人というのは
何があった、何が起こっている?
驚きに支配され行く思考はそればかりを繰り返し、唯一自由がきくのは鋭い深紅の視線のみだ。
いつも感じられていた存在が何かに侵食されているようにゆっくりと薄くなり遠くなっていく。
本能的に感じるのは、存在が危険だということとすぐに行かなくはならないということだ。
しかし、身体の自由はきかなくなっていく。
その深紅の視界には、重く太い鎖が生物のようにひとりでに体を這いずり回る様を写している。
鎖には装飾にも見える微細な文字が刻んであり、鈍い煌めきが見える。
「御身に宿る力は、とても強大で危険。故に――」
真っ白なローブを被った人から聞こえたのは老人の声。
この状況を作った人物。
「縛らせていただく」
七色の翼まで鎖が這っていくのを老人は、横目で確認する。
皺だらけの両手を印を描く。
鎖の煌めきに強さを増して刻んでいく。
同時に七色の翼の色彩の濃さが薄らいでいく。
老人は、次々と印を描き鎖に刻んで行きながら、近づいて来る。
「どうか、どうか……。受け入れてくださる事を願います。御身の兄弟神たる龍神様と同じようにしたくはないのです」
深紅の眼は、老人の言葉に見開く。
「龍神様は意思もなく神力を使う存在とすると、皇が判断しました。生かせるだけの存在だけにする。しかし、ご安心を。封印に策を仕込みました。それはこの封印にも仕込んであります。ゆえに受け入れて下さいませ」
品定めをするようにし、深紅の眼は老人を見つめる。
老人はローブの帽子を外して、顔をさらした。
その顔からは、顔半分から流血し、脂汗を流していた。
「命をもって、二つの封印に小さな穴を開けてます。どうか、お許しを。この行いに赦しを――」
何も刻まされいない鎖を持つと、老人の身体にはまとわり付くように文字が浮かぶ。
そして、さらりと砂のような粒子なって行く。
その時に消えていた存在が蝋燭の灯のような小さな気配が感じられた。
(人というのは――)
強い眩暈と睡魔に意識は侵食され、闇にゆっくりと落ちていく。