64話 アルクアラウンド
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こちらもどうぞ 本作のIFルートともいえるものです。
俺とホーリーの叫びに反応してハウトゥーファンタジーから光の地図が出現した。地図上には大小様々色とりどりの駒と思われる点が表示されていた。
「これは?」
「今ここで起きてる事がリアルタイムで表示されてんのよ。例えるなら……そうね、将棋の盤を思い浮かべてもらうと話が早いわ。マップの一際大きな白い丸が私達、王ね。竜人側にも同じものが見えるでしょ? これが天竜人。その他の色のついた丸が公平の嫁達を表している。あんたの駒なんだからどれが誰かわかるでしょ?」
確かに、マップ上では赤や青でしか表示されていないが、どれがアンジェやカンナ、フェンかだという事がわかる。上手く説明出来ないが、直感的に理解出来る。まるで元から知っていたかのように。
「理解出来たみたいね。その駒、どれでもいいから動かしてみなさい」
三角形の紫色。これは食人族のものだ。マップ上に数個点在する食人族のアイコンの内の一つを、言われた通りに動かしてみた。
「おお」
マップ上で俺が動かしたのと同じように、目の前で戦っている食人族達が俺が指定した位置に徐々に移動し始めた。
「こういう事。注意点として、これはあくまで指示を与えるものであって命令を強制させるものではないわ。動かされる駒達にも意思があるし、何よりも状況によって移動出来ない場合もある。戦況をしっかりと見極めて使うのね」
「いや、これすげえよ。まんまリアルタイムストラテジーじゃん」
「かもね。でも、まだ移動指示しか出せないわよ」
俺が欲しくてしょうがなかった能力の一つだ。通信機器の存在しないこの世界で伝令を伝えるにはわざわざ人を使わなければいけない。そんなものは戦闘が激化すればする程情報の伝達に遅れが生じて現場を混乱させるだけであり、邪魔でしかなかった。だが、これはどうだ。リアルタイムで戦況を確認出来て、兵を動かす事が出来る。最高のスキルと言わざるをえない
しかもホーリーは「まだ」移動指示しか出せないと言った。これは裏を返せば今後移動指示以外の命令も出せる可能性を示唆している。ホーリーのことだ、どうせ聞いても答えてくれないだろうから質問はしないが、多分この予想はあってる。
「どーお? すごいでしょ。勝算は見えてきた?」
「余裕だ。感謝してやらない事もない」
「素直じゃないわね。じゃ、私は天界に戻るわ。また会いましょ」
と、いつもの事ながら言うだけ言ってホーリーはさっさと天界へと帰ってしまった。
「こーへーはもっと天使さまを敬うべきよ」
「いいんだよ。嫌がらせが趣味なやつを敬う必要はない。それより、少し集中する。離れててくれ」
俺がそう言うと、メアリーは意外にも何も言わずにすぐに俺の後ろへと飛んでいった。
「さて……」
現在の戦況。11体の竜と戦闘中な訳だが、まあ見事な具合に全部バラけて戦っているな。これは恐らく竜のファイアブレスを恐れての事だろうが、まずいな。個の力で劣っているんだ。1対全くらいの勢いで事に当たらないと戦況は覆らない。ならば……。各地に点在するアイコンを一度一箇所に後退させる。
「そうすれば……」
よし、かかった! いきなり後退を始めたこちらの動きに気づかずに深追いしてくるバカが3体釣れた。
アンジェを中心とする食人族部隊と、フェンを中心とするフェンリル部隊で3体を「凹」状に囲む。開いた穴の部分をカンナ率いる魔法使い部隊で残りの竜が流入して来ないように制止させる。
「うおおおおおおおおおお!」
流石の竜人も180近い数の攻勢には勝てない。見る見る内に包囲網が狭まっていく。そして、5分後竜人のアイコンが3つ消えた。
「いいぞ……」
まず3体倒した。残りは5体。再び兵を後退させる。攻撃が集中していた魔法使い部隊を下がらせ、それを守るように右翼に食人族部隊、左翼にフェンリル部隊を「凵」状に配置。ある程度下がったらくぼみに魔法使い部隊を配置する。
先程3体がやられたのを見て、比較的冷静な残り8体は突っ込んでこない。前列2体中列3体後列3体で様子を見始める。だが、それこそが狙い。様子を見る事に徹し始めた前列2体の竜人に、防御力の高いアンジェ率いる食人族部隊をぶつける。
両者が完璧にぶつかった頃合いを見て、徐々に徐々に食人族部隊を左翼フェンリル部隊がいる位置に近づけていく。そうして、戦闘が佳境に入り始めると、残りの竜人も戦闘に参加しようと向かってくる。
「そこだ!」
左斜め前に進んできた中列3体の竜人を、バレないように少しずつ迂回させていたフェンリル部隊と魔法使い部隊で叩く。
「何!?」
更に3体倒した。残りの2体は天竜人から離れた位置に引っ張って全員で叩く。完璧だ。残るは天竜人のみ。
「天竜人! 後はお前だけだぞ!」
調子に乗った俺は、わざわざフェンに未だ人型を保っている天竜人の元まで運んでもらい、そう啖呵を切った。
「まさか、全員やられるとはな。認めよう、人間。名前は?」
「さっきも里中公平って言ったろ! 覚えろや!」
「ふ、ふふ、ふふふ。ふははは!」
天竜人は何を思ったか急に高笑いを始めた。
「舐めるなよ! 人間が!」
一喝、天竜人は竜へとその身を変えた。いや、龍といった方が適切か。他の竜人とは変わり身をした際の姿が違う。竜がドラゴンだとすると、天竜人のその身は、胴の長い中華系のまさに龍といった風貌だった。その大きさも、竜の倍はある。竜の時点で見上げる程の大きさだったというのに、天竜人はもはや山を見上げるかの如き大きさだった。
「マジかよ……」
「旦那様。下がります。掴まってください」
すかさずフェンが俺を抱え込み、カンナが張った結界がある位置まで大きく跳躍した。
「我が名は天竜人。里中公平、お前に敗北を刻む者の名だ!」
山が震えるような響きを持つ声でそう言った天竜人は、空を飛んだ。




