勇者襲来
難産でした・・・・・・。
偶にしかなることの無い扉につけたベルが音を立て、店内に小気味の良い音が響き渡った。
店の奥、居間のほうからミリアも接客しようと歩いてくる。
ついさっきまで昼ご飯を作っていたせいか、炒めた野菜の香りをそのエプロン姿にまといながらアタシの横に置かれた椅子に座った。
服と服がぎりぎり擦れない距離。やけに近いな。
「いらっしゃい」
アタシは店のカウンターで頬杖をついたまま。
「いらっしゃいませ」
ミリアはアタシと違って丁寧な口調だ。
久々の客は、アタシとほぼ同年代くらいの男性。騎士というには妙に使い込まれていて、冒険者というには少し豪華すぎる装備をしていた。
鎧とか、あれ絶対鉄じゃない。
あの鈍く輝いている光沢は、銀がコーティングされているのかな?
ミリアのほうをちらりと見ると、いつもと変わらない笑顔でにこにことしていた。
気のせいか、さっきより近づいてないか? 服が擦れてる。
その鎧の男はしばらくの間いろいろなポーションを手に取りながら眺めたりしていたけど、そのうちに武器を見始めた。
この前のゴブリンから掻っ攫ったようなものでもなければ大体アタシが作った装備だから性能にはそこそこの自信がある。
「すみません」
唐突に、男はアタシへと話しかけてきた。
「この剣、振ってみていいですか?」
おいてあった一本のショートソードを手にとって、男はアタシに見せる。
「ああ。店内だと狭いからできれば店の入り口でやってくれ」
あんまり広くないのは仕様かな・・・・・・。
確か男が手に持った剣は王都に店を構えてから作ったやつだ。
そのころのアタシはまだ暇に慣れていなくて何かしらしていないと落ち着かなかった。
品揃えもまだあんまり良くなかったのもあり、暇つぶしもかねて拘って作った剣だ。特に重さが見た目よりも軽くなるようにわざわざ風魔法の付与までしてあるから、頑張ればセラくらいの小さな子供でも持つことができるはず。
もともと女性用に作ったものなんだけど、あの剣に目をつけるとはなかなか見る目があるね。
男は剣を持って店先へと出て行く。
何度か風を切る音が聞こえた。
剣速はミリアと比べるとだいぶ遅いかな。
そういえば、ミリアから預かったあの角は未だに魔力が溜まりきらない。アタシは普段魔力を使うこともないし、一日に魔力総量の半分だけじゃなくてもう少し注ぎ込んでもいいかもしれない。
「あー! ヒロトこんなところにいた!」
外からは何か姦しい声が響いてくる。
「リューリさんにロロさん、どうしたのですか?」
「もー勝手にふらふらとどっか行かないでよ。探すの大変だったんだから!」
「あはは、ごめんなさい」
声から察するに、三人って所かな? さっきの男の人が一人と、若い女の子の声が二つ。
「まあまあリューリ、ヒロトはいつもこんなんなんだからいちいち気にしてたらもたないわよ」
「ロロはヒロトに甘すぎ! 何よ、好きなの?」
うわぁ・・・・・・若いなぁ。
「そんなこと無いわよ。私はかわいい女の子が好きなんだから」
「そうだった! このレズめ!」
・・・・・・あれ? 一人変なのがいた。
「そうだリューリさん、このお店で結構いい剣見つけたんですよ。すごく軽いから、リューリさんにも使いやすいと思いますよ」
「えっ? それってあたしに?」
「はい、リューリさんに。今度の魔王軍との戦闘に備えて少しでも装備を強化しておきたいですからね」
「わぁ! 嬉しい! ヒロトありがとう!」
青春してるなぁ・・・・・・。
「カナメ、顔が赤いよ」
「ああいうの聞いてると恥ずかしいんだよ」
「ふふ、カナメらしいや」
悪かったな。そういうのに耐性無いんだよ。
ミリアだって無いくせに。
「私はカナメで耐性つけたもん。それに、自分で言うのもなんだけど田舎にいるとき私結構もててたよ?」
あー、そういえばそうだった。
アタシには男っ気がまったく無かったのに。
「すいませーん。この剣いくらですかー?」
そんなやり取りをミリアとしていたら、さっきの男の人が店の中に入ってきた。
隣には小さい女の子。十歳くらいかな? 金髪のツインテールが一歩進むごとに左右になびいている。
「二万五千クロンです」
「意外と安いですね。あ、ここって王国のツケ利きますか?」
・・・・・・ツケ?
そもそも王国との関係とか繋がりみたいなものアタシには何も無い。
「ちょっとぉ! 女の子へのプレゼントにツケってないでしょー」
この金髪の女の子は声から察するにリューリって娘かな?
「あー・・・・・・ツケは無理なんで」
「あ、すみません」
王国へのツケとか、いったいどこのお偉いさんだよ。
「あ、ヒロトっていいます。別に偉くは無いんですけど、勇者やってます」
「へー・・・・・・って、アタシ口にしてた?」
「はい」
ミリアのほうを見ると、苦笑いで頷いている。
ってことは初対面の客に素が出てた?
「やっちまったよ恥ずかしいなぁもぉ!」
「カナメ、また口に出てるよ」
ミリアの声が聞こえる。
きっとこれは暇な時間を長い間過ごしてきた弊害だから。独り言とか無意識のうちにしゃべってたりとかしてたせいだから。
顔が熱い。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しばらくミリアにいい子いい子されてだいぶ落ち着いた。
会計を済ませて、目の前の『勇者』を名乗る人物へと話しかける。
「勇者って本当にいるんだな。ずっと御伽噺の世界のものかと思ってたよ」
「まあ、百年に一回教会から選ばれるだけですからね」
もう話し方は素だ。
あんな恥ずかしい思いをするなら初めっからこっちのほうが気楽でいい。
「二人とも遅いわね~」
店のベルが再度その存在を主張する。
「あ、ちょうどいいところに。彼女が僕の勇者選定をしたロロレメル・マーリエです」
「え? なに? 私がどうかしたの?」
戸惑うような声。
そりゃ二人の様子を見に店の中に入ったら、唐突に自分の名前が出てきたんだ。驚くさ。
けどアタシはその姿を見て言葉を失った。
「な・・・・・・」
「おっきいね・・・・・・」
ミリアですら呆然と、視線が彼女の一点に集まっている。
「あら、かわいい店員さんたちね」
のほほんと笑うロロレメルさん。
彼女の胸。
そこにアタシとミリアの視線は向かってしまった。
そこにあるのは、乳。
それも常軌を逸したサイズの、まさに爆乳という言葉が似合うものだった。
アタシの胸はたぶん平均よりも大きいと思うし、そこそこの自信もある。
近所ではアタシよりも大きいのはロメールさんくらいだ。
ミリアは、壁。
まな板にさくらんぼが二つ。
「私のことはロロでいいから。むしろロロって呼んでね」
穏やかな笑みを浮かべるロロさん。
けどアタシとミリアはただ呆然としていた。
さっきまでの恥ずかしかったのなんてもうどっか行ったよ。
そんなアタシたちの様子をヒロトとリューリは苦笑いをしながら見ていた。
「まあ、初めてロロのおっぱいを見たらそうなっちゃうわよ。あたしだって固まっちゃったし」
リューリがさりげなくフォローを入れる。
アタシとミリアが正気に戻ったのを見計らって、ヒロトがアタシに話しかけた。
「せっかく勇者に選ばれたので、ちょっと頑張ってみようかと思って。今は予想される魔王軍の襲来に備えて王都周辺を見て回ってるんです」
いざというときに地理が分からないなんてことになったら困りますしね。とヒロトは苦笑していた。
しかし、ロロさんの胸はすごいな。ブルンブルン揺れてるよ。呼吸をするごとに大きく上下しているのがよく分かる。
「僕が一応パーティーのリーダーしてます」
「あたしは元盗賊。今は斥候職をしているわ」
「私は僧侶よ~」
「本当はもう一人いるんですよ。王都で会議があるんですけど、僕が会議苦手なので代わりに出てもらっているんです。拳闘士のデダルって人なんです」
前衛多いな。
アタシとミリアだと、ミリアが前衛でアタシが後衛をしていたし、回復は全部アタシが作ったポーションで何とかなってたからな。
今思うと二人でよくやってたな。
ミリアにいたってはその後もソロで迷宮攻略してるし。
「自己紹介も終わったところで~」
ロロさんが微笑を浮かべながらアタシのほうを見る。
「あなた、私と付き合ってみない? 気の強そうな女の子、好みなの」
はい?
もうさっきからいろいろあって割と混乱しているアタシに向かってロロさんはその存在感たっぷりの胸を見せ付けた。
「駄目! カナメは私の幼馴染です!」
「あら? そう言われるともっと欲しくなるわぁ」
ミリアが椅子から立ち上がり、ロロさんに怪訝な目を向ける。
二人の間に見えない火花が散っているようにも思えなくも無い。
・・・・・・あれ? そもそもアタシにはレズっ気ないんだけど。アタシの意思は?
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