幼馴染と面倒ごと
当初想定していたよりも早くに1000PV超えてました。有難いことです。
お気に入りしてくれる人も結構いました。期待にこたえられるよう頑張ります。
薬草採集が終わって数日後、もたらされたギルドからの報告に街は騒然となった。
オークもどき相手に組まれた討伐隊が返り討ちされたという報告だ。
討伐対はすべてCランク以上の冒険者で構成されていたらしい。シュウいわく、Cランク以上のランクはベテランといわれる人たち。けれど、敵を一頭も倒すことなく、むしろその大多数をやられてしまったのだ。
逃げ帰ってきたのは討伐に組まれた四十人中七人。今回の件は冒険者ギルドでも重く受け止められ、王都周辺のギルドに協力依頼、また国にも援助要請を示したという。
すべてはローメルさんが旦那さんから聞いた話らしいけど、とっくにご近所さんの噂となっている。
ローメルさん自身も、旦那さんがいつ国から出陣の指令を受けることになるのかと暗い顔をしていた。
でも、全部が杞憂だって事はアタシが知ってる。けど、言えない。言える様な話じゃない。
どうしてそんなことが断言できるのかというと、話は今朝にさかのぼる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
トントントン。
店の扉を叩く音が聞こえてアタシは目覚めた。
顔を動かして窓のほうを見ると、まだ暗い。ほんのりと明るいがまだ人の起きる時間ではないのは明白だった。
ドンドンドン。
「まだ眠いんだよ。付き合ってられるか」
さっきよりちょっと強めに扉を叩く音が聞こえたが、アタシは無視を決め込むことにして頭まで布団の中にずっぽりと埋まる。
ドンドンドン・・・・・・トン?
語尾(ドアの音だけど)あげるとか器用だな!
トンドントントトンドンドトン。
今度は強弱を使い分けてきた。ノックにバリエーションとかいらないから!
それにしてもうるさい。文句言ってとっととお帰り願おう。
アタシは布団を蹴り飛ばして起き上がるとそのまま店の入り口まで直行した。
寝巻き姿のままだけれどそれを気にするほどの頭の回転は寝起きのアタシにはない。それに、これ以上の安眠妨害をされるほうが問題だ。
勢い任せに扉を開ける。
「うるさいんだよ! まだろくに明るくもなっていないじゃない・・・・・・か?」
あたしの前に立つのは懐かしい顔、田舎での幼馴染のミリアだった。
彼女は当たり前のようにアタシに笑いかける。
「久しぶりだね、カナメ」
アタシはその立ち姿に呆然となった。何しろ彼女が肩に担いだ大剣には先日見たオークもどきが十頭すべて串刺しにされていたのだから。
「み、ミリアはどうしてここに? しかもその背中の豚・・・・・・なにがあったんだ?」
「来る途中に襲われたんだけどね、返り討ちだよ。いつもカナメと潜ってた迷宮の一階の魔物より弱いんだもん」
あけすけと言い放つミリア。
「放置しとくのももったいないし、持てたから持って来ちゃった。カナメならきっと何かに使ってくれるでしょ?」
なにその期待・・・・・・たしかにアタシは田舎にいたとき迷宮の中で取れた魔物の素材とか使って武器から生活用品までいろいろ作ってたけど、なにを作るかも考えていないのに『とりあえず』なんて持ち込まれても処理に困る。
けれど今のアタシはそんな事はどうでも良かった。もっと先に気にしなければならない事。
「ミリア、とにかくお前は早く店の中に入れ。背中のモノをご近所さんにもし見られでもしたら絶対騒ぎになる」
「はーい」
アタシが彼女の袖を引っ張るように店の中に引き込み、オークもどきの刺さった剣を店の奥にある工房に置いてこさせてミリア自身はアタシの部屋までと連れて行った。
ひと段落着いて、ふぅ・・・・・・と一息。暗かった空はすでにほんのり明るくなっていた。早起きの人であればもう起きだす時間。
落ち着いたところでアタシは改めてミリアに目を向けた。
彼女はアタシが村を出た一年半の前から全く変わっていなかった。その端正な顔立ちも、首元まで短く切った深い青色の髪の毛も、ぜんぜん成長する気配を見せない薄っぺらな胸も全部そのままだ。強いて言えば、ちょっとだけ背が伸びている気がする。
懐かしい、アタシの幼馴染で、親友。
アタシが昔と変わらないミリアの姿を見て懐かしんでいると、キョロキョロと部屋の中を見回していた彼女が先に口を開いた。
「カナメってすごいね! あっという間に夢を叶えちゃうんだもん」
アタシ自身の店を持ちたい、それがアタシの夢。田舎にいたころからミリアに話していた夢だ。
「大体はミリアのおかげだよ。村を出る前に貰ってた素材の一つが高く売れたんだ」
「それでもだよ! 売る判断をしたのだってカナメだし、高く売ったのだってカナメだもん」
嬉々としてミリアはアタシのことを褒めてくる。昔からそうだったように、なぜか彼女は他人をほめるときに盲目的になりやすい。
だからもてるのかな? 村でアタシは男性に好意を向けてもらったことが一度もないから羨ましい。
「それで、ここに来たって事は・・・・・・」
アタシがちょっともったいぶったように話を切り出した。彼女は嬉しそうにその話題に乗る。
「うん! 迷宮クリアしたんだ」
満面の笑顔。アタシまでつられて笑みが浮かぶ。
迷宮は村はずれにあったものだ。村の名前がタナカ村だったのでタナカの迷宮と呼ばれてた。でも迷宮に向かう冒険者を見たことがなかったし、アタシが王都についてからもその迷宮の名前は一度も聞いたことがないから、きっとたいしたことのない無名の迷宮なんだろう。
「すごいなミリア、アタシは地下五十階層で断念したけど結局あの迷宮はどれだけ深かったんだ?」
アタシとミリアは二年間かけて二人がかりで地下五十階まで行った。敵もめちゃくちゃ強かったし、ミリアが前衛、アタシが後衛をしていたのだけどアタシの魔法が通じなくなったから限界を感じて諦めた。彼女はその後もソロで潜り続けていて、アタシが村を出るころには地下七十階まで行けるようになっていた。
その迷宮をクリアしたって事は、最奥まで行ったってことだ。地下百階くらいまであったのだろうか?
「百五十八階だよ」
さらりと恐ろしい数字を告げてきた。あのあとどれだけハイペースで進んだらたった一年半で百階近く進めたんだろう。五十階進むだけでも二人で二年かかっている。それに、アタシも五十階まで潜ったことがあるから分かるけど、とてつもなく厳しいのだ。
それをミリアは「成長期だからね」と笑う。
「王都に来るまで半年かかったから実質一年かな」
「マジかよ・・・・・・」
思わず漏れる。
「でね、カナメ。相談があるんだけど。ねえちょっとカナメ、戻ってきてぇー」
半分ほうけているアタシの両のほっぺたをミリアはつまんで引っ張った。
「ひゃひ! いひゃいいひゃい!」
痛みに反応すると、ミリアはほっぺたをつまむのをやめた。
「カナメのほっぺた柔らかいねー・・・・・・じゃなくて、相談があるの」
「どうした? 大抵のことなら聞くよ」
「あのね、私をこの店で働かせてほしいの」
・・・・・・お給料出せるほど商品売れてない。
「カナメの夢を聞いて思ったんだ。私、カナメと一緒に働きたいって。カナメの夢が私に夢を持たせてくれたんだよ。
お母さんとの約束で迷宮を攻略するまでは村を出られなかったけど、もうそんなこともない。だからお願い」
珍しくアタシは普段怠けているアタシの頭を働かせて考える。
そうだよな。この店もミリアのおかげでたてられたようなものだし、なにより、ミリアと一緒にいるのはアタシも楽しいから。
断る理由なんてない。むしろ、アタシから誘ってでも一緒にいてほしい。
「うん。ミリア、また一緒によろしくな」
「ありがとうカナメ! よろしくね」
彼女の笑顔がまぶしい。
こうして、アタシの店に住み込みの従業員が一人働くことになった。
――――――けど、オークもどきの処理どうしよう。