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11話 so much love for you

食料と食糧は厳密には意味が違いますが、面倒なので食料で統一してます

後おっぱい

3日目


 小石を踏んだ車輪が伝える振動が眠りを促してくると同時に、大きな石を踏んだ車輪が伝える振動が俺のケツを痛めていた。馬車というものは何度乗っても慣れない。


 モントーネ村まで後30分といった所だろうか。肩の上ですうすうと寝息をたてているメアリーと同じように俺も眠りたい。しかし、アンジェや騎士長が起きている以上眠る訳にはいかなかった。眠たい目をこすりながら今後の事を思索する。


 モントーネ村が襲われるのは明日の早朝、それを追い払う事自体は簡単だ。問題はその後にある。


 モントーネ村の村人には解放後すぐに、一時的とはいえ村を放棄してもらう必要がある。どうやって納得してもらうか。やっぱり、食料をチラつかせた威圧外交しかないのかなあ。そういう事すると遺恨が残るし、不信感も抱かれるんだよなあ。


「どうしたら納得するかなあ。メアリー起きて。ハウトゥーファンタジーちょうだい」


「……んんう。はい。メアリー眠いからまだ寝るね。おやすみ」


「おやすみ」


 うーん。モントーネ村は一度もどこかの国の領地となった事はないのか。付け入るとすればここかなあ。


 一般に領地というとマイナスなイメージが強いけど、一概に悪いとは言えない。領地の最大のメリットは文明度の向上と生活の安定だ。国力が高い国に統治されれば、外敵から攻撃される可能性が減る。ひいては盗賊なんかに襲われて畑が全滅するなんていう事がなくなる事に繋がる。


 では何故領地という言葉にはマイナスなイメージが付きまとうのか。理由は簡単だ。統治している国が圧政をしいたり、国土拡大や戦争の要因とするためだけに統治してる場合は領地にとってマイナスしかないからだ。


 このように領地というのは統治する国でプラスかマイナスに極振りされる。中間はないと言ってもいいだろう。


 今回はモントーネ村にスフィーダ王国の領地となる事のメリットを説いて、味方に引き入れるのが安牌かな。


「公平様、朝ごはんは食べますか?」


 アンジェがパンと干し肉を差し出した。どちらも昨日食料庫から持ちだしたものだ。保存用に加工されていたので、どれも水分を含んでいない。口の中が乾く系の食べ物だ。


「うん、食べる。ダルいから食べさせて」


「はい、あーん」


 冗談で言ったんだけど、表情1つ変えないで食べさせてくれた。嬉しさ半分恥ずかしさ半分。心なしかマズイはずのパンが美味く感じた。


「あ、ありがとう」


「はい、お水も飲んでください」


 水の果てまで飲ませてくれるとは。流石アンジェ。俺の嫁さんは素晴らしいな。


 アンジェにご飯を食べさせてもらっていると、ふと刺さりそうな視線を感じた。騎士長だった。


「どうしたん? さっきからぶすっとしてるけど」


「睡眠不足の時にそんなもん見せられたらイライラする」


「あれ? 騎士長って結婚してないん? 結構いい年に見えるけど」


「ふっ。俺は国にこの身を捧げたんだ」


「つまりしていないと」


「うるせえエビフライぶつけるぞ」


「え?」


「え?」


「お二人共、モントーネ村に着きましたよ」


「お、ホントだ。結構いい村だな」


 馬車を降りて最初に感じたのは穏やか空気。次いで他方から感じるとても友好的とは言えない視線の数々。


「と、思ったけど、あんまり歓迎されてないみたいだな」


「だな。だからと言って俺達のやる事に変わりはないさ」


「その通り」


 なんていうやり取りをしていると、村長と思われる初老の男が、剣で武装した男を数人引き連れてやってきた。


「なんのようだ。お主らどこの国のもんだ」


「お初にお目にかかります。私達はスフィーダ王国の者です。本日はドミーナ王国の事でお話がありましてこのような形を取らせていただきました。連絡も無しに来た事、どうぞお許しください。何分話しが急を要するものでして」


 こんなところかな。こっちゃ最大限低姿勢で挨拶したけど、そっちはどうでる? 喧嘩腰でくるのだけは勘弁な。


「話しを聞こう。ただし、家に通すのはお主ら3人だけだ。後ろにぞろぞろおる兵は村には入れんぞ」


「わかりました」


 そうして俺達は村長の家へと案内された。途中村の生活を覗かせてもらったが、スフィーダ王国程食料に困っている風には見えなかった。さっき武器を持って現れた男も体がやせ細っているようには見えなかった。これは何か理由がありそうだな。


「それで? 話しとはなんだ」


「明日、朝早くにドミーナ王国が村に攻め入ります。我々はそれを追い払うのに協力したいと考えています」


「いらん。今までもこの村は自分達の力で守ってきた。これからもそうするつもりだ」


「そうおっしゃらずに。ドミーナに奪われた食料を取り戻す手伝いもしますから」


「ふん。結局はそれが狙いじゃろ。この村は自分達の手で守る」


「明日来るドミーナ兵の数が20人だとしても? それも重武装の」


「くどい。お主らの助けなんぞいらん」


 こ、このクソジジイ……! 取り付く島がねえ。いかん落ち着け。俺は紳士だ。そう、あくまでも紳士的に対応するんだ。紳士的に物事を考えれば自ずと道は開ける。


「ところで、モントーネ村は一度も他国の領地となった事がないそうですね?」


「それがどうした」


「これを機にスフィーダ王国の領地になる気はありませんか?」


「断る」


「領地と言っても完全に統治する形にはしません。物々交換に重点を置いた統治にします。つまり、対等の立場で貿易を行おうという事です。なので、領地といっても形だけのものになると思います」


「わしらに対してのが益が少なすぎるな」


 お、食いついたな。このまま釣り上げてやる。


「今回に限らず今後も他国に攻め入られる事があると思います。その際にスフィーダの名を出せば衝突を避けられます。もちろんその国がスフィーダよりも国力が低い所であれば、ですが」


「…………お主らはドミーナに勝つ気か?」


「もちろん。それにはあなた方の協力が必要なんです。お願いします。ただでとは言いません。協力してくださるのであれば、今ここで食料の援助を行います」


「協力しないと言えば?」


「意地でも協力すると言わせます」


 村長が作り出した沈黙が場を支配した。だが、同時に沈黙を破ったのも村長だった。


「……いいだろう。協力してやる」


「ありがとうございます。契約書などはドミーナとのいざこざが終わった後に使いをやります。そこで正式な契約を結びましょう」


「ふん。わかったからとっとと食料を寄越せ。当然村人全員の分があるんだろうな?」


「もちろんです。炊き出し用の道具は持ち合わせていないので、そちらはお任せします」


 このジジイを相手に取り引きするのは骨が折れそうだな。外交スキルが高いとかじゃなくて頭が固い。そのくせ妙な所で利益を嗅ぎつける。


 面倒くせえな。用が済んだら火でも放って全滅させてやろうかな。可愛い子ちゃんがいれば全力で守るんだけどな。そう都合よく可愛い子ちゃんがいるはず――


「お父さん、お話は終わった?」


 ――あった。驚きだ。こんなクソの累乗みたいな村に咲く一輪の花。間違いない。この娘は俺の嫁になる子だ。


「ハル。この人達が食料を分けてくれるそうだ。炊き出しの準備をしなさい」


「え、本当ですか!? ありがとうございます! でも、私達はろくなお礼は出来ないですよ……?」


「いいんですよ。元々私達はこの村の援助に来たんですから」


 そうですよー。私はあなたのような可愛い子ちゃんを助けるために日々頑張っているのです。あなたのおかげでこの村は救われます。


「ふん。ハル、そんな男に頭を下げる必要はないぞ。その男は悪魔だ。体中から悪魔のオーラがぷんぷんする」


 クソジジイがああああ。誰が悪魔じゃ! せっかく村を救ってあげようとしてるってのに悪魔はねえだろ。てか、俺どんだけいろんな人に悪魔悪魔呼ばれてんだよ。そんなに悪魔っぽいのかな? 私小悪魔サリーちゃんってか。気持ち悪。


「こらっ! ご飯をくれる人にそんな事言ったらダメでしょ? すみません、気分を害されてませんか?」


 なんていい子なんだ。このクソジジイからこんなに可愛い子が生まれてくるなんてとてもじゃないが考えられない。


「いえ、あなた方から見たら私達は信じられないでしょうからね。気にしてませんよ」


 俺は悪魔も逃げ出すであろうぼさつのごとき笑みを顏に貼り付け言った。すると彼女も笑みを浮かべこう言った。


「よかった。それじゃ、私炊き出しに行ってきますね。本当にありがとうございます」


 俺は部屋を出て行くハルを背中に穴が空くかのごとき熱い視線で見送った。恐らくこの部屋に俺以上に熱い視線を持った男はいないだろう。と、思ったがいた。クソジジイは俺にまばたきもせずに熱い視線を送っていた。


 俺の事をいつから見つめていたのか目が乾いて充血していたうえに、苦悶の表情を浮かべていた。ちょっと笑ってしまった。そこまで頑張らなくてもいいのに。


 クソジジイの熱い視線に込められた色は、俺のように美しいピンク色ではなくドロドロへどろのようなどす黒いものである事は言うまでもない。


 村長の娘ハルが作った料理はとても美味かった。あの限られた材料でどうすればここまで美味くなるんだ。すさまじい料理スキルだ。


「お口に合いますか?」


 タルの上に座り、1人羊皮紙と睨めっこしていた俺にハルが寄ってきた。いや、1人というのは語弊(ごへい)があるか。肩に乗ったメアリーと置物のように俺から少し離れた位置で俺を監視するアンジェの3人と言った方が正確だな。


「すごい美味しいです。あの材料でよくこの味が出せますね」


「よかったです。あんなに沢山の食材は久しぶりに見たので張り切っちゃいました」


「ところで、このスープに入っている卵はこの村のものですか? 積み荷にはなかったはずですが」


「そうです。この卵と僅かな野菜で今まで食べ繋いできたんです。なので、こんなに沢山食べるのは久しぶりなんです。公平さん、本当にありがとうございます」


 疑問が1つ解決した。この村の人がスフィーダの人程弱っていなかったのはこの卵のおかげだ。


 卵にはおよそ人が生きていく上で必要な栄養素がほぼ全て含まれている。なんていったって元々は命だからな。人はとりあえず卵とコメ食ってたら生きていける。卵バンザイ。


 というかよく見ればこの村、鳥の他にも動物を飼っていたみたいだな。そこら中にその形跡が残っている。これは、ひょっとするよひょっとするかもしれん。この村はやっぱり全力で救った方がいいかも。将来的にいい農地になりそう。


「お礼なんていいですよ。ところで、この村はドミーナに襲われる前は野菜を育てたり、家畜を育てたりしていたんですか?」


「そうです。鳥の他にも牛や豚なんかも育てていましたし、他にも野菜も沢山育ててましたよ」


 素晴らしい、素晴らしいよここ。ここ欲しい、喉から手が出る程欲しい。思いっきり手を加えて農業プラントとして生まれ変わらせたい。確かスフィーダ王国にも作物がよくとれる土地があるとか言ってたな。あれ? ひょっとしてこの辺実は豊かな土地なんじゃね? これで鉱山資源まであったら完璧だぞ。


 ああクソ。力が欲しい。金でも軍事力でもなんでもいいから欲しい。あったら即効で他国に侵略しまくって一瞬で国大きくするのに。


「こーへー。かおかお。こーんなになってるよ」


 そう言ってメアリーは手で顏をつまんで悪魔みたいな顏をした。なんてこったまた俺は悪い顏をしていたのか。


 どうも俺はキングダムの事を考えると悪魔顏になるらしいな。程々にしないといつか痛い目にあいそうだ。


「妖精さんですか。苗字もあるようですし公平さんは偉い方なんですね」


 この世界の常識。苗字があるのは一部の王族と貴族のみ。妖精を連れられるのは選ばれた者だけ。そうだった。俺はこの世界では平民とは見られないんだった。騎士長とばっか付き合ってたから忘れてたよ。


「そんな事はないですよ、今はまだ。これから偉くなるつもりです」


「ふふ。公平さんは自分で国を作りそうですね」


「鋭いですね。近いうちに私は国を作りますよ。その時は、ハルも一緒にどうです? 快適な生活を約束しますよ」


「ぜひ。お願いします。どうせなら私をさらっていってください。あそこで見張っているお父さんから」


 ハルが指さした場所を見ると、村長が例のまばたき1つしない熱い視線を俺に送っていた。目はやはり乾いて充血していた。顏がさっき見たのよりも苦しそうだった。いつからああしているのだろうか。ひょっとしてずっとまばたきをしていないのだろうか。いずれにせよ、俺は笑ってしまった。


 一層村長の顏が険しいものになったのは言うまでもない事である。


 久々に暖かな食事と、可愛い女の子との会話で心温まった俺は今、寝床として改造された馬車にいた。床に敷かれた何重ものタオル等の布のおかげでいつぞやに泊まった宿よりも遥かに柔らかいベッドは、俺を心地よい眠りへと導いてくれる事だろう。


 ハルと楽しそうに会話していたのを見て嫉妬したのか。一緒に床に入ったアンジェが先程からしきりに体を押し付けてくる。美人なアンジェの柔らかな体が押し付けられるたびに俺の大根が自己主張をしようとするが、俺はそれを超人的な精神力で押さえつけていた。


「あのーアンジェさん。そんなにベタベタされると寝づらいんですが」


「離れてほしいんですか?」


 そんな消え入りそうな声で言わないで。可愛すぎるから。


「そんな事はないさ。むしろもっとひっついてきなさい!」


「はい!」


 君のその笑顔のおかげで、僕は今日も眠れなさそうだよっ! お経でも唱えるかな。いや、そんな事をすれば変なものを呼びそうだ。


「こーへー。いい事聞きたい?」


 俺の頭上でハウトゥーファンタジーを読んでいたメアリーが言った。


「聞きたい」


「ハルって子、こーへーのお嫁さん候補よ」


「マジで!?」


「マジよー。お嫁さんに出来るかどうかはぜーんぶこーへーの頑張りしだいだけどねー」


「よっしゃ。全力で嫁にしてやる。クソジジイが最大の敵だな」


「嬉しそうですね?」


 アンジェが一層体を押し付けてきた。2人の距離はゼロセンチ。互いの吐息が聞こえるとはこの事だろう。それだけに留まらず、アンジェは俺に足を絡めてきた。最早俺の超人的な精神力も限界を迎えたようだ。大根が畑から出てしまった。


「ふふふ」


 アンジェが妖艶な笑みを浮かべた。目が潤んでいる事と唇を舐める舌がやけに赤いのが印象的だった。


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