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55話 My Secret

「穏やかじゃないですね」


 主に俺の心中が。寝起きから意味不明なやり取りをさせられて、挙句の果てには朝飯を半分以上食われて、心中穏やかであるはずがない。


「ポリポリ。んークッキーおいしー」


「お前どんだけ食うんだよ! 頼むから話しを進ませてくれ」


「別にいいんだけどさー。すごいシリアスになっちゃうから今の内にふざけておかないと後で後悔するわよ?」


「いいよ。もう十分ふざけたじゃん。こっちとしてもやる事大体やっちゃったから、行動を起こす必要があるならあるで早くしたい」


 セラムにインフラの整備を提案した見返りに、ユグドラシルは物資を湯水のように使えるようになった。当然、開発は今までの比ではない程進み、説明するのが面倒な程作業ラインが増えた。


 作業ラインが増えるという事は長期間働く者も出てくる。となると、ユグドラシルに滞在する者、移民する者が大量に出てくる。仮設とはいえ宿泊施設や家屋が増えて、まさに国という感じが出てきている。


「あんたの国も大きくなる兆しが見えてきたものね。いいことよ。これから話す事とあながち離れていないしね。あんたさ、タメツグ・キリエって名前覚えてる?」


「あるよ。この間フェンとデートした時に見た劇のだよな? 内容も覚えてる」


「そ。なら話しは早いわ。その話はお伽話でもなんでもないわ。全て過去に実際に起きた事。事実よ。そして、ホルシは私の母方の先祖」


 ホーリーの口からタメツグって名前が出た時点で予想はしていたが、やはりそうだったか。まさかホルシがホーリーの血縁だったとは思わなかったけど。


「へー。したらあれか。タメツグってやつはやっぱり俺みたいに、こっちの世界に引っ張ってこられたって訳か。んで、迷惑な事に天使と悪魔の代理戦争に駆り出されたと」


「そういう事になるわね。まあここまで話したらわかると思うけど、タナスは今でいうデビルだから。あんたも天使と悪魔の代理戦争に駆り出される訳ね」


「あー。なんかもう色々と嫌だ。なんなんだよもー。せっかく国もいい感じに育ちはじめてきてさー面白くなってきたところだってのに」


 ひっついてるホーリーをどかして俺はベッドにダイブした。そして、枕を抱きしめてゴロゴロしてると、どういう訳かホーリーはベッドのふちに腰掛けて俺のゴロゴロを阻止し始めた。まったくいい迷惑である。ほこりをたてている俺が言えた義理じゃないが。


「もう。あんたもいい加減いい男なんだからそう愚痴らないの。私だってもうちょっと楽しませてあげたかったわよ。でも、デビルが予想外に動くのが早かったんだもの、しょうがないじゃない。前回世界の滅亡を阻止したのが250年前だからもっと後だと思ってたのよ」


 おいおい。そんなポンポンこの世界滅びそうになってんのかよ。どんだけだよ。合戦大好きな戦国時代の武人もびっくりだよ。


「もーうだうだ言ってもしょうがないのはわかるけどさー。でもでもけどさー。このもやもやした気持ちはどこにぶつければいいんだよ? そうだとりあえずケツ揉ませろ」


 そう言って俺は躊躇なく、天界ポッキーをポリポリしているホーリーのケツを揉みにかかった。


 普段ならば空を飛ばれたりタライを落とされたりと、のらりくらりとかわされているが、これだけ密着すればタライは使えないし、何よりも俺は極めて自然に「揉む」という行為に移った。これは避けられないだろう。


 そして、俺の計算は正しかった。俺は、遂にホーリーのケツを揉む事に成功した。とても良い尻だ。だが、問題はここからだ。この後訪れるであろう攻撃をどうやって回避するか。ここは1つ主人公らしく選択肢を用意していこう。


 選択肢1 褒める


 選択肢2 柿ピーを要求する


 選択肢3 世間話を始める


 なになに? ふんふん。そーかそーか。俺には見えない何者かからの命令に従って、俺は選択肢2である柿ピーを要求すればいいんだな。わかった。


「ホーリー、柿ピーくれ。普通のがなかったら天界柿ピーでも構わない」


「しょうがないわねー。柿ピーだってタダじゃないのよ? 私の少ないお給料から出てるんだから、ちゃんと味わって食べなさいよ」


 あれ? なんか思ってたんと違う。予想された天界もとい展開のどれとも違う。てっきりありがちな「どこ触ってんのよー!」とか「覚悟は出来た?」とかそういうのを予想していたのに。予想GUYです。


「ど、どうも」


 俺はビクビクしながらも差し出された柿ピーを受け取った。笑顔が怖いです。これは俺の持論だが、浮気がバレた際、女側は事実を知っても多少たしなめる程度に抑えてニコニコとされる方が、罵倒されたり殴られたりするよりよっぽど怖いし、よっぽど効く。


 まさに今の俺の心境だな。なんで俺は安易に尻を揉むなどという選択肢をとってしまったんだ。だが、失敗したとは思えど後悔はない。素晴らしい感触だった。


「別に私のお尻揉んでもいいんだけどさー。やる事ちゃんとやってよ? あんたこれから戦争よ、戦争。わかってんの? 嫁増やして育てて、国大きくして兵器開発してさー。デビルが連れてきたの軍人よ? 戦車とか作られたらどうすんのよ」


「す、すいません。キビキビ働きます」


「わかればいいのよ。私もちょくちょくこっちに下りるようにするから、あんたはとりあえず……そうね、ドワーフ達に新兵器の開発を命じて、竜人を嫁にしなさい。じゃ」


 言うだけ言ってホーリーは天界に帰って行ってしまった。嵐のような女だ。しかし、まったくもって面倒な事になった。要するに勇者になれという事じゃないか。


「よし、とりあえず、ハルに飯ねだりに行くか」


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