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明るみに出ない技術革新

 シュウがアタシに剣を預けた翌日。

 昼時からシュウはもうアタシの店に来ていた。せっかちな奴め。


「早くしてくれよ。俺わざわざなれない街外れで野宿したんだぜ」

「そんなのアタシの知ったことか。それより、これから剣を直すから見て行け」

「なんでだよ。ってかまだ直してくれてなかったのか」


 文句をたれるシュウにアタシは理由を突きつける。


「お前剣の手入れの仕方が雑なんだよ。直せるようになれとは言わないからせめて手入れの仕方くらい覚えてけ」

「はぁ・・・・・・分かったよ。剣の手入れなんて今までしたこと無かったからな。スラムにいたときやったのなんてせいぜい包丁くらいだし。せっかくだし、教えてくれよ」


 ・・・・・・ホントにこいつ自分の利になることには素直だなぁ。


「ねぇカナメ」


 店の奥の居住空間で昼食を作っていたミリアが嘆くようにアタシを呼ぶ。


「お昼ご飯冷めちゃうよー」

「後で食べるよ。少しの間店番よろしく」

「むぅー」


 唸っているミリアに店番を任せると、アタシはシュウを連れて工房へと歩いていく。背後から恨みがましい声が聞こえるが無視。


「な、なぁカナメ。あれいいのか?」

「気にするなって。よくあることだよ」


 まぁミリアのことだし特に何かしでかすって事はないだろうけどね。

 工房に着くと、アタシは日課として始めたミリアの剣(にする予定)の白い角に魔力を込める。毎日アタシの持っている魔力の半分を流し込むことにしている。

 うーん、相変わらず限界が見えない。満タンになる気配が全くないなぁ。とりあえず角はいったんそのまま置いといて、シュウの剣を直し始めよう。


 欠けた部分を確認すると、剣全体に魔力を纏わせるようにして形を一定にしていく。そうするとその形に従って鉄の部分が変形していくのだ。

 一分ほどで、かけた部分は元通りになった。

 シュウは驚いたようにその工程を眺めている。


「こっから手入れだ。良く見とけよ」

「ちょっと待ておかしいだろ! 今どうやって剣を直したんだよ」

「どうって・・・・・・全体に魔力を通して均一化させるようにそれっぽくすると出来る」

「魔力を通して形を変えるとか始めて聞いたよ。しかもあっという間に終わったよな。昨日でもすぐに出来たろ」


 ジト目でシュウが見てくる。


「ソンナコトナイヨー」

「嘘つけ!」

「いや・・・・・・ね。だってほら、昨日は疲れてたし」

「・・・・・・はぁ、まあいいや。手入れの仕方教えてくれよ」


 そういってシュウはアタシの前に座り込んだ。それを見てアタシもシュウに剣を手渡すと手入れの仕方を一つずつ教えていく。手入れに大事なポイントはそんなに無いから教えることも少なくていい。

 まとめると、こんな感じか。


 一、魔力を通した砥石は剣を撫でるように使う

 二、一定のスピードでゆっくり行う。

 三、集中を切らさない


 こんなかんじに、てきとーにやる。

 けれどシュウは砥石に魔力を通す段階で苦戦していた。けれど最初にあたしが少し補助をしてやるとすぐにコツを掴んだようですんなりとやってのけた。


「でも普通に砥石を使うときとだいぶ違うんだな」

「そーお? アタシは砥石を使うときはいつも魔力を通してるからこんな感じに使ってるよ」

「ホント適当だな。でも剣を研ぐときに魔力を通すなんて聞いたこと無いよ。カナメだけだぜ。こんな風にしてんの」


 ふーん。他人のやり方にはあんまり興味ないから調べたこと無かったなぁ。調べるのも面倒だったし。


「なあカナメ、これって属性の着いた魔力を込めることもできるのか? 砥石じゃなくって剣にだけどさ、火魔法とか剣に付加できない?」

「できるけど、コツがいるぞ。そもそもシュウは魔法使えるのか?」

「光と闇の魔法以外なら簡単なのは使えるぞ」

「そうか。じゃあまず剣に適当な魔法をかけてみろ」

「ん・・・・・・『ファイア』」


 シュウが剣に手をかざして魔法を唱えるが、剣は一向に様子が変わる気配が無い。

 当然か。アタシもそれが分かった上でやらせたし。


「じゃあ魔法が形になる前の魔力を剣に通して、それから魔法を使ってみな」

「魔法が形になる前の魔力?」

「魔法を唱えずに魔法を使うイメージで。そのときの魔力を剣に込める」

「無詠唱とか俺使えねぇよ」


 無詠唱とはちょっと違うかな。この感覚を教えるのは難しい。


「別に無詠唱じゃなくていいんだ。たとえば火魔法だったら火になる前の魔力の塊を剣に通すんだ。ほら、貸してみろ」


 シュウはアタシの言ったとおり素直に剣を渡した。アタシは受け取った剣に火の形になる前の魔力を通してもう一度シュウに渡す。


「やってみ」

「ああ・・・・・・『ファイア』」


 轟と炎が剣を包み、工房の中に熱気が広がった。


「マジかよ・・・・・・」


 シュウは呆然と燃える剣を見ていた。普段生意気な奴が見せるその顔は何だか妙に小気味いい。


「あとは練習しだいだ。がんばれよ」


 その言葉にシュウは答えない。ただぶつぶつと「冒険者の中でも魔法剣使える奴らなんてまず居ないんだぜ・・・・・・どういうことだよ」とかなんとか呟いている。

 冒険者なんて脳筋ばっかりなイメージだから、魔力の操作なんてめんどくさい事しないだろうし、やらないよなぁ。


 それよりも昼飯だ。はらへった。

 ミリアが来てから朝、昼、夜と自分で作らなくて良いからすごく楽でいい。それにあたし一人で居るとどうしても手抜きになる。ミリアが来たときの初めての夕飯はあまりの粗末さに彼女に怒られた。

 うん。美味しい。

 冷めていてもミリアの作ったご飯は変わらない美味しさだった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「なあ、今更だけどそこの姉ちゃん誰なんだ? 昨日もいたって事は客じゃないんだろ。こんな人気の無い店に従業員増やす余裕あんのかよ」


 シュウが店番をしているミリアを指差していった。


「ああ、ミリアの事か? あいつはアタシの幼馴染で、ついこの前王都に来たばっかりなんだ。住み込みで働いてるよ。金はお前見たいなガキに心配されるほど困ってねぇっての」

「ふーん・・・・・・」

「なんだ? 気になるのか」

「何でそうなるんだよ。ただ器量が良いのにこんな店で働いてるからどんな事情があるのかと思ってさ」

「やっぱり気になるんじゃん。マセガキ」

「う、うるせぇ!」


 ヤバい。おもしれー!

 こいつガキんちょのくせに一丁前に照れてやんの。


「でもミリアはやめといたほうがいいぞ。ああ見えて迷宮を一人で突破するくらいのおっかねえ奴だから」

「それを俺が信じると思うか? 普通の迷宮なんてSランクの冒険者でもベテランたちとパーティ組んでやっと攻略できるような場所だぜ。第一、それが本当だとしたらなんで有名にならないんだ? こんな店で働いてるくらいだから冒険者ギルドにも入ってないんだろ?」

「信じるか信じないかはご自由に。でもたしかに田舎にあるような迷宮じゃ誰も知らなくて当然か。外から人が来たのなんて村にすら年に一回で、迷宮に潜ろうなんて酔狂な人はアタシらしかいなかったし。シュウは知らない? 『タナカの迷宮』ってやつ」

「聞いたことも無いね。俺の知ってる迷宮なんてこの町の外の『ササキの迷宮』しかしらねぇもん。


 やっぱり知らないか。田舎にあるのなんて知名度低そうだしね。

 でもアタシとミリアはこっちの迷宮だとどこまで潜れるんだろう。そのうちに試してみるのも面白いかもしれない。


「なあシュウ、『ササキの迷宮』って一番奥が何階なんだ?」

「地下七十三階だよ。でも俺も話に聞いただけでまだ一回も迷宮潜ったこと無いんだよなぁ。ベテランの人たちが三十階まで入ったって話とかは良く聞くけどね。七十三階ってのも記録に残ってるだけでこの街の冒険者たちじゃ誰も行けたことないらしい」


 冒険者でも意外と低階層までしか行けないんだ。もしかしたら田舎にあった『タナカの迷宮』はアタシが五十階まで行ける位だし出てくる魔物も弱かったのかも。


「迷宮かぁ・・・・・・良いもん落ちてたりしないかなぁ?」

「魔物の素材くらいならあるかもな。運がよければ宝箱とかあるらしいぜ」


 宝箱か・・・・・・『タナカの迷宮』にはそんなの無かったから行ってみたいな。


「なあシュウ」

「ん? 急にどうしたんだ。面白い顔してんぞ」

「パーティ組まないか? アタシとミリアと」

「はぁ?」










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