表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満つ神々  作者: Innocent
2/5

さいごのねがい

灰色混じりの噴煙が咆哮のように激しい雑音をたてる。

 血の小川のように見えるのは、大地の亀裂とその中で蠢くマグマ。

 そして、亀裂は一つの漆黒の山に繋がる。

 それは巨大な赤黒の亀。


 「こんな事に……」

 「バカモノがっ!」


 彼の変わり果てた姿を目の当たりにし、彼らは、嘆いた。

 人に寄り添っていた彼がなぜ、こんな事になった。

 人の命を愛し恋した彼が――


充血し過ぎた赤黒の眼に彼らが映し出せると、血の涙が一筋頬を伝う。

 何かを振り払うように亀は、巨大な四肢で土を踏むしめる。

 亀裂が入り噴煙が上がり、マグマが噴出す。


 「やるかしない」

 「しかし……っ!」

 「おとした者には、罰をやれば良いだろう。このままでは、あれもこれ以上はやってはならない。それにあれを見ろ――」


 反論をしようとする口を素早く掌で押さえて、亀の真横を指差す。

 深紅の眼が見開き、その一点を見つめて硬直した。

 亀の真横で白い薄皮のような煙がゆらゆらと浮遊している。

 掌を口から離す。


 「あれには、もう感じる事もできぬ」

 「これではあまりに、あまりにっ!」


 煙は、亀から離れて彼らの手に纏わり付く。

 そして、触れた掌から微かな冷たさが伝わる。


 ――止めて、私がやるから。お願い、おね、がい


 掠れていく声と同時に、煙が更に薄くなっていく。

 ぎゅっと煙を拳に握り、眉間に深い皺が現れるほど強く瞼を閉じた。


 「その最後の願いを叶えてやろう」


 片腕がその言葉と同時に、刀の形状へと変化させる。

背中の七色の翼をはためかせた。


亀の後頭部から顔までを、刀の腕が貫通する。

亀の赤黒い眼は、ゆっくりと閉じられた。

軍神という面を手にした瞬間であり、神殺しの罪を犯した瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ