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後悔はしたくない

 あたしは何も知らずにすやすやと眠っているセラを抱いたロメールさんに結界の魔法を封じ込めた間石を渡して、ミリアと一緒に店へと帰った。


 王都の人たちも騒ぎに目を覚ましたのか、喧騒はどんどん大きくなる。


「カナメ、お店の戸締りおっけーだよ!」


 ミリアがアタシに向けて、ぐっと親指を立てた。そして続ける。


「ねぇ、カナメはどうするの?」


 アタシはどうするの……か。

 アタシ自身まだこの目で確認したわけじゃないけど、この都市はたぶん魔族に襲われていて。このまま兵士の人達とか冒険者の人達が撃退してくれるかもしれない。

 撃退できなくて、魔族が街の人たちを襲うかもしれない。もちろんアタシの店も。


 ご近所さんにも見知った人は多いし、いろいろお世話になった人もいる。

 だったら結果なんて変わらなくても、アタシはアタシの目で全部見ておきたい。


「アタシは行こうと思う……ミリアは」


 どうする? なんて聞かない。アタシの一番大切な親友は、一番大切な人は、いつもアタシと一緒だった。だからこんなときどんな行動をするかなんてアタシには分かる。

 全部アタシのわがままだ。危ないところに行くわけだから、怪我をするかもしれないし、命を落とすかもしれない。

 それでも……


「ミリア、一緒に来てほしい」


「もちろんだよ! こんなのカナメのいない迷宮攻略に比べたら楽勝だよ! それに目立ったらお店の宣伝にもなるかもしれないもんね!」


 冗談めかしてミリアが笑う。

 ありがとう。と呟くと、アタシはソノアとの決闘(?)以降久しく握っていなかった杖をとった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 思ったよりも被害はたぶん軽微なんだと思う。

 城壁の門が壊されて、その入り口が少し広くなったくらいだ。そこから押し寄せている魔物と、数人の魔族を兵士や冒険者の人たちが相手取っている。心配していた火の手も、城壁の外の森が燃えているだけだ。

 けれどアタシの目には、若干魔族のほうに形勢が傾いているように見えた。


 浮遊魔法を使って城壁の近くに浮いている指揮官らしき5人の魔族。そのうち四人は何かの呪文を唱えていて、上空には大きな火の玉が出来ている。

 対して人間側は手一杯みたいだった。

 乱戦、そんな印象。


 その中に、見知った顔がある。

 シュウとソノアだ。おまけに二人の隣には勇者のパーティーがいる。

 シュウはぼやっとした感じに輝いていて、たぶんソノアから錠剤型ポーション(改)をもらって使ったんだと思う。相手取っているのは、2メートル半はありそうな巨大な骨の戦士。アタシも王都に来るときに商隊の人たちに貸してもらった図鑑で見たことがあるだけだけど、たぶんアレはジェネラルボーン。スケルトン系最上位の魔物だったはずだ。


 アタシが実際に戦ったことのあるスケルトン系の魔物は、田中の迷宮にいた幻影骨兵士シルエットボーンナイトくらいで、かなり手古摺った記憶がある。透明になったり、転移魔法で背後にいきなり現れたり、とにかく厄介だった。

 最上位って言うことはアレよりも強いのかもしれない。


 シュウはヒロトとデダルと一緒にジェネラルボーンに対して前衛を張っていた。

 シュウは防戦一方だけど、大剣を上手く受け流している。ヒロトとデダルは時折隙を突いてジェネラルボーンに攻撃を加えていた。


 ソノアもアタシとの決闘のときに見せた七色の魔法の槍で近くの魔物を殲滅している。

 リューリとロロさんは全員の補助に回っていた。


 アタシに何が出来る……?


「カナメ!」


 ミリアが叫ぶ。


「私はアレを斬ってくる! だからカナメは頭の上のおっきいの何とかして!」


 ミリアの指差す先はジェネラルボーンが、アタシに目線で教えてくれたのは、魔族が作っている巨大な火の玉。

 さすがミリア。伊達に迷宮を攻略していないみたいだ。アタシよりもよっぽど判断力も、行動力もある。


「ああ、任された」


 アタシがそう言うと、ミリアはにっこり頷いてシュウたちのいるジェネラルボーンところへと地面を蹴った。


 ミリアならきっとあんな骨なんてすぐに倒してくれると信じてる。

 だからアタシは、頭の上の邪魔者に集中する。


 夜なのに明るい。

 ぜんぶ、アレのせいだ。


 セラが泣いていた。

 魔族が攻めてくるかもしれなくて、そのせいでお父さんが家に帰って来れなかったからだ。


 ミリアは冗談めかして笑っていた。『派手にやれば、お店の宣伝にもなる』。

 やってやろうじゃないか。


 派手なのを一発、あの火の玉にぶち込んでやる。


 アタシは杖に魔力をこめる。イメージするのは、暗くて大きなすべてを飲み込んでしまう闇。そして、雨上がりの青い大空をまたぐようにしてかかる虹。


 大技に、杖にこめた魔力が震える。

 ぶっ放すのは、久々だ。こんな大技を使っていたのは迷宮に潜っていたときだから、もう一年以上も使っていない。

 けれど、アタシの中では成功する自信があった。根拠なんて何もないけど。


 遠目に、ミリアがジェネラルボーンを縦に一閃する姿が見えた。その太刀筋の軌跡は、光って見えた。


 そっか。今は、迷宮に潜っていたときと同じようにミリアがアタシの隣にいる。



「『空喰い』」



 アタシは魔法の名を口にし、イメージを解き放つ。



昨日はアニメにもなった某Trickな漫画を読んでいました。燃料補充したのでしばらく頑張れそうです! たぶん……

ちょっと宣伝:最近新しいのを描き始めました。そっちのほうは百合描写とかあんまり自重しない感じでやっていくつもりでいますので、気になる方がいたらそちらのほうもぜひよろしくお願いいたします

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