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七話

 さすがに7人もの勇者が同盟を組むとは俺も驚きを禁じ得なかった。

 勇者というのは二、三人程度でなら組む場合もある。

 だが基本的に横の繋がりは薄い。


 それは魔族側に比べて人間側はマグナの分配が難しく、賞金の取り分で揉めるケースが多いからである。

 だから同盟の提案をしても、だいたいは渋い顔をされる。


 それがなぜ?


 勇者達が俺を包囲すると、中でもリーダーと思われる奴が一歩前に進み出てくる。

 つま先から頭の天辺まで、黄金の甲冑で覆われている騎士だ。


 雰囲気からでも分る。

 そいつは圧倒的強者のオーラをたずさえていた。


「黄金騎士……本当にいたのか」


 噂だけは聞いていた。

 最強の勇者――黄金騎士。


 勇者はギルドの人数が多ければ多いほど、強い勇者が生まれる。

 人間側、最大人口のギルドである《黄金の風》。

 その勇者がこの黄金騎士である。


 だが黄金騎士は、見たという人間も少なく、集めた情報でも信憑性が低い情報ばかりであった。

 存在は謎に包まれていて、一説には実在しないとも言われていた。


 それがなぜこのタイミングで現れた……?


 黄金騎士はヘルムをかぶり、顔を完全に覆っていた。

 表情をうかがい知る事は出来ない。


 奴は室内をぐるりと見回すと重々しい重低音の声で、


「……女は?」


 と、訪ねてきた。


「女? なんの事だ?」

「ハズレか……――まあいい。ここまで来たついでだ。賞金を頂くとするか」


 奴は鞘から剣をゆっくり引き抜く。

 刀身からは金色の輝きが漏れ、その光は目が眩むほどの輝き。

 他の勇者も黄金騎士にならうように、武器エモノを一斉に取り出し始める。

 他の勇者の武器も超一級品揃いだ。

 だが黄金騎士のは更に2、3ランク上の一品に見える。


 さっきまでは倦怠感が全身を覆っていたが、次はヘソのあたりから沸々と怒りがわいてくる。


 チッ……わざわざこんな最悪のタイミングで……。

 空気の読めない馬鹿勇者共が……!


 3人程度ならばなんとかなったかも知れない。

 だが7人。

 それも最強と噂される黄金騎士までいたのでは、勝機は限りなく薄いだろう。

 振り切って脱出する方法もあるが、逃げ切れる可能性は低い。


 それでも勝つ可能性が限りなく薄い戦いよりも、逃げ切れる可能性に賭けた方がまだましな選択肢といえる。

 いつもの冷静な俺であれば、後者を選んでいた事だろう。


 ただ今日の俺は、逃げたいと思っていない…………やってやるよ。


「こいよ…………ぶっ殺してやるクサレ勇者ども……!」


 とにかくナリカと別れてしまった鬱憤を、なんでもいいから吐き出したかった。

 暴れ回って一時的にだけでも忘れたかった。


 武器を召喚する。

 身長の3倍はあろうかという巨大で真っ黒な刀身の両手剣。

 刀身からは暗黒のオーラが湯気の様にたゆたう。


 この狭い執務室では明らかに扱いづらいミスチョイスな武器。

 だがこの武器ならば、怒りを受け止めても壊れず思いっきりブン回せる。


「……チンピラみたいな魔王だな」

「ああ。威厳の欠片もねぇな」

「俺はコイツに恨みがあるからな。俺に殺らせろよ」

「馬鹿を言うな。早い者勝ちと約束したはずだ」

「三ヶ月間、俺の為に賞金の貯金ご苦労様♪」


 どっちがチンピラだ。

 テメエらこそ勇者の品位が欠片も見当たらない。

 1対7――よくこんな多勢に無勢の状況で品位を語れるもんだ。


「1800万円いただきィ!」


 瞬きほどの一瞬。

 一番遠くにいた紫の勇者が俺が座っていたソファに深々と剣を突き刺していた。


 《閃疾風ライトニングゲイル》――瞬間移動レベルのスピードで突っ込んでくる勇者専用の移動スキル。

 傍目には時が飛んだと錯覚を覚えるほどのスピードを持つ技。


 だが俺はその超高速突撃を身体を捻って紙一重でかわし、その捻りの回転エネルギーをそのまま両手剣へ伝え、背後のコンクリート壁を豆腐の様に裂きながら一回転し、まるでハンマー投げのように全体重を大剣に乗せて、紫の勇者に叩きつけた。


「潰れろォォォ!」


 切りつけた瞬間、鉄骨を叩きつけた様な分厚い音が、重く響く。


 だが紫の勇者はその一撃を剣の腹で受け止めると、後方へ飛び退くことにより完全に威力を殺し、宙返りして着地した。


 そして口角を釣り上げると、


「……この程度なら、いけそうだな」


 そう言って、仲間達に向って笑みを漏らす紫の勇者。

 それは圧倒的有利な者の笑み。

 他の勇者達もにやにやと胸糞悪い笑みを浮かべた。


 そしてまた紫の勇者は《閃疾風ライトニングゲイル》の時と同じく、正眼に剣を構え直した。


 また突っ込んでくる気か?


 それにしてもさっきの斬撃で、倒せるまではいかないまでも少しくらいのダメージは与えられると思っていた。

 だが結果はノーダメージ。

 そのうえこのクラスの勇者があと5人存在し、更には底が見えない強さの黄金騎士も控えている。


 ……少しの勝機も見えてこない……。


「よし、今度は串刺し(ダーツ)の刑といこうか。うまく心臓ブルに刺せた奴が賞金ゲットだ」


 緑の勇者がそう言って、残りの勇者全員が正眼に剣を構えた。

 どうやら今度は全員《閃疾風ライトニングゲイル》で突っ込んでくるらしい。


 自身の心に段々と、“あきらめ”という亀裂が入るのがわかった。





 俺は目を開けた。

 起き上がるとそこは、魔王城からほど近い沼地。

 魔王城からは煙がいくつも上っている。

 やがて花火があがり、盛大なBGMがヴァモス全域に流れ出した。

 これは魔王が倒されたとき用の演出だ。


 それを見て俺は大の字に寝転んだ。


「……そっか……負けたか」


 目を閉じて記憶を蘇らせる。


 あのあとジャンプして全員一斉の突きを奇跡的にかわしたものの、避けた場所に待ち構えていた勇者によって地に叩き付けられる。

 そこからの勇者の一斉攻撃は、禁呪を使って全員をはじき飛ばすに成功したものの焼け石に水。

 今度は禁呪を警戒され、遠距離からの魔法攻撃を一斉に喰らい足止めされる。

 それでも強引に前へ出て、個々に少しばかりのダメージを一応与えたが結局一人も倒せず……。


 最後の記憶にあるのは――ズタボロの俺と、黄金騎士が頭上から剣を振り下ろす姿。


「政権一年の夢……終わっちゃったな」


 なんの感慨も抱く間もなく、あっけなく散ってしまった俺の夢。


 魔王でも死ぬと、最下級クラスの下級魔族からのスタートとなる。

 マグナは潤沢にあるので、上級クラスになるのはそこまで時間はかからないと思うが、今はそんな事をやれる気分にはとてもなれない。


「しばらく……ヴァモスから離れるか……」


 誰に言うともなく呟いたその時、


 ――ピロロロロ!


 間の抜けた音が鳴り響き、コンソールが勝手にオープンした。


 おそらく新魔王が選ばれたのだろう。

 魔王が倒されたら、自動的に次の魔王が選ばれる仕組みだ。


 次に誰が魔王になろうとまったく興味は無かったが、なんとなくコンソール画面に目を移した。


『新魔王にプレイヤーネーム《ナリカ》さんが選ばれました。おめでとうございます』


 と、ナビゲーターの機械的な音声でそう告げられた。

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