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九話

 割って入って「俺が相手だ」と言ったら、少しの静寂ののちに勇者どもから爆笑が沸き起こった。

俺が下級魔族の姿だからだろう。

そんな雑魚が最強無双の階級クラスである勇者6人に対して、宣戦布告をしている。

 確かに鼻で笑われても仕方が無い状況だ。


「……あれ? おいコイツ。前魔王のレイドだぜ」


 勇者の一人が俺の正体に気付く。

 だが、やつらの空気はまだ弛緩したままだ。


 奴らにとって俺は、先日まで痛い目にあわされてきた相手だが、魔王から陥落した今は、相手にする価値も無しという事だろう。

 警戒心が全く感じられない。


 だがチャンスだ。

 奴ら俺を舐めている。


 俺は後ろを振り向くと、全速力で駆け出す。 


「ひゃっ!?」


 背後に居たナリカを素早く脇に抱えると、全速力で玉座に向った。


「お、逃げたぞ」

「待てっての」


 追いかける声もどこかふざけた雰囲気だ。

 真剣味がまるでない。

 その証拠に、走ればすぐにでも追いつく事ができるはずなのに、「やれやれ」といった様子で歩いて追いかけてくる。


「ふんッ!」


 玉座を力いっぱい蹴飛ばした。

 玉座の下から現れたのは抜け穴。

 何かの役に立つ事もあるだろうと、以前に抜け道を作っておいたのだ。


 俺はナリカを抱えたままその穴に飛び込んだ。


 この穴は抜け穴ではあるのだが、外には通じていない。

 このまま進むと真玉座という場所に通じている。

 そこまでの経路は長くないので、時間はそれほど稼げない。

 奴らはすぐに追いついて来るだろう。


 だが迎撃準備の時間が数分稼げればそれでいい。


「ナリカ!」

「は、はい魔王様!」


 中の人は夏莉奈だというのに、この混乱状態のせいかナリカの口調も昔のように戻っていた。

 俺の話し方も以前と同じ感じに。


「勝つためにはナリカの協力バックアップが必要だ」

「は、はい」

「コンソール出して、俺が指示する場所を押していってくれ」

「……はい。わかりました」


 他人のコンソールは本人以外が押しても反応しない。

 魔王専用の操作パネルを呼び出してもらって、ナリカ自身にボタンを押してもらう必要がある。


「まずは俺に《特別功績》を与え――《黒梟魔曹長シュヴァルツ・オイレ》に昇格」


 逃げながらナリカに指示していく。


「シュヴァ……? は……あ、えっ!? あ、あれ、どこ?」

「右下のそこ! 次は右上の赤いところを押して! はやく!」

「は、はいっ」


 黒梟魔曹長は速さに特化したタイプ。

 だが攻撃力や防御力は最低クラス。

 今の状態で出来るクラスチェンジでは、勇者の攻撃を受ければ一撃で死ぬ。

 ならば防御力なんか最低でいい。一撃でも百撃でも同じ事なのだから。


「次は《魔王ノ授力》を俺にチャージして。振り分けは全部スピードで」


 たどたどしい手つきながら、ナリカは俺の指示に従っていく。


 《魔王ノ授力》とは通称魔王ドーピングと呼ばれるものだ。

 1時間ほどしか持続しないが、一時的に部下を強化できる。


 さらに指示を出していき、スキル、装備を再度整えてもらう。

 武器は槍に、鎧は軽量のものに。

 大幅不利は変わらないが、これで勇者達を迎え撃つ最低限の準備ができた。


「よし。あとは最後の――」


 と言ったその時、奴らの嘲笑がかすかに耳に届く。


 次の瞬間、背後からごうと熱風が吹いた。

 それを追いかけるように、凄まじい轟音をと共に爆発が起こる。


「ぐあッ!」

「きゃっ!」


 俺達は同時発生した爆風に吹っ飛ばされる。

 俺はナリカを守るように抱きしめ――地面を転がった。


「……ってぇ」

「ま、魔王様っ、大丈夫ですか!?」

「ああ平気だ。それより急ぐぞ」


 奴らがすぐ近くに迫っている。

 最後の指示を伝えるつもりだったが、そんな時間は無いか。


 煙だらけの視界の中、ナリカの手を引いて真玉座の間にたどり着き、大扉を開いて中に飛び込んだ。


 ここから先は袋小路だ。

 この先の逃げ道はない。


 つまりここから生きて出たければ――


「鬼ごっこは終わり~?」

「愛の逃避行とかオニむかつくんだけどォ」

「つーか、悪役っぽくね? 俺ら」


 煙の中から次々と現れる、赤、青、紫、緑、黒、白の鎧を着た勇者達が横一線に並び立つ。


 ――こいつら全員を倒すしか活路は無い!


 さぁ、頭を働かせろ!


 俺は元々真っ向から闘うタイプじゃない。

 いつも通り最善を選び実行していく。

 そこに勝ちの道筋があるはずだ。


「おい。俺にレイドとらせろよ。こいつには借りがあんだよ」


 一歩前に進み出たのは赤の勇者ルゼ。


 どうやってコイツをおびき寄せるか考えていたが、ラッキーな事にあっちから出てきてくれたか。


 ルゼは以前マグナを極限まで吸い取り、出し殻状態にしてやったあの勇者だ。

 そうとう運がいいのか、あの絶望的な状況から逃げのびて、生きながらえていたらしい。


 以前も説明したが、ルゼは頭に血がのぼりやすく、チームワークを乱すタイプ。

 そのうえ“全体攻撃系”を特に好む。


 彼は敵ではあるが、俺の戦略では俺達の救いの神になるはずだ。


「借り? 俺はお前なんか知らんぞ?」

「はぁ? とぼけんなよテメエ。勇者ルゼだよ! 先日タイマンしただろうが!」

「あ……俺が原人にしてやったあの勇者か。あの状態からそこまで戻したんだ。へぇ、運がすごくいいなお前」

「運じゃねえよ! 実力でここまで戻したんだよ!」

「それはないだろ。だって初心者だろキミ?」

「アホか。誰が初心者だよ! もう5年もやってるっての」

「あ、そうなの? あまりに動きが悪いから初心者だと思ってたよ。ま、それならよかった。初心者狩りって後味悪いからな」

「くっ……言っとくが、勇者対魔王はかなり魔王に分があるんだ。勝って当然の勝負なんだぞ? そんなんでいい気になってるって……ふん。滑稽すぎる」

「まあそうみたいだな。お前勇者なのに1ダメージも与えられなかったしな」

「あ、あれはっ……!」

「世間一般の有利不利は知らんが、勇者ルゼと魔王レイドの差は、天と地ほどあったみたいだな」


 そう言うとルゼは顔を真っ赤にしてぷるぷると震えだした。

 その様子を見て、仲間の勇者達からもくすくすと笑われ始めた。


「ぐぅ…………クソが! 有利な状況で勝って威張ってんじゃねえよ!」


 いいぞもっと怒れ。


「《無慈悲ナ降星メテオスォーム》!」


 《無慈悲ナ降星メテオスォーム》――隕石を落とす全体攻撃魔法。その威力は凄まじく、当たれば勇者魔王といえどただでは済まない。そのうえ室内で使用すると、壁を飛び越えて降って来るので避けづらく、非常に強力な攻撃魔法である。


 ただし一対一ならともかく、敵にも味方にも当たってしまう魔法なので大きなリスクがある。


「おいルゼざけんな!! 味方こっちにも当たるだろーが!」

「あ? しらネーよ。それくらい避けられるだろ?」

「くそ、あのアホがっ! だからルゼを仲間に入れるのを反対したんだ、オレは!」


 勇者陣営は混乱のるつぼと化していた。


 隕石が地面に降り注いで煙があがり、それが煙幕のようになる。

 互いの姿の視認が、困難な状況になっていた。


 普通は一度引いて隕石が止むのを待つところだが、俺はあえて降り注ぐ隕石群に突っ込んで行った。


 圧倒的不利なこの戦況。

 尋常な戦闘では、100回闘っても1も引けやしない。

 普通な事をやっていたのでは絶対勝てない。


 だからこの混乱に乗じてハイリスク、ハイリターンを取りに行く!


 突っ込んだその先に、煙のスキマから緑の鎧の背中が見えた。

 緑の勇者だ。

 奴は隕石に対し魔法防御を張っている。

 そっちに気を取られこちらにはまだ気付いていない。


 このゲームはいかに体力差があろうが、物理攻撃かクリティカル属性の魔法でクリティカルポイントを攻撃すれば一撃死する。

 だからどれだけ強い相手だろうとワンチャンスがある。


 だが通常はソフトボール大の当たり判定が、上級クラスへなるにつれて小さくなっていき、勇者クラスになると米粒ほどの大きさになる。

 強いクラスの敵ほど、当てる事は困難になってくる。


 だが個々の大きさは変わっても、クリティカルの絶対位置自体は全員変わらない。


 俺はそこを突く修練を毎日千回行なっており、それによってクリティカルポイントが、まるで透けて見えるようになるまでになっていた。


「えっ……?」


 素っ頓狂な声を出す緑の勇者。

 突然背後に現れた俺に反応し切れてない。


 胴体の中心点、そこから10センチ左にずれた場所……ここだ!

 ここがクリティカルの位置。


 槍を振り絞り、一気に突き抜ける。

 槍は緑の鎧を貫いてクリティカルポイントをも貫通し、心地よい手応えが手に伝わる。


「なんだ……コレ。なんで俺、一撃死してんだ……よ」


 俺は槍を引き抜くと、すぐに身体を反転。

 地を蹴りナリカの元に向う。

 後ろ目に緑の勇者の様子を確認すると、奴の身体は光と共に消えていく途中だった。


 ――よし……あと5人だ。

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