呪われた装備?
ずいぶん間が開いてしまいました。すみません。
工房で、アタシは力尽きていた。
ミリアが水を絞って冷やしたタオルをアタシの額に乗せてくれる。
・・・・・・きもちいい。
「カナメ、おつかれさま」
「・・・・・・ああ」
ミリアが渡してくれた水を刺さっていたストローでゆっくりと吸う。
大体二日くらいか。徹夜したアタシにミリアがねぎらいの言葉をかけた。
「お店、昨日も誰も来なかったよ」
「いつもどおりか」
「うん。いつもどおり」
そういえば、ミリアには店番を任せていたんだっけ。
もう、頭を動かすことすら億劫だ。
・・・・・・だるい。
「カナメもそこまでしなくてよかったのに」
なにを言う、大切な幼馴染のミリアのためだ。これくらいがんばるさ。
言おうとしたけれど、疲れてもう声も出せない。
すぐにアタシの意識は深い暗闇に落ちていく。
こんなに疲れるまで何をしていたのか。アタシの目の前にその答えはある。
真っ黒な刀身のショートソードが地面に突き立っている。
これが原因だ。
ことの始まりは、一昨日の朝までさかのぼる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ミリアから剣の素材にともらった例の角。
あれの色が変わって、それ以上魔力をつぎ込んでも色の変化は起こらなくなった。
なぜかあの角はさまざまな色を経由した後、虹色に光り輝いた。
アタシはその日はミリアに店番を任せて、工房に引きこもった。
魔力を通して形を変化させた角を鎚で叩く。
不思議なことに、叩けば叩くほど虹色は黒ずんでいき、どれだけ叩いても黒へ黒へと染まっていった。
叩けば叩くほどに、暗く、黒く。
どこまで叩いても限界が見えない。
ミリアに声をかけられて、日付が変わっていることに気がついた。
けれど、まだ終われない。
今やめたら、駄目な気がした。
アタシは続けて刀身を叩き続ける。ちょっとだけ窓をのぞいたけれど、外は真っ暗だ。
魔物の素材を剣や刀にするとき。そういうときは大抵、形状を固定、つまり素材そのものに記憶させるために叩き続ける。
今のアタシなら大体のものは五、六十回も叩けば形を覚えこませることができる。
魔力を注ぎ込みながらやるならよりそれが進む。
おかしいと思った。
どれだけ叩いても、形状が固定される気がしない。
迷宮の素材は癖が強い。けれど、これは今まで私が加工したものの中でも一番の難易度だ。
どれだけ叩いただろう。
もう一日以上は叩いている。
三回目の朝。
ショートソードの形へと、素材が固定された。やっとだ。
「できた・・・・・・」
口からは吐息とともに、呟きがもれる。
けれど驚くのはそこからだった。
剣に内包された魔力がまるで意思を持って動く。
そう表現するのが一番正しいかもしれない。
アタシが剣を持つと、刀身が暴れだした。形こそ変わらないものの、魔力が溢れようと必死に暴れる。
アタシは必死に魔力を押さえつけて――――ー。
腕に激痛が走る。
そのときにアタシがあげた小さなうめき声を聞いたのか、店番をしていてくれていたミリアが駆けつけてきた。
とたんに、ぴたりと魔力がおとなしくなる。
気が抜けて、アタシは剣を落としてしまった。
ショートソードの形に保たれた剣は刀身が地面にさくりと刺さった。
アタシは工房の椅子に、倒れるようにして座り込んだ。
「飲み物と、あと何か冷たいもの持って来るね」
ミリアがキッチンのほうへと駆けていき、冒頭へと戻る。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
目が覚める。ここは・・・・・・布団の中だろうか。
ミリアが運んでくれたのかな?
「あ、起きた」
聞き慣れた声が隣から聞こえる。
横を向くと、ミリアが満足そうな顔でアタシと一緒の布団に入っていた。
「おはよ」
「ああ。おはよう」
「よく寝たね」
「よく寝たな。今何時だ?」
「大体三時くらいかな? カナメが寝てたの、八時間くらい」
「そっか・・・・・・で、なんでミリアはアタシの布団に入ってんの?」
「急に倒れちゃったカナメが心配だったの。あと汗ばんだ首筋を堪能してた」
・・・・・・まあいいや。いつものことだ。
「・・・・・・店番は?」
「だれもしてないかな? カナメが倒れちゃったから今日はお休み」
どうせ人も来ないし。
まぁ、いいか。
「心配だったんだよ。カナメが倒れるなんて田舎にいるときもなかったでしょ? あの角の加工そんなに疲れたの?」
「まあ、少し」
「ちゃんと寝なきゃ駄目だよ。体壊したら元も子もないんだから」
ミリアも心配してくれたんだな。
当たり前のように心配してくれることが、なんかうれしい。
・・・・・・・・・・・・それにしても、ねむい。
ふわぁ~と欠伸する。
「カナメ、まだ眠いの?」
「ああ。結構寝たかもしれないけど、もうちょっと寝るよ」
「じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
まどろむ意識の中で、あの剣はどうなったんだろうかと思考する。
あとは、ミリアに実際に剣を振ってもらって、細かい調整をすればいいかな。
「カナメ、ありがとね」
完全に眠りに落ちる前、ミリアの言葉が聞こえた気がした。
相変わらずの不定期更新ですが、またストックと相談しつつ書け次第投稿していきます。
読んでくださりありがとうございます。




