巻き込み
アタシとミリアは、久しぶりに迷宮に来ていた。
ミリアが剣を使ってみて、そのときにあるかもしれない誤差を見つけて修正するためだ。
『もし』のときにその誤差は命取りになる。
ミリアは、「カナメが作った剣にミスなんてあるわけない」とかいうけど、今回の剣は今までとは違う。正直なところアタシでも自信がない。
ただ鉄を打って剣にするだけなら今更ミリアのことを確認するまでもないけど、素材が素材だけに、アタシも不安だった。
だからミリアが存分に剣を振るえる迷宮に来たわけだ。
「で、私は何故朝早くから拉致られたのでしょうか?」
ソノアがアタシに愚痴る。
「だって元ササキの迷宮の職員だし・・・・・・」
「終わったらカナメさんは私のことをくすぐってくれるのですか? 私を満足させられるのですか?」
「やだよ。なんかくすぐってるときのソノア怖いし」
「いいじゃないですか。たったそれだけで優秀な後衛がパーティに入るんですよ」
「アタシも後衛なんだよなー」
「本当になんでカナメさんは私を連れてきたんですか? 好きなんですか?」
「そう思う?」
「自分で言ってみてなんですけど、そうだったらいいですね。毎日くすぐってもらえそうですし」
「カナメは私の旦那さんだよ! 渡さないよ!」
ミリアが話に割って入ってくる。
というか、いつの間にミリアは私の嫁になったんだ?
まあ実際のところ、毎日ご飯作ってもらってるし、家事も全部やってもらってるから似たようなもんか。
「ミリアさんは毎日くすぐってもらってるんですか?」
「んなわけねぇだろ」
「カナメはね、毎日私のことをやさしく抱きしめてくれるんだよ。でもね、夜は激しくて・・・・・・」
「捏造すんな」
アタシはミリアの頭にチョップを入れる。
結構きれいな角度で入った。
「とまあ、本音を言うとだな、勇者パーティが迷宮にもぐるらしいんだけど、あいつら四人じゃん。なんとなくアタシたちも四人にしたいなーって。ほら、パーティっていったら四人が基本だろ」
「そんな理由で私は拉致られたんですか・・・・・・あれ? でも一人足りなくないですか?」
「いや、たぶんその辺りに・・・・・・「ちょ、引っ張るなよ」「カナメー、いたよー!」ほらな」
いつの間にか離脱していたミリアが子の短時間で性格の悪そうなガキを連れてきた。
シュウだ。
「四人そろったぞ」
アタシが言うと、ソノアも諦めたのかため息をついた。
「もう・・・・・・今日だけですよ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ミリアの姉ちゃん、すげぇな」
迷宮の三十階。
出てくる魔物を片っ端から一刀両断するミリアを見て、シュウがつぶやいた。
「当たり前だろ。前にも言ったけど、ミリアはあれで迷宮一つ攻略してるんだぞ」
「あれ本当だったのか?」
アタシが嘘をつくわけないだろ。
何のメリットもない。
でも、剣もミリアの手に馴染んでいる用でよかった。
見ているかんじ調整も必要なさそうだし、ミリアからも使いやすいといわれた。
とりあえず一安心。
「それにしても、すさまじいですね・・・・・・私の出る幕がまったくありません」
「だろうな」
「本当に私は何で連れてこられたんですか?」
「人数あわせ・・・・・・かな? 悪かった」
「もう、カナメさんは・・・・・・」
そんなやり取りをしていると、ミリアに見入っていたシュウがまたつぶやいた。
「俺、こんな深くまでもぐったことねぇよ。せいぜい十二回までだぜ」
「この短期間でそれはすごいですよ」
その呟きを拾ったソノアがシュウをほめる。
なんか珍しいな。
「ですが、注意してくださいね。急な成長をしている方などにたまに見られるのですが、自分の実力以上の階層にもぐったりしてしまう方がいますので、そこは履き違えないようにしてください。これは、元ギルド職員としての私からです」
おぉ、珍しくソノアがまともなことを言ってる。いつも口を開けば『くすぐってください』ばっかりなのに。
けれどシュウはそれを言われたのが不満なのか、唇を尖らせた。
「わかってるよ、それくらい。これでも身の丈くらいわきまえているさ」
「そう言うことをいう人に限ってですね」
「それを言うなら、今この状況がそうだろ」
「・・・・・・確かにそうですね」
あ、ソノアが負けた。
「まあ俺は素直に後ろでミリアの姉ちゃんを見てるよ。まあでもすごすぎてまったく参考にならないけどな」
そう言ってシュウはまたミリアのほうを向いて言った。
「なあカナメ・・・・・・」
「その辺りに落ちてる魔物の素材とらなくていいのか? 結構な量だぞ」
確かに、シュウの言うようにミリアの倒した魔物の素材がいっぱい落ちている。
まあ、その辺りに生えてたり王都の街中で拾えるごみの互換で何とかなるからアタシにはいらない。
そのことを伝えると。
「俺少しもらっていいか? 最近金欠なんだ」
「ん? ミリアに聞いてみればいいんじゃないか?」
「いいよー!」
剣を振りながらミリアが応える。
こっちの会話は聞こえているみたいだ。
まだ余裕じゃん。
その様子を見て、ソノアがジト目でアタシを見た。
「ここの迷宮、パーティで三十階まで来れればもうCランク冒険者並みの実力はありますよ。それにミリアさんが迷宮踏破者ってどういうことですか? ここ数百年迷宮が討伐された記録はありませんし、討伐されたっていう報告も入っていません」
「つまり?」
「実力は認めますけど、迷宮うんたらは信憑性ありませんよ」
「へー、まあアタシ立ち会ったわけじゃないからよくわかんないしさ。本人がタナカの迷宮を攻略して王都にでてきたっていうんだ。ミリアがいうならそうなんだと思ってるよ」
冒険者ギルドでカードを作る前だしな。ミリアが誰かに言っても分からないか。それに田舎だし、冒険者ギルドなんてものもなかった。
「なあソノア」
「なんでしょう? 帰ったらくすぐってくれる気になりました?」
「んなわけねぇだろ・・・・・・・・・・・・ソノアは『タナカの迷宮』って知ってるか?」
「『タナカの迷宮』ですか? いいえ。聞いたことないですね」
「アタシたちの田舎にあった迷宮なんだけど、やっぱり分からないか」
つまり、冒険者ギルドの記録にもまったく載っていないようなできたばっかりの迷宮だったりしたんだろう。
迷宮が弱いうちに倒せてよかったかな。
「あ、この階層のボスだ」
ずっとミリアの戦闘を見ていたシュウがつぶやく。
その言葉通りミリアの目の前に大きなケンタウロス風の、けれど上半身が半漁人という気持ち悪い魔物が現れた。
アタシのいる場所とミリアが退治している魔物とは結構距離があるけれど、ここまでにおいが届いている。腐臭と、生臭さが混ざったような臭いだ。
「ぐるぅぅぅりやぁぁぁl」
半漁人のようなケンタウロスがミリアに襲い掛かる。
けれどミリアにそんなことをして無事でいられるわけもなく、一瞬のうちに縦に真っ二つになっていた。
返り血一つ付いていない。
というか、さりげなく剣に火属性の魔力を付与して切り口を焼き焦がしている。あれじゃあ返り血は付くわけない。
「ねえカナメ」
ミリアが話しかけてくる。
どうしたんだろう?
「なんだかここの迷宮の魔物弱くない?」
「そうなのか?」
「はっきりとはいえないけど・・・・・・たぶん」
「カナメも戦ってみれば分かるよ」
「やだよ、めんどくさい」
「えー」
そんな会話をしていたら、ソノアが私の背中をつんつんとつついた。
「ん? どうした?」
「カナメさん、私とシュウはもう戻ろうと思うのですが・・・・・・正直なところ、私とシュウがこれ以上もぐるのは危険だと思うのです。カナメさん達がまだ探索を続けるのであれば私達は先に戻りますね」
「あ、じゃあアタシも戻るよ」
アタシがそう言うと、今度はカナメが。
「えー、アタシはカナメと二人で奥に潜りたいなー。久々に二人だけで迷宮攻略したいよ」
確かにミリアと二人だけで迷宮探索ってのは久々かもしれない。たまにはいいかもな。
そうなると心配なのは・・・・・・
「ソノアとシュウは二人で帰れるか?」
アタシが聞くと、シュウが首を横に振った。
「俺は自信ない。正直なところ、何でこんな階層まで付いてきちまったのかって後悔してる」
「ああ、私が帰還石を持ってますから大丈夫ですよ。迷宮の入り口まですぐ帰れます」
「じゃあ任せた。勝手に連れて来ておいて悪いけど、アタシとミリアはもう少し探索してから行くことにするよ」
「気にすんなって。俺はいい経験になったから。まだまだ、深い階層じゃあ手も足もでないって分かっただけでも収穫だよ」
「ならよかった」
だけど、シュウとは違ってソノアは唇を尖らせて。
「私には何もないんですか? せっかく来たのに」
「なんかしらお土産持ってくよ。それでいいか?」
「しょうがないですね・・・・・・ほら、帰りますよ」
そう言うとソノアはシュウの襟首を乱雑につかんで転移石を起動させる。
「じゃあカナメ、行こう!」
目の前に現れた階段を示してミリアは言った。
今回カナメがアグレッシブに動いていますけど、あれです。ミリアの剣が不安だらけだからです。
不安だから、少しテンションおかしいですね。
迷宮探索まだ続きます。




