サイド騎士長「レゾンデートル3」
「へいへいファッキン幼女あんま調子乗ってっとパンツ脱がすぞ!」
「……サイテーね」
公平の真似をしたつもりだったが、どうやら失敗だったようだ。だが騎士長は諦めなかった。少女が心を開くまで話しかけ続けると心に決めたから。
「……失礼。さっきオレの10倍は生きてるって言ってたが、あれは本当か?」
「本当よ。私は200年前からずっと生きてる」
「そんなに生きてて退屈じゃないか?」
「退屈よ。だから、こうして貴方で遊んでるんじゃない」
バッドコミュニケーション。どこからかそんな言葉が聞こえた気がした。今の会話チョイスはミスだったようだ。常識的に考えて、女に年齢の話を振るのはよくない。長い事男だけの空間で過ごしてきたせいで、騎士長には女性経験がなかった。
しかし、アンデッドとワルツを踊る事を強要されるこの会話においては、ゆっくりと話題を選ぶ事も出来ない。とっさに年齢の話題という選択肢を取ってしまった騎士長を誰が責められるだろうか。誰もが責めないだろう。もっとも、公平なら間違いなく笑いながらユグドラシルの住民に触れ回るだろうが。
「そんな事して楽しいか?」
「楽しそうに見える?」
少女は大木に腰掛け、頬杖をつきながら騎士長を見ていたが、その表情は依然不機嫌そうだった。
「とてもじゃないがそうは見えないね。俺と一緒に話をしようぜ、きっと楽しいぞ」
「嫌よ。貴方みたいなガキと話す事なんてないわ」
「まあそう言うなよ。話してみると案外楽しいかもしれないぞ? だから、この熊動かすのやめてくれ」
「嫌」
騎士長の限界は近づきつつあった。騎士長は何気なく喋っていたが、常に3体以上のアンデッドの相手をしていたのだ。普段から鍛錬を欠かさない騎士長でなければとっくに体力を失って、アンデッドの仲間入りをしていただろう。せめてもの意地として口調だけは最初から変えずに一貫して軽いものにしていたが、それももう、難しくなってきていた。
今まで過ごしてきた仲間達の顔が脳裏をよぎる。めまぐるしく現れては消える仲間達の最後に現れたのは、騎士長が15の時に他界した母の顔だった。
騎士長は生まれた時すでに父がいなかった。直近の魔物との戦いで命を落としていたのだ。そんな騎士長を、母は15年に渡って女手一つで立派に育て上げた。
そんな母との思い出が走馬灯のように―実際そうなのだろう―が駆け巡っていた。
「母さん……!」
騎士長がそう呟いた時、アンデッド達の動きが急に止まった。死を覚悟していた騎士長が、一向に訪れない死に疑問を抱き、薄めを開けると、そこには怒りに肩を震わせる少女の姿があった。
「何が……何が母さんだ! いい年して家族ごっこ!? 何が楽しいのよ!?」
「ど、どうしたんだ」
「どうした!? 私はね、あの女にずっとないがしろにされてきた。ろくな食事も貰えずに、服もボロボロ! 自分は男を漁って快楽に溺れてたわ! 父はそんな母を見て絶望して、私を残して自殺した……。何が家族よ……何が母さんよ……」
「お前の生い立ちは確かに不幸だ。だが、だからといってこんな事をしていい理由にはならない! 今ならまだ間に合う、俺と一緒にユグドラシルに来い。お前の母親のような奴はいない。皆気のいい奴らなんだ。だから――」
「――無理よ……。私は殺しすぎた……。もう、疲れちゃったな。ねえ、殺してよ?」
「な、何を言って……!」
「私の体は不死だから、傷つけても意味がない。けれど、一つだけ、私を殺す方法がある」
そう言って少女はその小さな体に見合わない分厚さを持った本を騎士長に突きつけた。
「この本は私の命そのもの。これがなくなれば、私も死ねる」
「ふざけるな! 命をそんな簡単に捨てようとするな!」
「なんか、疲れちゃったのよ」
「そ、そんな事……」
「お願い……」
少女が本ごと、その体を騎士長に近づかせた。
「う……うううああああああああ!」
――ザシュ!
サイド騎士長完結




