45話 まかせて!★スプラッシュ☆スター★
ところ変わって会議室。というか、完全に会議するためだけに存在する家に、ユグドラシルの偉い人が全員集まった。
「今回の議題は傭兵団の到来についてです」
毎度毎度どうしてお前はそんな事がわかるんだ? などという事を一々聞かれるのは面倒だったので、人にはそれぞれ聞かれたくない事があるだろ? 俺の場合はこれだよ。という、心理学に基づいた魔法の言葉でねじ伏せた。この際ポイントなのはちょっと悲しそうな顏をしながら言う事だ。
なので、以降聞かれる事はないはずだ。適当に未来予知出来る、とか言ってもよかった気がするけど、嘘を吐くのもなんか嫌だったからこういう形を取らせてもらった。
許せ。ユグドラシルの皆よ。
「物騒な話しだが、会議を開く程の事か? わしらはなんもやっとらんだろ」
と、モントーネ村のじーさん。確かにじーさんの言う事はもっともだ。だが、今はそれが問題だという事を皆に理解してもらわなければならない。
「そう、そこが問題なんだ。何もしていないのに、なんでここを通るのか。無用な面倒を避けようと思うのなら普通は迂回するはずだ。だけど、彼らは真っ直ぐにここに向かってきている。もうこれはここに用があると考えていいだろう」
「また戦か?」
騎士長の発言にある者はビクビクと、ある者は面倒くさそうに、またある者は関係ないと言わんばかりだったが、皆次に続く言葉に耳を傾けていた。
「いや、相手は人間だ。交渉してみるさ。戦は最終手段」
「そうかい。パパっと追い払っちまった方が俺としては楽なんだけどな」
確かに楽だがその後に面倒が舞い込む可能性があるからなあ。よしんば今回来た奴らを追い払ったとして、それに腹を立てたまた別の奴らが攻め込んでくるかもしれない。
そしてそいつらも追い払ったら今度はまたそれに腹を立てた別の奴らが攻めこんで来る。無限ループだ。息の根を止めないといつまでも続く。
今回の奴らにしたって、ドワーフを助けるために倒した奴らと関係があるかもしれない。もはや名前すら忘れたが、あそこが実は大国と繋がっていた、なんて線も考えられる。
もしそうだったとしたら和平交渉をしなければならない。今他所の国と戦争をするのはクールじゃない。可能な限り物事を穏便に運びたい。
「交渉は俺がする。アンジェとフェンリスを中心としたフェンリル隊で俺の護衛をお願い」
「数はどれ程出せばいいですか?」
「アンジェとフェンリスを合わせて10人。敵意がない事をアピールするために、武装は最低限で頼む。俺は普通の服装に銃だけ隠し持つ形にする。他もそれに合わせる形で」
「わかりましたわ」
「で、ここからが本番だ。戦闘が避けられない場合を考慮して、カンナを中心としたエルフの遠距離部隊と、騎士長を中心としたフェンリルの近距離部隊を伏兵として配置する」
この伏兵は交渉のジョーカーとしても使える。雲行きが怪しくなった時に、実は私お友達連れてきてるんですよねー、なんて言ったら、相手も警戒せざる負えなくなる。
こっちはあなた達に勝てるんですよ? あくまでも善意で交渉してるんです。で、なんでしたっけ? もう一回言ってください。なんて煽ったら最高に気持ちがいい。
こっちは相手が伏兵を配置していない事を予め知ってるからな、いくらでも嫌がらせ出来る。もっとも、俺がそんな事されたら悔しすぎて歯が砕けるけどね。全く、後出しジャンケンは最高だぜ。
「と、すると俺らはバレないように隠れてなきゃいけない訳だが――」
「ここだね」
騎士長の言葉を引き継ぎ、地図の一部を指さした。すなわち、森の中にぽっかりと開いた空間だ。どういう訳か、森の真っ只中だというのに、そこだけ木が生えていないのだ。
実際に行った事がないのでなんとも言えないが、この地図はハウトゥーファンタジーを元に作成されているものなので、精度に問題はないはずだ。
「だな。ここでお前らが交渉して、俺らは左右に散って監視する。合図はどうする?」
「アンジェにやってもらおう。俺が目配せしたら、そうだな……地面を蹴ってくれ」
「わかりました」
「こんなところか。敵さんの隊長は殺さないでくれ。尋問する」
「りょーかいっと。しかし、きな臭い話しだな。案外、傭兵団の奴ら俺の知ってる奴だったりして」
本当に、きな臭い。仮にここを襲うのが目的だとしたら200人は明らかに多過ぎる。しかし、ウォームなんかの国にケンカ売るには数が足りない。
悪い予感がする。何度も言うが、俺の悪い予感はかなりの確立で当たるのだ。今回も、恐らくその例に漏れることなく何か面倒事が起きる。きっとな。
第三者の目線で語られる公平。その評価はセラムの中では最高のものだった。
セラムの登場は新たな騒動の火種となるのか?
次回 お楽しみに




