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7話 rising hope

「どうすれば上がるとか書いてないの?」


「んー、書いてないみたいねー」


 ですよねー。あのクソ天使がそんな親切な事する訳ないもんねー。まあ、でも当然か。人との仲を深めるのにやり方なんていうものは無いもんな。


「オッケ。そしたら……アンジェ。食料庫襲撃には君も参加してもらう。いいね?」


「はい。任せて下さい」


 昨日今日と比較的マシな物を食べた分他の兵よりは動けるはずだ。というか動いてもらわないと困る。


「可能な限り怪我はさせないようにはするけど、アンジェ自身も気をつけてね」


「公平様は優しいですね。今の私は人よりも傷の治りが早くなってますから、大丈夫ですよ」


 根気よく育てていけば、ボーンって感じでふっ飛ばせるくらい強くなるんだろうか。そうなればいいな。その頃には俺の嫁はどれだけの数いるのだろうか。アンジェだけなのか。はたまた幸せと魅力がいっぱいのハーレムを形成しているのか。


「そっか。アンジェには戦乙女として兵の士気を上げてもらいたいんだ。騎士長の代わりに演説をするとか、指揮を執るとかね」


「戦乙女としてですか?」


「そそ。勝利の女神、戦乙女としてね。大丈夫、そんなに難しい事じゃないよ。俺が台本を作るからそれを読み上げるだけでいい。メアリー、この世界の戦乙女はちゃんと勝利の女神として扱われてる?」


 扱われてなかったらその時はその時だ。なんか適当に箔付けてそれっぽくすればいい。こっちには奪われたものを取り返すという大義名分があるんだ。なんでもいいのさ。


「扱われてるわよー。戦乙女の他にも聖騎士とかがいるみたい」


「じゃ、そういう事で。アンジェ、頼んだよ」


「はい。わかりました」


 さて、それじゃ後は騎士長と打ち合わせかな。敵は30人だしそんなに苦労する事も無いだろうけど、やっぱり念には念を入れようかな。


「どれ、騎士長のところにでも行くかね」


 上から見た感じ火は大体消えたみたいだな。これぐらいの時間だったら馬肉もちょっと焼き過ぎかなってぐらいで、表面を削げば食べれるな。これでどれだけ兵が回復するかって話しだけど、最低でも弓矢の生産とかはしてもらわないと困るな。


 弱兵は飛び道具を使わなきゃ勝てないってのが痛いな。作戦の幅が狭められる。これが鉄砲とかだったら何も考えずに済むんだけどなあ。嘆いてもしょうがないか。


「公平か。どうした?」


 騎士長は1人兵達の輪から外れて、もそもそと馬肉を食べていた。


「この後の事を説明しようと思いましてね。どうです? 兵達は馬ちゃんと食べれてますか?」


「最初は抵抗があったみたいだけどな、今はほれ、皆美味そうに食ってる」


「よかった。ちゃんと水分も取らせるようにしてください。で、食料奪還の話しですが、ちょっと聞いておきたい事がありまして」


「ん? なんだ?」


「夜までに弓矢大量に生産する事出来ますか?」


「ああ、大丈夫だ。どれくらい必要だ?」


「ええ……と」


 失敗したな。食料庫の規模をハウトゥーファンタジーで調べておけばよかった。予定では弓でハリネズミにするはずだったけど、足りないと困るな。


 それに後々の事を考えれば多い方がいいよな。食料庫奪還の次はモントーネ村の奪還だ。恐らくモントーネ村に派遣された兵の数は、スフィーダ王国よりも少ないだろう。で、あれば飯を食べたスフィーダ兵を使えば奪還は容易なはずだ。それも計算に入れて……。


「大体300本ですかね。食料庫奪還用に最低でも100以上は欲しいです」


「さっきので大分減ったからな……備蓄が150くらいだから、まあ間に合うだろう」


「食料庫奪還に使うのは矢尻付けなくていいです。先端を尖らせた木矢で十分です。大事なのは本数です」


「わかった。ところで、お前はさっきドミーナ王国を無力化すると言ってたな。勝算はあるのか?」


「あります。食料庫を奪還したら、スフィーダ王国と同じようにドミーナ王国に攻められている国を順に奪還します。それらを味方につけてドミーナに攻め入ります」


「ダメだ。攻め入れば逆にこちらが壊滅させられる可能性がある。悔しいがドミーナの兵は強い。だからこそ俺達の国以外にも同じような状況の国出来てるんだ」


「大丈夫です。そのために捕虜をとってもらったんです。王は必ず王宮から出るタイミングがある。それを狙って一気に攻め入り、王のみを目標に捉えます」


 仮にハベルが嘘を吐いたとしてもこっちにはハウトゥーファンタジーがある。攻め入るタイミングを誤るという事は無い。唯一負ける可能性があるとすれば、それは兵の弱さだ。


 恐らくどこの兵も栄養失調でろくに戦えないはずだ。それが唯一にして最大の懸念だ。だからこそ弓がいる。弓ならば兵一人ひとりの弱さをカバー出来る。大事なのは小細工だ。せこいと言われようが勝った者が正義なのだ。


「お前……そんな事まで考えていたのか。俺は、お前も見くびっていたようだ」


「いえ、俺1人に出来る事なんて限られてます。現に俺は戦闘には参加出来ません。任せっきりです。だから、俺は俺に出来る事をするんです」


「そうか……そうまでしてお前を動かすのはなんだ? 金か? 地位か? 名誉か?」


「俺は失われたものを取り返すだけです。あなた達には悪いですが、俺の踏み台になってもらいます。だから、今回の件が落ち着いたらしっかりと対価はいただきますし、契約も結んでもらいます。もっとも、対価はもうもらってますけどね」


 そう、一番の目的、嫁の確保。今行っているのは嫁さんへの奉仕活動だ。嫁に苦労を強いないために我が12畳のキングダムを大きくして、一緒に住むのだ。そのためなら俺は苦労を惜しまないぞ。


「悪魔の契約にならないのを祈るよ」


「大丈夫ですって。そんなに難しいものじゃないです。今は目の前の事に集中しましょう。その辺話しは後です。さ、話しを戻しましょう」


「ああ、食料奪還の話しだったな。木矢の他に何かいるものがあるのか?」


「食料庫からかっぱらったものを入れる容器と台車、火をおこす道具。それと、アンジェに演説をさせます。後で兵を一箇所に集めてください」


「わかった。兵はどれぐらい連れて行くつもりだ?」


「そうですね、戦闘用に50人、荷物用に40人で合計90人ですかね。アンジェも連れて行きます」


「悪いが、90は無理だ。出せて60だな。ここを守るやつがいなくなってしまう」


 60人か。弱っている人間にこの国を賄う量の食料を一回で運び出せるか? 無理だな。ローテーションにするしかないか。だがそうすると兵が危険にさらされる危険性が出てくる。


「ちょっと待っててもらえますか。一度作戦室に戻ります。案を固めてきます」


 ハウトゥーファンタジーだ。情報を武器にして最大限効率良く兵を運用しなければならない。


 てか、兵は弱い、数は少ない、飯は無い、敵は強いってどんだけだよ。ハードモード過ぎるだろ。いくらなんでも酷すぎる。




「メアリー、ハウトゥーファンタジーで食料庫の兵の交代時間を」


 作戦室に着いた俺は羊皮紙にタイムテーブルを作成する事にした。これには俺自身全体を見渡す目的と使う兵にわかりやすく説明するための2つの意味がある。


「0時に交代よー」


 現在時刻が17時。食事に1時間、演説と準備に1時間、食料庫までの移動に1時間、戦闘に1時間、荷物積み込みに30分として、もろもろ込みで大体余り時間が2時間か。


 ここを立つのが大体19時、戦闘開始が20時、荷物積み込み開始が21時か。時間稼ぎの証拠隠滅に一時間程度必要だと考えて使える時間がやはり2時間か。往復一回が限界か。もったいないけど、やっぱ焼くしかないか。 うわーやだなー。すげえ反発出そう。


「まあ、しょうがないか。これでいこう。後は……演説だな」


 ふむ、ズタズタになりかけてる自尊心をくすぐるのはそんなに難しいものじゃないから簡単なものでいいだろう。大事なのは何を言うかでは無く勝利の女神が言う事だからな。


「ま、こんなもんだろ。アンジェ、後でこれ読んでね」


 さて、騎士長に説明して、少し休もうかな。




 18時になった。これからアンジェの演説が始まる。騎士長が集めてくれた兵達は規律正しく整列していた。


「これより、私達はドミーナに奪われた食糧を取り返しに行きます。これは、始まりにすぎません。私達は、ドミーナに奪われた全てを取り返します。ドミーナに奪われた家族、友人、土地、何もかもを取り戻します。これは、死んでいった同胞への弔いです! 私達はこれ以上犠牲を出しません。いえ、出させません! 戦乙女、アンジェがここに、スフィーダ王国の勝利を約束します!」


 アンジェは錆びたハルバードを掲げた。同時に兵達も思い思いの武器を掲げ、雄叫びを上げた。


「始まったな」


 後ろで俺と一緒に演説を眺めていた騎士長が感慨深そうに言った。滅びる寸前からここまで持ち直したんだ。彼なりに何か思うところがあったんだろう。


「ええ。俺は言った事はやりますよ。必ずドミーナを滅ぼしてスフィーダ王国を持ち直させます」


 ――俺自身のために。その言葉は恐らく、兵達の雄叫びにかき消されて騎士長の耳には届いていないだろう。

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