなかった
傍にいさせてやればよかった……
後悔しかない
「……セリ様…そんな……」
言葉が出ないのもショックを受けているのも、フェイも同じだ
言葉にならない感情が渦巻いてる
フェイは契約の事はたまに意地悪をするくらいだったから、身体がセリだからと契約の事もセリの一部として受け入れていた
オレが思っていたより、心配してくれていたのは驚きだが
香月さんと和彦さんのセリを殺す呪いのようなものの事も、解決したのは契約と言ってもいいって話も聞いたし
和彦さんもそれから契約を気に入ってくれていた
ウサギのカニバもよく懐いている
もう契約のセリは、オレだけじゃない
皆に受け入れられてる
オレの中では本物のセリと同じくらいの大きな存在だった
「呆気ないなぁ…こんな事くらいで折れてくれる
待ちくたびれた悪魔共この2人の魂を回収」
だいごろうの掛け声で複数の悪魔がオレ達へ襲い掛かる
絶望に崩れ落ちてしまって……立ち上がる事が出来ない
…このまま死んでお前を追い掛けるのも…いいか……許してくれるか、諦めるオレを…
目を閉じて死を受け入れようとした
「……レイ…」
お前に会えるなら…地獄に落ちても構わない…
「レイ」
目を閉じるとそこにセリの姿を見る
オレの名前を呼ぶ声が聞こえる
「レイ…幸せになって…」
最後に会った時と変わらない笑顔で、オレだけを見てくれるその愛しい笑顔
「幸せになって、レイ」
お前がオレに伝えてくれる言葉はいつも……オレの幸せを願っていた
オレが絶望して諦める事を、セリは望んでなんかいない
ハッと大切な事を思い出す
立ち上がって前を向く
幸せに……なるよ……
その前に、お前の仇を伐つ
襲い掛かる悪魔の雑魚は目に入らない
邪魔な悪魔は倒してその先にいるだいごろうへの道を切り開く
一瞬で目の前に来たオレを見ただいごろうは、立ち上がれると思っていなかったのか驚いた様子を見せたが容赦なく殴り飛ばす
「がはぁ…歯が…なくなっ…や、やめへ」
あれだけ勝ち誇っていただいごろうの情けない胸倉を掴み引き寄せるともう一発殴る
「あんたはセリにやめてと言われてやめたのか!?」
「がぁぁ…ご勘弁を」
弱い者には強気で、強い者にはその態度か?
ふざけるな…こんな奴に…こんな奴に……
もう…セリは帰って来ないんだぞ…
「散々言っていたな
オレの理想じゃなくなった?
あんたにあの子の何がわかる……
何も変わってなんていない、セリは変わらずオレの理想のままだ!!
今でもオレはセリを変わらず愛してる!!」
こんなに怒りが爆発したのははじめてかもしれない
絶対にこのだいごろうと言う男だけは許せない…
何回殺しても怒りはおさまらないし、気が済む事もないだろう
「楽に死ねると思うな…
セリが受けた苦しみ以上に苦しめて殺してやる……」
「それ…私、大得意なので手伝いますよ」
レイが他の悪魔放置でだいごろうに突っ込むから倒すの大変でしたよと小言を添えてフェイが近寄る
フェイもあの絶望から立ち上がれたのか
フェイの恐ろしい顔にだいごろうに死相が浮かぶ
「人って脆いので間違えたらすぐ死んでしまうので、任せてください
あー……困りましたね、レイが手加減なしで何回も殴るから…弱ってます
でも心配ありません、ここからでも十分苦しめてあげます
いや…悪魔なので死んだりしませんね?」
張り切っていたフェイはだいごろうの様子を見るとちょっと困ったとオレを見る
そして、フェイは気を利かせてくれた
「セリ様を連れて先に帰ってください
ここは血なまぐさくなりますし、目を覚ましたらショックを受けるような事をしますからね」
「わかった…オレもすぐに戻る」
オレはセリを抱き上げて部屋を出た
「好きでもない人をいたぶるのは好きではないのですが、仕事でよくやるので…私、優秀なんですよ
いつも和彦様に褒めて頂くほどにね…」
部屋を出る前にフェイの言葉を聞いた後、だいごろうの苦痛に呻く声が漏れた
ここは悪魔の世界、誰も出入りはしない誰にも邪魔されない
つまり…これから何日かけてもだいごろうを苦しめてやれるって事だ
もちろん最後は殺す…オレの手で……
とりあえずこの別荘にはカニバの部屋があったハズ
そこにセリを寝かせて、香月さんと和彦さんに連絡を取ってセリをお願いする
腕の中にいるセリの姿を見るのは気が狂うほど辛かった
「ん……ん…あ、れ?……レイ…?」
「セリ!?目を覚ましたのかい?」
目を覚ましたセリは弱々しくて、胸が痛い
「なんか…凄く身体が重い…痛い……
物凄く眠くて……」
本物のセリには契約のセリの記憶はない
記憶はなくても自分の身体に残る跡に、何が起きたのかセリは察するだろう
「何も考えないで、休んで…ゆっくり眠ると良い……
オレもフェイも近くにいるから、何も心配はない」
「う…ん……」
今はゆっくり休ませてやりたい
オレの言葉にセリは目を閉じて静かに眠る
本物のセリが目を覚ましてくれて、もしかして目を覚まさないかもって心配はあったからそれはなくなる
「セリ……お前も…目を覚ましてオレを安心させてくれないか?」
いつもなら、呼べば契約は必ず応えてくれる
オレの名前を呼んで微笑んでくれるのに…
「お前は穢くなんかない…オレは変わらずお前の全てを愛してる……だから、目を覚ましてくれ…」
セリの頬に一粒の涙が当たる
こんなに言っても……駄目か……もう、本当にお前は死んでしまったんだな
セリをカニバの部屋に運んで香月さんと和彦さんに連絡を取って来てもらってすぐにオレはさっきの部屋に戻った
香月さんも和彦さんも黙って部屋を出るオレに何も言わなかった
何があったかも今は聞かなかった
さっそく血なまぐさい臭いが充満している
「あっレイ、見てください!きれいにしました
歯が変に何本か残っていたので全部抜いてあげましたよ」
「好きでもない人をいたぶるのは好きじゃないと言っていたのに、楽しそうだな」
「和彦様に褒めて貰えると思ったら楽しくなるんですよ
今回は仕事ではありませんが…
それに私はこれでも怒っているんです」
怒り方が狂気
「私はセリ様に酷い事をしますが、愛がありますし
セリ様を傷付けていいのは私だけです
この男は私のセリ様を傷付けただけではなく、私の姿であのような事を…許せません」
「あの子はあんたのセリじゃない」
「身体は私のセリ様でもあります!
それに契約の事もからかうと面白い反応をするので気に入ってたんです…」
話しながらフェイは新しい拷問をだいごろうに与えて、その激痛に声を出すだいごろうにうるさいと言う
「うるさいので喉潰しておきますね」
おまけでやっとくみたいな簡単に言うんだな
「オレにもやり方を教えてくれ」
「それならこれを、レイの気が済むまで」
数日かけてだいごろうを拷問して苦しめる
何日かけてもオレの気が済む事はなかった…
セリも少しずつ元気になってきて、気付かれる前にそろそろだいごろうを始末しないといけない
そして、セリは自分の身に何が起きたかに気付いた様子だった
何も言わなかったからオレも何も言えなくて…契約の事も、オレに気を使ってか
はっきりと自分の中からいなくなったとセリは口にしなかった
「レイ…そろそろ…」
終わりが決められないオレにフェイは決めるように、破魔の矢を手渡した
「だいごろうはもう堕落した悪魔です
この破魔の矢で完全に倒してください
生かしておいては、次はセリ様も殺されてしまいます」
だいごろうはここで確実に殺す
「わかっている……セリは殺させない
オレが…守るって誓ったんだから」
だいごろうだった時の姿形はなくなっても、そこにだいごろうは存在する
至近距離で弓を引く、破魔の矢を放って……悪魔のだいごろうは消滅した
「……レイ…もう終わりましたよ」
いつまでも弓を下げないオレに、目の前の憎い男は消えたのに
フェイはオレの腕を下げさせた
「だいごろうを殺しても、何も晴れやしない…
後悔しかないんだ
守ってやれなかった…最期に間に合ってやれなかった……
傍にいたい、一緒にいたいって言っていたのに
どうしてあの時我が儘を聞いてやれなかったんだろう…
何でも我が儘を聞くと言っていたのはオレなのに」
「それは契約を救うためにレイは私と一緒に魔女に会いに行きました…
そして難しいですが方法もあって」
「死んでしまったらそんなの意味ないじゃないか!!」
言わなくてもフェイはわかってる
またオレは八つ当たりしてるだけに過ぎない…
それでもフェイはオレの気持ちに寄り添ってくれた
フェイが友人でよかったと後で思う
目を閉じると…お前の姿が浮かぶ
同じ言葉を何度もオレに伝えて…
「あの日から…目を閉じるとずっとセリは、いつも笑顔で「レイ…幸せになって」ってオレに伝えてくるんだ
お前を失って幸せなんて……」
「それが契約の願いなのでしょう
あの子はレイの空想ですから、いつもレイの中にいますよ」
一度、セリは自分が長く一緒にいられないとわかっているから話してくれた事があった
「俺が消えても俺はレイの空想だから、ずっとレイの中で生きてる」と
そうかもしれない…そうだとしても
オレはお前に触れたい…抱き締めてやりたいと思うから
「いつまでもそんな顔してたら契約に怒られますよ
契約の願いを、セリ様と向き合って幸せになってください
……私は邪魔しますけど」
「……お前に人の心はないのか」
オレが酷く落ち込んで思い詰めているから、フェイは軽口を叩いては少しだけ空気を柔らかくする
オレに幸せになってほしい…それでお前も幸せになれるのか?
伝えてくれる言葉は変わるのか…?
みんなで死者の国に帰る途中、オレはセリに連れて行きたい場所があるからとみんなに伝えると珍しくみんな空気を読んでくれた
「セリ…大丈夫なのか?」
記憶がないとは言えあんな事があったんだ
凄く傷付いてるはず
それでもオレの口から何があったとも言えない
「ん?…まぁ…なんとか」
セリもあえて聞かなかった
オレが黙ってる事くらい見抜いているだろうに
オレは傍にいる事しか出来ないのか?
セリが望むならどんな事だってするのに…
こういう時はどうしたらいいのかわからない
抱き締めるには……まだオレ達はそんな関係じゃない
契約が消滅した事で、セリはシンの影響も受けなくなりオレを好きにさせられた気持ちも失っているはず
ここから…君の本当の気持ちが聞ける
綺麗な夜景が見えるレストランの個室でセリと2人っきりだ
「めっちゃ綺麗だな、こんなに綺麗な夜景ははじめて見たかも」
セリは喜んでくれて、その姿を見るとオレまで嬉しくなる
前と変わらない態度で接してくれて、改めて告白するのも緊張していたがセリの笑顔を見ていたら
自然と言葉に出ていた
「セリ、君が好きだ」
君を幸せにする…今度こそ
今までたくさん傷付けたけど、オレの愛は変わらない
百年前から、君だけを愛してる
これからもずっと永遠に…
「レイ……」
俯くセリに、もしかして嫌われてる!?と焦る
そうだよな…今まで散々酷い事してきて…ストーカー男が恋人なんて嫌か!?
シンの影響がなくなったセリは、心からオレ
をどう想ってるか……
振られたら君を殺してオレも死ぬ
「……俺も……レイが、好き……」
照れながら可愛くセリが俺を見上げた
俯いていたのは嫌でも嫌いでもなく、照れていただけだった!!
オレを好きなセリの表情が可愛すぎてヤバい
「本当かい!?」
「ウソついてどうするんだよ」
確かめる必死なオレにセリは吹き出して笑う
「いや振ったら殺されそうで怖いからとりあえずオッケーしないとみたいに思ってるのかもって」
「確かに断るとレイなら俺を殺すだろうな」
恐怖に支配されて!?それって本当の両想いじゃないだろ!?
「色々あったけど…それでも、俺はレイが好きなんだ
レイの方こそ、いいのか俺で
香月と和彦の2人も恋人がいる俺なんかで
フェイのコトもあるのに
それでレイは…幸せになれるのか?」
何度も聞かれたな、その度にオレは迷いなく答える
どれだけ君を、君だけを想ってきたか
「オレは百年前からセリだけを愛してきた
何度も言うが、セリの事は理解して全てを受け入れてる
オレはセリを恋人にしたい、セリの恋人になりたい
好きなんだ…愛してる…心から百年も昔からずっと
これからも…永遠に愛してる」
「レイ……こんな俺を受け入れて愛してくれて、ありがとう
百年も待たせてごめん…やっとレイのコトを好きになれた
俺もレイを愛してる……」
ずっと…聞きたかった……君の言葉、オレを愛してると
百年の片想いが実って、はじめて気持ちが繋がる
セリの身体を抱き寄せて、強く抱き締めた
「セリ…嬉しいよ……幸せだ」
「うんレイ…俺も」
自然と良い雰囲気になって、どちらからともなく唇を重ねる
いつもとは違うキスとハグに緊張するな…
何回もしてきたのに、恋人になってからのはじめての触れ合いだからか!?
嬉しすぎてどうにかなりそうだ…オレがセリと恋人なんて…幸せすぎる
「セリと添い遂げたい、結婚しよう」
「早くない!?それはちょっと早すぎるだろ…
まだ恋人になって5分も経ってないぞ」
「和彦さんのプロポーズは受けたのに!?オレの事はそんなに愛していないのか!?」
「和彦とは付き合いが長いから…
レイのコトも同じくらい好きだけど、もっとお互いを知ってから時間をかけて進める話だと思うぜ」
「真面目か!」
「大事な事だろ!?」
「セリの事なら何でも知っているぞ、百年ストーカーしてたんだ
セリよりセリを知っている、もちろん和彦さんよりも」
「威張るな、怖いだけだそれ
俺もレイのコトはよく知ってるつもり」
「それなら問題ないな」
「いや不安だって言ってるんだよ…メンヘラストーカー
まっ、そんなレイのヤバい所もひっくるめて俺は好きなんだけど」
「………セリ…嬉しいよ…本当に、オレはやっと…幸せになれたんだな…
…幸せに……なれた……」
オレは…幸せになったぞ…セリが願ってくれた幸せをこれからも守っていく……
オレだけ…幸せ…?
お前の事は、幸せ……に出来なかったのに…
「レイ…辛かったら……泣いてもいいんだぞ
ここには俺しかいないから」
セリはずっとオレの悲しみも辛さも悔しさも後悔も、気付いていた
泣けなかった我慢していた涙が、その優しさに触れて溢れて止められなくなる
「セリ……オレは………すまない
セリだって…辛いはずなのに」
「俺は大丈夫だよ…俺は何も覚えていないから」
セリの胸を借りて、はじめて大泣きする
「今だけ、情けない姿を見せるかも…」
約束した綺麗な夜景が見える個室のレストラン
目を閉じれば契約のセリの姿が見える
「ありがとう、嬉しい…これからもずっと一緒だよ、レイ」
笑顔のお前と違って、オレはこんなにも泣いているのに
帰ってきてくれないのか…オレの手が届く隣に
「うっ…うぅ……セリ…」
大切なものを失う事がこんなにも……心に傷を残す
契約がセリでなければ、こんなに悲しい事はなかった
生きていてほしかった
またこの腕に抱き締めたかった
オレは幸せになれたのに、埋められない穴ができてしまった
寂しくて悲しくて切ない…他の誰にも埋められない居場所
大切な人を失って……それでもオレはお前が願ってくれる…幸せになって、みせる
これからもずっとオレは幸せだ…
後悔は…お前の事もオレが幸せにしたかった…
オレの幸せを願いながら、お前自身も幸せになりたいと言っていただろう
どうしても最期があって別れが来るなら…その時まで幸せにしてあげたかったんだ




