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冒険者志望の少年

『薬草採取の護衛 報酬三千クロン 賄いつき 働きに応じてその他報酬あり』


 アタシは依頼内容と報酬の内容をしたためた手紙を運送業の人に渡す。

 運の悪いことに、話をしている最中馬車を引く馬にアタシの後ろ髪がもしゃもしゃされて、べとべとになってしまった。


「申し訳ございませんでしたー!」


 風呂に入ればすぐに落ちるし田舎ではよくあることだったからアタシはあんまり気にしなかったのだけど、運送業の若いにーちゃんが生真面目な人で、猛烈な勢いで謝ってきた。ガタイも結構いい人があんまり大きな声で謝るので、ご近所さんたちからも遠目に見られてしまってかなり恥ずかしかった。

 結局、運送料をタダにしてくれるというのでその申し出をありがたく受け取らせてもらうことにした。


 きっとこれからも運送業のこのにーちゃんには何度もお世話になるだろうし、できれば気楽な関係を作っていきたい。

 でもこのにーちゃんバカみたいに真面目だから次に頼んだときもきっと今日のことを思い出して固まっちゃうだろうな・・・・・・。

 もう少し気楽に生きてもいいと思う。


 そんなことを考えつつ、アタシはシャワーを浴びるべく玄関先から店の奥へと入っていく。

 店は開けたまま放置。どうせ誰もこないだろうし、外から見えるところには安いものしかおいてないから盗られることもないだろう。

 何より半年だけだけれどこの街で過ごしてきて、人のものを盗るような人がいないことは分かっている。無用心といわれるかもしれないけれど気にしない。


 だってわざわざ鍵を閉めるのめんどくさいし・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・まあそんなことはおいといて、まずはシャワーだ。早くこのベトベトを洗い流したい。

 馬臭くてしょうがなかった。


 身に着けているのは田舎を出たときから愛用しているよれよれになってしまったシャツとショートパンツ。下着は窮屈で嫌いだけど、世間様の目も厳しいのでパンツははいている。

 ささっと脱いでシャワー専用の部屋にこもる。

 田舎にいたときは近くの川で水浴びしてたけど、王都に来て近くに川がないからつい作ってしまったシャワー室。水はそこそこ貴重なものだけど、贅沢に使う。水が出てくる魔石とかいうものがあって、ちょっと割高だったけどそれを買ってシャワーに改造したから足りなくなったりする心配もない。

 いざとなったら飲み水にも使えるので便利だ。

 汗を流すと気分がすっきりするからほぼ毎日使用している。


「あー・・・・・・気持ちぃ・・・・・・」


 冷やっこい水が肌を流れ落ちていく。


 カラン。


 あ、そうだ。風呂から上がったらミルチ食べよう。

 ミルチってのはオレンジ色をした果物で、皮を剥くと果汁が滴るのだ。口の中に染み渡って、すごくおいしい。 


 カラン。


 子供たちは来るかな? 今あんまり数残っていないから人数分は足りないよなー。


 カランカランカランカラン。


「なんだよもー、うるさいなぁ・・・・・・って客? 嘘だろ! 今行くからちょっと待っててくださーい!」


 入り口のあるほうへ向かって声を返す。

 客が来るなんて思ってなかったから、さすがに驚いた。もしかして、この前のポーションの件がご近所さんの間で少しは有名になったのだろうか?


 けれど、そんな考えは杞憂に終わってしまった。


 体を拭くのもほどほどにして向かった店のカウンターには、ひねくれた顔をしたガキが一人立っていただけなのだ。




  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 あわてて身に着けた服の着崩れを直さないまま、アタシは部屋の中を小走りで駆ける。肩より少し先までのばした髪が水気を含んでいて重いのでタオルで拭きながらだ。


「で、アンタ誰?」


 目の前にいるのは小汚い服を着た十二、三くらいの少年。


「名前なんてなんだっていいだろ。それよりも剣くれよ、一番やっすいやつ」

「・・・・・・は?」

「早くしてくれよ、俺は冒険者になるんだ! 金を貯めてやっとスラム街から抜けられたんだよ!」


 あー、このテのはめんどくさい部類のやつだ。アタシは早口でまくし立てる少年の話を聞き流しながらそう思う。

 田舎にもいたなぁ・・・・・・こんなやつ。


「聞いてんのかよ!」


 ドンっと握った拳で少年は店のカウンターを叩く。


「はいはい聞いてますよ」


 一応ね。これだけまくし立てられればいやでも耳に入ってくるし。つまり、こいつはスラム街の悪ガキだった、それがどんな方法かは知らないけど金を貯めて冒険者になろうと一番近くの町へ来た。ここから一番近くのスラム街って言うと南にあるところだろうか、ほかのスラム街と比べたら治安はいいとは聞くけどそれでもやっぱり街中とは違うだろう。アタシは行く機会もなかったから行ったことないけどね。

 結局この少年は街へ来たまではいいけれど、この街に武器を売っている店はアタシのところしかないと←イマココ。


 超関わりたくねー。さっさと剣渡してお帰り願おう。

 個人的にもこのガキ苦手な部類だし。


「いくらだよ、コレ」


 アタシが押し付けるように手近な安い剣をカウンターにのせると、少年は仏頂面で尋ねた。


「千五百クロン」


 と簡潔に答える。


「安すぎだろ!」


 つい最近ご近所さんにも言われた台詞と似たような言葉が返ってきた。けど、前のポーションと同じで値段どおりたいしたことないんだ。これ。

 っていうかお前がそれを言うか。安いのにしろといったのはお前だろ!


 確かにたいてい剣って言えば安いものでも一万はする。けれど、少年に渡した剣はアタシが王都に来る途中のたびでゴブリンが持ってたのを倒してかっぱらっい、ちょっと改造しただけのものだ。だからこそのこのお手頃価格。

 中身はただの鉄の剣だし、それに使用済み(ゴブリン)なのでアタシは使いたくない。いらないものなので、買ってくれる人がいるなら万々歳だ。


「まぁいいや。ありがとな」


 あ、少年意外と素直。


「その剣で魔物でも狩るつもりなのか?」


 なんとなく聞いてみる。別にコイツがどこで死のうが気にならないけどアタシが売った武器のせいだと言われたら嫌だしね。


「んー、しばらくはこの剣使わないかな」


 何故買ったし。


「冒険者になるのに必要だから。登録するときに武器の登録もしないといけないからな。後からいつでも変更できるけど一応はじめは登録することになってんだ」

「へー・・・・・・」


 一体何の仕事をするつもりだったのだろうか。


「俺だって早く魔物かって大金稼ぎたいけど最低ランクじゃ討伐依頼受けられないし、はじめの内は雑用とかこなしてこつこつやるよ。スラムにいた時だってそうやって金貯めたんだ」


 おお、意外。さすがにスラム街出身なだけあってそこらの夢見る駆け出しの冒険者よりよっぽど現実が見えてる。第一印象は最悪だったけど少しだけ上方修正。


「せいぜい頑張れよ」

「客の一人もいないような店の店主に言われてもなぁ・・・・・・」

「いつものことだよ。それにほら、お前が客だ」

「俺が冒険者になったら宣伝してやるよ。楽しみにしてろ」

「生意気言うなガキ。そーゆー事は有名になってから言いやがれ」


 そんなやり取りをした後、少年は店を出て行った。冒険者ギルドはここからなら歩いて一日もあれば着く。

 アタシの出した依頼もそう遠くないうちに受理されるはずだ。三千クロンといえば人が二人は宿に一泊できる金額だし、そこにおまけで色が着くならば新人だけじゃなくて手持ち無沙汰な中堅の冒険者でも受けることが期待できる。


 ま、どうせ客なんて来ないからポーション用の薬草もすぐに必要ってわけじゃない。なるようになる。これがアタシの信条だ。




  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 二日後、冒険者ギルドから依頼が無事に受理されたと聞いた。受けた人がもう少ししたら来るらしい。

 アタシは待ち合わせの場所で依頼を受けた冒険者を待つ。





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