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ロロさんじゅうろくさい

 アタシは店のカウンターで体を預けるようにして、うつらうつらと重いまぶたをこすりながら店番をしていた。


 あー・・・・・・暇だなー・・・・・・。


 眠いのは、陽気がいいせいだ。いつもどおりのショートパンツによれよれのシャツという薄着のアタシでもついうとうとしてしまう程よい暖かさ。

 心地いい。


 例によって客も来ないし、だらけた姿でいても文句を言う人もいない。

 ミリアだったら、アタシの代わりに店番してくれるし、カウンターでアタシがだらけていても注意なんてしないし、むしろその柔らかい手とかでアタシの頭をなでてくれたりするから余計に眠くなる。


 まあそのミリアは今は居間のほうで夕飯の準備してるけどさ。


 とにかく、眠い。


 なんかもう、駄目になりそ。


 ・・・・・・あ、まぶたが落ちてきた。

 いいや。寝ちゃお。


「それにしても、ほんとに暇ね~」


 ね~。


「何でカナメさんはこんな街中に冒険者用の店を構えようなんて考えたのかしら?」


 何でだっけな? 当時のアタシは王都は全部ひとまとめだと思ってたから、どこでも良かったんじゃないかな?

 場所とか金額とかあんまり気にしてなかったし。


「それにしても、眠そうね」


 うん。眠いよ。


 そういえば、どこかで聞いたような声が聞こえるな。

 幻聴? アタシもまだ若いつもりだったんだけど。


 眠いからかな?


「ねえ? 寝てるの? そろそろ私に何か反応してくれてもいいんじゃないかしら?」

「ん~? 寝てるよ~」


 だって眠いし。


「じゃあキスしたら起きる? 眠りの森のお姫様みたいに」


 今のアタシはあんなに簡単に起きないぞ。

 キスひとつでなんて、あれで目覚めるお姫様もどうかしてるよ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?


 明らかな会話の違和感に目を開くと、そこには顔ほどの球体が二つ。


「あら? 目覚めちゃったかしら?」


 球体は、胸だった。

 それもつい最近見た、爆乳。

 そこにたれるように下がっている黒髪からは、アタシやミリアには絶対に出せない色気が漂っていた。


 半ば確信を持ちながら顔を上げる。


「なんだ。本当にキスしていいのかと思っちゃったわ~」

「ロロさん? どうしたんですかこんな店に。あと寝ている人にキスをしようとするなんていいわけ無いでしょ。王子様だって一歩間違ってイケメンじゃなかったら目覚めたお姫様だって張り倒してますよ」

「じゃあ起きていればいいのね~」

「駄目に決まってますよ」

「あら、残念」


 そもそも、いつの間に店の中に入ってきたし。


「カナメちゃんがぐっすり寝てたから、いたずらしたくなっちゃったのよ」


 ・・・・・・本当に起きてよかった。


「せっかく来たんだから、何か一つくらい買っていきませんか? ポーションとか、アタシが自分で作ってますからそこそこの品質は保障しますよ」

「おまけでカナメちゃんついてくるなら箱買いするわ~」

「アタシはつきませんけど・・・・・・ひとつ750クロンです」


 本当にもう、ロロさんは何を考えているか分からない。

 むしろ何も考えていないっていわれたほうが納得できる。


「ねえカナメちゃん。奢るから、今晩夕食ご一緒しない?」

「ありがたいですけど、遠慮しときます。ミリアが夕飯の準備してくれてると思いますから」

「あらそう? 妬けるわね~。せっかくついでに夕食後の運動もご一緒しちゃおうとか考えていたのに」

「やめてください。アタシはノーマルです」


 そんな会話をしていたら、どたどたと居間のほうからあわてたような足音が聞こえてきた。


「ちょっとロロさん! 私のカナメを誘惑しないでください! これでもカナメは欲望に弱いんですよ。物欲とか、食欲とか、ちょっとちらつかせたらすぐほいほいついて来ちゃうんだから」


 ミリア、アタシってそんなに信用無いの?

 確かにおいしいものとかに釣られやすいけどさ、田舎に居たときも迷宮にもぐり始めたきっかけはミリアに「迷宮の中の魔物にはね、珍味を持っているのも居るみたいだよ」とか言われたからだったりする。

 だからそう思われていても仕方ないのかもしれないけど。


「それはいいことを聞いたわね~」

「ロロさんも本気にしないでくださいね」


 一応、釘を刺しておく。

 これを期に定期的においしいものが送られてくるようになったりするんだったらそれはそれでありだけどね。

 ロロさんならやりかねないけど、後がちょっと怖い。


「ねえ」


 ロロさんが唐突に切り出す。


「カナメさんって何が好き?」


 送る気満々じゃないですかやだー。


「カナメは甘いものより、おせんべいとかちょっとしょっぱいものが好きなんですよ」


 ミリアがさらりと答える。

 あれ? アタシが聞かれた質問だよな。


 ちなみに甘いものも好きだ。おせんべいも好きだけどね。

 苦手なのは特に無いけど、積極的に辛いものを食べようとは思わないな。あれって、痛みらしいし。

 アタシはそんな痛みに喜ぶ変態でもない。


「そうなの? じゃあ」


 ロロさんは白いローブの内側から飴を取り出して、自分の口に放り込む。

 そしてその飴を唇で摘みながら。


「ほら、カナメちゃん。あ~ん」


 ・・・・・・いや、しませんよ。


 でも、どうやって声を出してるんだろう。

 唇は飴を摘んでいて一切動いていない。不思議だ。


「ちょっとロロさん私の話聞いてたんですか? それにカナメにあ~んってしていいのは私だけです!」


 ミリアもなぜか必死だ。

 助けてくれるのはありがたいけどね。


「あらミリアちゃん、飴食べたいの? じゃあ、あ~ん」


 見境なしかよ! そしてやっぱり唇動かないな。


「私にあ~んが出来るのはカナメだけです!」

「アタシしたこと無いけどな!」


 今日はツッコミが多い気がする。

 きっと陽気がいいから? だ。


「で、結局のところカナメちゃんは何が好きなの? 私? それとも私のおっぱい?」

「それもうロロさんじゃないですか」

「そんな事言わないで、ねえ。私に貴女のこともっと教えてくれたっていいじゃない?」


 プライベートです。


「カナメは身長158センチの体重46キロの十七歳です。これでいいじゃないですか」


 あ、こら。

 ミリアめ、身長と年齢ならともかく、体重は反則だろ。


「あら、ご丁寧にありがとう。こんどはスリーサイズを教えてくれるとうれしいわ」

「スリーサイズは私とカナメの秘密です」

「あら、残念ね」


 いいんだそれで。

 というかミリアいつの間に測ったし。

 たまに後ろから抱き着いてアタシの胸をもんでたりしたのもそのためか?


「でも驚いたわ~。私よりも一つ年上なのね~」


 ・・・・・・はい?

 十六で、そのおっぱいですか?

 まだおっきくなる余地がある年齢だとは、恐ろしい。


 っていうか年下!

 大人っぽい雰囲気だったからずっと年上だと思ってた。

 あとおっぱい大きいからてっきり・・・・・・なんかアタシさっきからおっぱいのことしか触れてない気がする。


「私たち、もっと子供だと思われてたんですか?」


 ミリアが尋ねる。

 アタシと違っておっぱいばかりに目が行ってないあたり、偉い。


 でもちょっと涙目だ。


「ごめんなさいね~。いいとこカナメちゃんが同い年で、ミリアちゃんはその一つか二つくらい下だと思ってたわ~」


 おっぱいが基準なんだろうか?

 あ、駄目だ。またおっぱいに思考回路が誘導されている気がする。


 ロロさんの台詞に、アタシもミリアもすっかり言葉を失ってしまった。

 だって・・・・・・なぁ。

 虚しい。何がとは言わないけど。


 窓の外の空が紅い。


「ねえカナメ、そろそろ夕ご飯にしよ」

「ああ、そうだな」


 アタシたちの雰囲気を察してか。


「・・・・・・じゃあ私もそろそろ帰るわね~」


 ロロさんも年下だと思っていた相手が年上だと分かって戸惑っているのかもしれない。


「子供っぽい年上・・・・・・それもありね」


 うん。

 アタシってそんなに子供っぽいかな。

 ・・・・・・・・・・・・突っ込み放棄したとか言わないでほしい。


 店を出る寸前に、ロロさんはミリアを呼んでその耳元に何かささやいていた。


 その後ミリアは少しだけ表情をほころばせていて、なんだか気になったアタシは夕飯のときにそれを聞いてみた。


「女の子同士のほうが、ポイント分かってるから気持ちいいって。よかったね、カナメ」


 ・・・・・・何が?






 年下だと分かっても敬語なのは雰囲気に呑まれているからです。

 こういうの本文の中に入れるのって難しいですね。

 散々悩んで、抜きました。


 お詫び・・・・・・思ったよりも忙しくて更新に少し間が空いてしまいそうです。すみません。



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