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 23世紀のVRMMOはそもそも、最初から社会を変革させようというものではなかった。


 それはただ単に、20世紀の伝説的なRPG『エターナルストーリー』をリメイクしようという試みに過ぎなかった。物好きの道楽である。しかし、最初はただの遊戯ゲームに過ぎなかったものが、いつしか人類全体の在り様を変えてしまった。


 数百年の技術やアイデアを加味することで作られたVRMMOは元々の『エターナルストーリー』とは似て非なるものになったが、システムの根幹は割合に古臭いものだ(そんな二周も三周も回ったような懐かしさがヒットの要因とも云われる)。


 世界観は、『エターナルストーリー』のそれを色濃く残していた。


 中世ヨーロッパの古き憧れの時代と神話を融合したファンタジックな世界――。騎士に憧れる者、プリンセスに憧れる者。様々なプレイヤー(※5)がステータスやスキルを磨き上げながら、物資の不足して娯楽も何もない無味乾燥な現実を放ったまま、電脳世界では何かを成し遂げようと日々を楽しく過ごしていた。



 ※5【プレイヤー】……VRMMOという言葉が本来の意味を失ったまま残り続けているように、プレイヤーという言葉もそのまま使用され続けている。



 ある日突如として始まったのは、ウルズによる宣戦布告。


 ほぼ全てのプレイヤーが、最初は何かのイベントかと考えた。


 デスゲームは、VRMMOが成立した頃から囁かれているオカルト話でもある。それがただの無慈悲な現実となった瞬間、人類は為すすべなく電脳空間に囚われてしまった。ログアウトはできない。アクセスポッドは正常に動作しているため、現実の肉体が朽ちることはないが、一方で、VRMMOにおける死は本物になった。VRMMOでプレイヤーが倒れたならば、アクセスポッドが暴走して脳回路を焼き切るのだ。


 ウルズの仕掛けはそれだけとも云える。

 人類を電脳空間に閉じ込めて、死んだならば殺す。


 それだけだ。


 否――。

 シンプルなルールにはもう一つ、大切な条項があった。



 ――このゲームのラスボスは、私。


 ――人間よ。私を倒しなさい。



 × × × 



 2294年に始まったデスゲーム。


 結論から云えば、ウルズが倒されるまでには6年の歳月が必要だった。


 6年後の2300年――24世紀を目前として、人類の存亡を懸けた戦争には決着が付けられた。6年間の人類の死亡被害デスペナルティ(※6)は、およそ20億人と云われる。人類史上、他に類を見ない大量虐殺。かつてのGOCWにおける衛星都市スペースコロニーの破壊も甚大な被害を生んだが、電脳世界戦争デスゲームはその比ではなかった。



 ※6【デスペナルティ】……本来のVRMMOにおけるプレイヤーの死は、経験値や所持金の減少で代替される。



 最後まで生き残った者は、地獄のような六年間を振り返って何を思ったか。


 単一個体による人類の粛清。恐るべきウルズに対し、人類は決して一丸となって戦った訳ではない。むしろ、大半は恐怖に怯え、安全な場所を求めて逃げ回っていただけだ。しかし、そんな情けない生き方でも、デスゲーム以前のぬるま湯のような日々に比べればドロリと濃密である。


 誰も彼も悲劇を経験し、苦しみに耐えて強くなった。死して消え去ったプレイヤーも多いけれど、生き残ったプレイヤーはクリアの時を迎えて深く考え始める。人類は確かに、デスゲームを分岐点として大きく変わり始めるのだけど――。


 世界を救った七人は、その時に何を思っていたのか。


 ラスボスである〈機械仕掛けの邪神〉。


 電脳世界の中心に生まれていたラストダンジョンの最奥で、6年間の歳月をひたすら静かに待ち続けていたウルズの元に辿り着いたのは、100億の人類の内のたった七人に過ぎなかった。


 ある意味では、デスゲームを戦ったのはその七人だけとも云える。



 ――〈主人公未満ライトヒーロー〉ヨシュア・グレイ


 ――〈無敵使い〉ゴウ・ヤマト


 ――〈不動〉バーニー・ワイズマン


 ――〈鬼畜回復オーバーヒーラー〉レイ・ラーゼス


 ――〈心奪い〉レイチェル・カラー


 ――〈正統派卑怯者チーター〉ベアトリクス・ブラックウェル


 ――〈一人宝塚〉ジェーン・スミス



 七人の英雄――。

 彼らこそ、後に〈七廃人〉と呼ばれる伝説のプレイヤー達である。

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