完成! 改良版ポーション
久々の更新。
ちょっと前に感想貰ってやる気出た。この時期になると更新始めるんだよなぁ……
迷宮から帰ってきて三日が過ぎた。
いまあたしの店には珍しいことに多くの人が集まっている。
あたしもやりたいことがあったからちょうどいい。
先日の戦いで怪我をした勇者ヒロトとシブい格闘家のデダルの二人のために薬を買いに来たロロさん。
いつものように店の近くを怪しげにうろうろしていたソノア。
あと今日は休みと言って追うとの街中のシャレた店でくつろいでいたいたシュウを半強制的に拉致って来た。
そこにあたしとミリアを入れて5人。たった五人とか言うなよ。ロロさんが勇者パーティーで来たときに次ぐ人数だ。
子供達が十数人で来ることもあるけど、それはまあ例外で。客っていうより友達感覚だし。
そんなあたしにミリアが首を小さくかしげて尋ねる。
「ねぇカナメ、どうしてお店の外にいたソノアちゃんにシュウくんまで? カナメから積極的に動くなんて珍しいね」
「ったく、なんで俺まで連れてこられたんだよ。用があるならソノアだけで良いじゃんか」
シュウもなんか愚痴ってるし。ソノアもなんか無言であたしのほうを見ている。
……くすぐらないからな?
「ロロさんも薬を買いに来ただけなのにわざわざ付き合ってもらって悪いね」
「私はいいのよ~。薬を買うっていう口実でカナメちゃんとミリアちゃんに会いにきたの。リューリもヒロトと一緒にいられて幸せだからみんな幸せ」
約一人幸せじゃない人が混ざってるのは、気にしたら駄目なんだろうな。
勇者とツンデレの甘い空間に一人取り残されるシブいおっさん。辛いだろうな……
「で、俺らを拉致った用件はなんなんだよ」
シュウが恨めしげな目であたしを睨む。まあせっかくウエイトレスのきれいなねえちゃんと話が盛り上がってたところをあたしに拉致られたからな。
そのおかげでミリアと会えるんだ。許せ。
まあシュウの疑問ももっともだと思う。
実は……とちょっとだけもったいぶりながらあたしは答えた。
「治験しようと思うんだ」
あたしの言葉に、シュウとソノアの表情が強張る。
……悪い。言い方が良くなかったな。
ミリアとロロさんはその内容を事前に知っていたからなのかいつもどおりだ。
「この前迷宮に潜ったときに錠剤型のポーションの欠点が見つかったからさ、改良版を試してほしいんだ」
「 あー、そういうことな。でもあれ欠点なんてあったか? かさばらないし、効果もそこらのポーションよりよっぽど良いぞ」
「強いていえば意識を失った人が飲み込めないことでしょうか? 液体と違って体に直接かけるわけにもいきませんし」
さすがソノア、行動とか腹黒な部分とかはアレだけど。
「まあそういうこと。で、これが改良型の錠剤ポーション」
「はいっと」
あたしの台詞に合わせてミリアがズボンのポケットから錠剤ポーションを取り出した。
「ぱっと見た限りじゃ前のポーションと一緒ね」
「前のは気絶してたら飲めなかっただろ。だから錠剤を砕くと結界が発動するようにしたんだ。で、結界の中はポーションの効果が発揮される」
そう言ってデモンストレーションよろしく錠剤ポーションを一つ指先で砕いてみせると、あたしの半径一メートルくらいに半透明の結界が張られる。
うん。良い出来。
「もうそれポーションって感じじゃないな」
そのあとに、まあ便利だから良いけど、と付け足して呆れたようにシュウが呟いた。
ソノアは苦虫を噛み潰したような顔をしてあたしの周りに張られている結界を見ている。
「その結界ってもしかして……」
もちろん前にソノアに投げつけた強盗撃退用のやつと一緒だ。前のよりもちょっとグレードアップして中からなら外に干渉できるようにしてある。
外からならこの前迷宮であった魔族くらいの攻撃なら無効化できる。
この改良型は久々の自信作だ。
「これ食って大丈夫なのか」
シュウはどことなく不安げだ。
そんなシュウにミリアがいう。
「あ、わたしおなかすいて食べたけど大丈夫だったよ」
ミリアのやつあたしが新しいお菓子作ってると勘違いしてポーションつまみぐいしてたからなー。
「なに他人に先に食わせてんだよ!」
「もちろんあたしが先に食べたさ。ラムネのさっぱりした味に仕上げたから不味いってことは無いと思うぞ」
「そう言う問題じゃねぇ!」
「うるさいなー。いいから食ってみろって」
あたしはそう言って叫んでるシュウの口にポーションをぽいっと投げ入れた。
ばりっと砕ける音がして、シュウの体が薄い結界に覆われる。
「と、このように体が結界に覆われる。あとこの結界がある間はポーションの効果持続するから」
実演と補足説明。
これだけすれば文句無いだろ。
胸を張るあたしに、ソノアが気まずそうに。
「カナメさん、またとんでもないもの作りましたね……」
「そりゃ自信作だからな」
「そう言う問題ではないのですが……」
う~ん、あたしが思ってたよりか評判が悪いな
「まあ、みんなに10個ずつ渡すから使ってみて感想も教えてくれよ」
そう言ってあたしはみんなに渡す。
けどシュウだけは複雑な顔をして、
「なあカナメ、俺は前の錠剤型ポーション買ってっていいか? 別に今回のが悪いわけじゃないんだけどさ、性能が良すぎて俺の身の武に合わない気がするんだ」
「ん。了解」
「私は有難く貰っていきますね。あ、次はちゃんと買いに来ますから」
「私はどうしようかしら~今買っていっちゃうとリューリに後々怒られちゃいそうな気がするのよね~。でも、あの子ならすぐ機嫌も元に戻るでしょうし、貰っていくわね」
シュウ以外は素直に受け取ってくれて、今日はもう解散になった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その夜、夕飯が終わった後にあたしはミリアに愚痴っていた。
「なあミリア」
「なあにカナメ?」
「あたしってお店の経営の才能ないのかな?」
机に突っ伏す。
「どうしたの? カナメらしくないよ?」
「なんかな~……」
良い物を作って売るってだけじゃ駄目なのかなぁ。
「でも、私はカナメがポーション作るの頑張ってたこと知ってるし、それにお店としてはまだ知名度が足りないだけだと思うんだ」
「みんなの反応見てたら、なんか満足してもらってない感じがしてさ」
「それは私には分からないよ~。それにカナメの作ったものが全部じゃないにしても、みんなを笑顔にしてるじゃん。カナメの作ったもので悲しい顔をした人なんて、私見たこと無いもん」
「そういうもんかなぁ?」
「そういうものだよ」
なんか、ミリアの言葉を聞いてたらずいぶん気持ちが楽になった。
そうだよな。あたしは元々あたしの好きなものとか適当に手に入れたものとかををテキトーに売ってたんだった。
初心忘れるべからず。
細かいこと気にしたら駄目だよな。
何が売れるとかあんまり関係ない。
「なあミリア」
「なあにカナメ?」
「明日は何を作ろうか?」
次の次かその次くらいに錠剤型ポーション(改)は大活躍の予定です




