62話 It's My Life
209日目
周囲を奥深い霧に囲まれた竜人族の巣は、時は平成。中国の奥深くに位置する武を修めた者達が集う云々という言葉が似合いそうな場所だった。デカイ門戸に石階段。それら全てが雰囲気を作っていた。
デカイ門戸の前に立っただけでわかる。明らかに周辺の魔物とは強さの桁が違う。どうりでこの辺で魔物の姿を見なかった訳だ。
「やあやあ頼もう。我こそは竜人族を統べる者、里中公平である」
竜人族の巣を訪れた、というよりも道場破りの如く大勢で侵入した俺達は既に戦闘準備が整っていた。故に、不意に現れた俺達の前に立ちはだかった竜人の男に、俺はそう啖呵を切った。
というか……竜人族ってこんなデカイの? 俺の身長の2倍くらいあるぞ。俺は男としてそんなに大きいという訳でもないけど、人型でこのサイズは威圧感パないな。オシッコちびりそう。などとは大将として決して言えない。
「生意気な! この地に足を踏み入れた事、後悔させてやる! 貴様らなぞに天竜人様と立ち会う資格などはない! どうしても言うならば我を倒してからにしろ!」
天竜人。この巣の族長の名か。そういえばハウトゥーファンタジーに書いてあったな。確か年齢は800歳を超えていたはずだ。一人娘にリュウメイという娘がいるんだが、その娘が今回の俺の嫁候補という事になっている。
今回の遠征の最優先事項は竜人族を味方に引き入れる事だが、俺としてはそのリュウメイちゃんをハーレムに加えたい。可愛かったら、という条件付きだが。
で、だ。そのためにはまず、どこぞの三下のようなセリフを吐いているこの竜人を蹴散らし、天竜人だかいうおっさんに会う必要があるという訳だが、こいつらは武人然としているから、正式に試合して勝てば言う事を聞いてくれる。清々しいまでの脳筋だな。脳筋は扱いやすい上に使えるから俺としても大歓迎だ。
「ならば勝負! こっちからはアンジェを出す! 無手での勝負を挑む!」
アンジェが無言で三下の前に立った。無手での試合という事で、武器はもちろん鎧類も外している。
「実に結構! 我も竜への変わり身は封じよう。いざ、尋常に――」
「――勝負!」
アンジェが叫びと共にファイティングポーズをとって突っ込んでいった。そして――
「どっせーい!」
三下のボディに一発すげえいいのが入った。腹を抑えてうずくまっている。あれはもう立てないだろう。ワンパンで決着がついてしまった。やっぱり三下だっったか。俺の目に狂いはないな。
「約束通り先に進ませてもらうわ。お前の熱さ、俺は嫌いじゃないぜ」
俺は三下の肩に手をおきそう言った。そして、そのまま後ろを振り返らずに先へと進んだ。のだが――
「竜星を倒したか! なかなかやるな。だがあれは門兵の中でも最弱! 先へ進みたければ我を倒してからにしろ!」
「あー。じゃあ次はカンナで」
「……任せて」
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!」
彼もサンダーで一撃だった。更に歩みを進める。
「竜星と竜岩を倒したか! やるではないか! 次は我がお相手しよう! 我は――」
「もうわかったから。さっさと終わらせよう。フェン、頼んだ」
「喜んで」
「むおう!」
彼もフェンの鋭いつま先がテンプルにめり込み、一撃だった。
その後も我こそは我こそはと続々竜人が現れて、それらを倒しては進んでを繰り返す内にやっとそれっぽいところに辿り着いた。竜への道と書かれた門が現れたのだ。
まったく、なんて広さだ。ここには50人程度しか住んでいないはずなのにユグドラシル並の敷地面積だ。だが、それも終わりだ。ここに至るまでに30人以上の竜人を倒してきた。もうかませ臭あふれる奴は出てこないだろう。ここからが本番だ。
アンジェと数人のフェンリルが門を開けた。その先に待っていたのは、それぞれがさっきまでの竜人とは比べ物にならない程の強さを持った竜人達だった。選りすぐりなのだろう。12人分の視線が俺達を射るような目つきで見ていた。
「頼もう」
「ふん。侵入者とは貴様らの事か。ここまでたどり着くとは、なかなかやるようだな」
手前のなんか強そうなのが言った。たくわえられたひげがもさっとしていて達人感が出ていたが、なんかばっちい印象を受けた。
「あいつらじゃ相手にならなかったが、どうやらあんたらは別みたいだな。勝負してくれ」
「天竜人様、いかがする」
「来る者拒まず。いいだろう、その勝負受ける! ただし、全員で向かってこい。こっちも全員でやらせてもらう」
「いいのかい? 武器も使わせてもらうぜ?」
「こちらも竜への変わり身を使わせてもらう」
しまった。挑発の仕方を間違えた。予定では変わり身を封じるはずだったのに、強そうだったからつい、武器を使うとか言ってしまった。くそう。啖呵を切った手前やっぱりやめてくださいとは言えないよう。
「私は一向に構わん!」
と言わざるを得ないじゃないか。
「ふ、その意気や良し! 場を移そう。ここでは狭すぎる」
そう言って、天竜人は他の竜人を引き連れて、一列になって移動した。俺達もその行列に加わる。
隊を引き連れる者として先頭を歩いている俺は、竜人のすぐ後ろを歩いている形になる訳だが、どうにも歩くたび左右に揺れる尻尾に気を取られる。
竜人の尻尾は根本から段々と細くなっていくタイプなので、その揺れがなかなか大振りなのだが、どうにも可愛らしい。
そうして10分程歩いた頃だろうか、先頭集団が止まった。俺が竜人の尻尾に夢中になっている間に、いつの間にか決闘場に着いたようだ。というよりも、さっきからずっと何もないだだっ広い空間を歩かされているなとは思っていたが、それら全部含めて決闘場だったみたいだ。だから、決闘場の中心に着いたと言った方がより正確だ。
「広すぎる……」
妖怪大戦争がやれそうなくらい広かった。いや、実際妖怪大戦争の小規模版がこれからここで起こるんだろうな。竜っていうくらいだから火くらい吹くだろうし。だけど、気持ちで負けているようでは男がすたるってもんだ。
「俺達が勝てば俺の言う事を聞くと約束しろ!」
「いいだろう! 我らが勝てば貴様らは一生小間使いだ!」
「上等だ! いざ!」
「尋常に!」
「勝負!」




