さいごのねがい
灰色混じりの噴煙が咆哮のように激しい雑音をたてる。
血の小川のように見えるのは、大地の亀裂とその中で蠢くマグマ。
そして、亀裂は一つの漆黒の山に繋がる。
それは巨大な赤黒の亀。
「こんな事に……」
「バカモノがっ!」
彼の変わり果てた姿を目の当たりにし、彼らは、嘆いた。
人に寄り添っていた彼がなぜ、こんな事になった。
人の命を愛し恋した彼が――
充血し過ぎた赤黒の眼に彼らが映し出せると、血の涙が一筋頬を伝う。
何かを振り払うように亀は、巨大な四肢で土を踏むしめる。
亀裂が入り噴煙が上がり、マグマが噴出す。
「やるかしない」
「しかし……っ!」
「おとした者には、罰をやれば良いだろう。このままでは、あれもこれ以上はやってはならない。それにあれを見ろ――」
反論をしようとする口を素早く掌で押さえて、亀の真横を指差す。
深紅の眼が見開き、その一点を見つめて硬直した。
亀の真横で白い薄皮のような煙がゆらゆらと浮遊している。
掌を口から離す。
「あれには、もう感じる事もできぬ」
「これではあまりに、あまりにっ!」
煙は、亀から離れて彼らの手に纏わり付く。
そして、触れた掌から微かな冷たさが伝わる。
――止めて、私がやるから。お願い、おね、がい
掠れていく声と同時に、煙が更に薄くなっていく。
ぎゅっと煙を拳に握り、眉間に深い皺が現れるほど強く瞼を閉じた。
「その最後の願いを叶えてやろう」
片腕がその言葉と同時に、刀の形状へと変化させる。
背中の七色の翼をはためかせた。
亀の後頭部から顔までを、刀の腕が貫通する。
亀の赤黒い眼は、ゆっくりと閉じられた。
軍神という面を手にした瞬間であり、神殺しの罪を犯した瞬間であった。