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 薬草採集

「「おまえかよ!」」


 待ち合わせをしていた広場に二人の声が同時に響いた。

 あたしの薬草採取の護衛の依頼を受けたのはこの前のスラム出身の少年だったのだ。


「依頼を出していたのはアンタだったんだな」


 別に急ぎじゃなかったけどね。


「初心者には結構破格の条件だったぞ、いつもあんな感じなのか?」

「いや、依頼を出したのは今回が初めてだよ。街の近くで人を襲う魔物が出たって言うからちょっと高めに報酬を出しておいたんだ」


 アタシがそういうと少年は笑をかみ殺すように言った。


「その魔物、昨日討伐されてたぜ」


 ・・・・・・まじで?


「何でも結構強い魔物だったらしくてギルドはその話題で持ちきりだよ。けど、普段は群れで集まっている魔物のはぐれ個体だったらしくってベテランの人たちの敵じゃなかったっぽい」


 セラのお父さんに怪我をさせた魔物は討伐されたのか、近いうちにご近所さんの話題もこれになるだろう。


「ところでさ」


 前置きをしてから少年は始める。


「名前教えてくれない? 今日一日一緒に行動するのにお互いの名前分からないと不便でしょ。

 俺はシュウっていうんだ。よろしくな」

「ふーん。意外と普通の名前なんだな。アタシはカナメ、よろしく」

「カナメか、変な名前」


 今更だけどこいつの態度は年上に対する態度じゃないよな。まして一応とは言え仮にもアタシは依頼主だし。

 アタシもかしこまった態度は苦手だけど、明らかに目上の人に対しては気をつけてる。


「なあ、依頼人がほかの人のときは気をつけろよ。口調とか、その軽い態度とか。場合によっては怒らせていい印象もたれないぞ」


 アタシは自分のことを棚に上げてシュウに注意を促す。


「当たり前じゃん。カナメとは昨日知り合って素の自分がばれてるから猫かぶる必要ないでしょ」


 何じゃそりゃ! と叫びたくなるけれど辛うじて耐えた。広場にはご近所さんの目も多い。下手に注意をひいて年下の冒険者と親しげに話していたとか噂の的になったら困る。

 そんなアタシの葛藤を知ってか知らずかシュウは続けた。


「それにスラムで働いているときは太ったババアのご機嫌伺いながら金貯めてきたんだぜ。時と場くらいわきまえてるよ」


 頭が痛い。彼は彼なりの判断基準があるのだろうけれどなんか納得いかない。

 まあ下手に固っ苦しい奴じゃなくて良かったと思っておくべきか。


「なあカナメ、さっさと行って薬草採ろうぜ」


 そのとおりなんだけど・・・・・・・・・・・・それをお前が言うか?




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 




「ふー・・・・・・結構採れたな」


 アタシはしゃがみながらの作業のせいで疲れた腰を叩きながらつぶやいた。

 結果は上々、そこそこの品質の薬草が麻袋いっぱいに取れた。これだけあれば、ポーション百個は軽く作れる。

 でも今のペースだと全部売切れるまでに数十年はかかりそうだ・・・・・・。


 薬草もシュウに手伝わせればもっと早くに採り終わったのだろうけど、いかんせん彼は薬草の見分けがつかない。

 これが薬草だと見本を渡しても、採ってくるのは質の悪いものだったり雑草だったりした時点で手伝いさせるのはは諦めた。


「終わった?」


 シュウが尋ねてくる。護衛ということで一応は見張りをしっかりしてくれていたらしい。

 アタシが視線を彼の顔から少し下に送ると、その手の中には毒消し草がいくつも握られていた。


「お前、それどこで採ったんだ?」


 シュウは少し離れた岩を指差して。


「そこの陰にいっぱい生えてたぜ」

「良く見分けがついたな」


 薬草はてんで分からなかったくせに。


「まあ、この草には良く世話になったからな。古くなったものを食べたときとかちょくちょく腹が痛くなるんだけどこの草食うと直るんだよ」


 それは食中毒だバカ!

 毒消し草はそのままでも軽い体調不良は治せる。これをポーションにすると高位の魔物の毒でも打ち消せるのだ。アタシの店にも在庫は十本程度置いてある。けど、店を開いてから半年間一度も売れたことはない。

 需要ないしなぁ。


 しかし、シュウならどこでも生きていけそうな気がする。古くなったものを食べるとか、たくましい限りだ。アタシなら絶対したくない。


「なぁ、なんだあれ?」


 事は唐突に起きた。

 異変にはじめて気づいたのはシュウ。指し示す先には黄色と青の入り混じった大集団。

 距離はだいたい五十から六十メートル。見通しの悪い森の中でさえ目立つカラフルな色。


「バルーンバードの群れだけど、なんか変。普通色事に群れって分かれてるんだろ」


 彼の言葉に、アタシは頷く。

 バルーンバードがあんなにいっせいに、しかも二色――――つまり二つ以上の群れがものすごい勢いで我先にと駆けていくのだ。

 まるで何かから逃げるように。


「この近くの魔物ってだいたいバルーンバードと同じくらいの強さだったよな」


 シュウも何か思い当たるところがあるらしく、そんなことをアタシに確認するような口調で言う。


「・・・・・・なにかいるね」


 アタシの言葉にシュウはごくりと息をのんだ。


 百を超えるバルーンバードの集団が過ぎ去り、しんと静寂が広がる。

 嵐の前の静けさという奴だろうか。アタシもシュウも、その場から動かず辺りを警戒する。


 がさり、と。


 バルーンバードを追うようにして黒い大きな影が一つ。豚見たいなシルエット、ただし二足歩行。

 がさがさがさがさ。

 続いて、音と共にはじめに出てきた黒い影よりも少し小さな影が二つ、三つと列を成すようにして現れた。

 数は全部で十くらい。なんだろう、アタシの田舎では見たことのない魔物。王都に来るまでで遭遇したこともなかった。見た目が近い魔物をあげるなら、オークか。けれど一番でかい奴でもオークより一回り小さい。


「なあ、シュウはあの魔物が何か知ってるか?」

「ああ、今朝討伐されたって行ってた奴。たぶんその群れだ」

「そうじゃなくて、名前を聞いてるんだけど」

「オークもどき」


 なんだ。そのままじゃん。


「よし、ほっとくか」


 アタシが言うと、シュウも頷く。

 オークもどきに背中を向けてアタシたちは小走りで駆け出した。面倒ごとからは気付かれないうちにおさらばするに限る。


「そうだな。あんなの俺らじゃ勝てないし、俺の依頼はアンタを護衛することだから」

「ん?」

「でもヤバイな。オークもどきが十匹もいたらこの街の冒険者じゃ勝てねぇよ」

「朝討伐したとか言ってなかった?」

「この街の冒険者の中でも上位のベテランの人たちが戦ったからな。それでも一匹だ。

 騎士の人が襲われてその存在が分かったんだけど、一匹だって証言だったらしいからボス争いにでも負けたはぐれ個体だって思われてたんだぜ」

「へー」


 セラのお父さん騎士やってたんだ。ローメルさん玉の輿? 疑惑だね。

 そんなことを考えていたらシュウに文句を言われた。


「へーって何だよ。へーって。緊張感ないのか? もし見つかったら襲われて死ぬんだぞ」

「その時のための盾がいるじゃないか」

「それは俺か? 俺なのか? 冗談じゃない。冒険者にもなったばかりなのにまだ死にたくないよ。いざとなったらアンタおいて逃げてくからな。ギルドだって最低のEランクの冒険者がオークもどきから逃げ出してもしょうがないって見逃してくれるよ。命あっての物種だ」


 いつ死ぬか分からない冒険者的にはそんなものなのかなぁ。

 シュウも最低ランクの身の丈にあった依頼を受けてきたわけだし、本来いないはずのヤバイ奴の相手はしたくないだろう。


「お前のこと、ちょっとだけ見直したよ」

「はぁ?」


 少なくとも、身の程を知らない無鉄砲なバカより好印象だ。


 森を抜けて、街との分かれ道。

 アタシはシュウに依頼達成の報酬三千クロンを手渡した。

 追加報酬については。


「シュウがこれからアタシの店で買い物してくれる時は一割引にしてやる」

「はぁ? 現物よこせよ。現物」


 ・・・・・・強かなガキだ。


「じゃあおまけだ。これやるよ」


 ぽん、とシュウの左手を取ると、その手のひらに錠剤型のタブレットをのせてやった。


「何だこれ?」

「固形のポーションだ。液体よりも即効性は落ちるけど液体じゃないから持ち歩きやすいし、かさばらない。便利だろ。試作品だけど効果は保証するよ」

「ん、ありがとな」


 こういうときは、素直にお礼を言うシュウ。


「俺はこれからギルドに行くよ。依頼成功の報告と、あのオークもどきについて。近いうちに、討伐隊が組まれると思う」

「がんばれよ」

「俺が行くわけじゃない」

「討伐じゃないよ。冒険者業さ」


 アタシがそういうとシュウは照れくさそうに笑った。






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