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 ミリアの作る鍋は白菜、豚肉、豆腐の三種類をメインとしてだし汁、みりん、醤油、塩でシンプルに味付けをしたオーソドックスな鍋だった。


 ソノアとシュウを含めたアタシたちの目の前でミリアは小ぶりの白菜一玉を手際よく一口サイズに切り分けて、沸騰した鍋の中へとささっと投げ込むように入れていった。

 白菜一玉と聞くと多いかもしれないけど、ミリアの作る鍋はおいしいから箸が良く進む。

 肉よりも白菜が主役といった感じだ。


 関係ないけれど、アタシはこの前のオークもどきの一件でネクロマンサーの気分を味わったせいなのか、ちょっとだけ豚肉が苦手だ。

 あれとは関係ないけれど、どうにも気持ち悪いやつらのことを思い出してしまっていけない。

 死体を操るなんてやんなきゃ良かったかなぁ・・・・・・。

 いまさらだけどちょっと後悔。


 そんなことを考えている間に豆腐が投入された。

 あれ? 肉は?

 

「カナメ見てなかったの? もうとっくに入れたよ」

「ん。ああ、悪い」


 どうも本格的にいけないかもな・・・・・・。


「最近ずっと迷宮に篭もってたから、まともな豚肉なんて久しぶりだぜ」


 シュウは平気か。アタシもミリアと迷宮に潜ってたときは普通に平気だったんだけど、やっぱり『人形操作マリオネット』がいけないのかな?

 あれはあんまり使わないようにしよう。

 特に食材っぽい死体には。


「そういえばシュウさん、どこまでいけました?」


 唐突にソノアが話題をシュウへ振った。


「ん? 何がだ?」

「迷宮の階層ですよ。もうタラッタラットくらいは倒せますか?」

「ああ、今は四階層まで一人で行ってる。カナメのところで買ってるポーションよく効くからな。怪我とかすぐに治るし、四階層まで何度も往復していろいろな相手と戦ってるよ」


 いつの間にかシュウも成長していくなぁ。

 っていうか、クソガキの癖に成長早くないか?


「六階層からは私も付いていきますから、絶対に一人で行かないでくださいね。何かあったときはもう手遅れですから」

「ああ。分かってる」


 ソノアも、変態だけど冒険者ギルドの元職員だけあってそういうところはしっかりしている。


「そういやシュウ、あの迷宮って二階層以降はどんなやつらが出てくるんだ?」


 一階層はタラッタラットだけだったから、アタシとしては結構気になる。

 近いうちにミリアと一緒にどこまでもぐれるか試してみたいしね。


「あー、二階層はジャンプラピッドだった。タラッタラットみたいに変なステップ踏まないでまっすぐ飛んでくるから意外と楽だったかな。あと、三階層はロンリードッグ、犬だけど野犬みたいに群れて行動しないからまあ平気かな。犬はスラムにいたときだいぶ喧嘩してるしな」

「・・・・・・意外と大変な人生送ってるんだな」

「スラム出の人間なんてだいたいそんなもんだよ。中にはもっとひどい生活してたやつだっているぜ」

「そっか」


 アタシには直接関係はないから実感わかないけど、やっぱり大変なんだろうか。

 でもそんな中でシュウみたいに頑張ってるやつだっているんだ。


 うーん。なんだかうまく言い表せないもやもやがどこか胸に突っかかっているような気分。

 下手な同情とか、何にも知らないアタシが言うのもなぁ・・・・・・。いや、同情とは少し違うんだけど・・・・・・。


「で、四階層の魔物なんだけど」


 そういえば、話続いてた。


「スライムだった」


 まさかの四階層でスライムか。


「でも驚いたよ。剣での攻撃ぜんぜん通らねえの。仕方ないから素手でつかんで投げての繰り返ししてた」

「それアタシの知ってるスライムと違う。もっとこう、物理攻撃が効果ない、ものすごいスピードで体当たりしてくる強酸の塊みたいなもんじゃなかったっけ」

「そんなスライムだったら四階層で大体の冒険者が立ち止まってるよ」


 ふーん。『タナカの迷宮』とはだいぶ勝手が違うんだな。


「ほらみんな、鍋いいかんじに煮立ったよ」


 ミリアが話を区切りつつ、鍋の食べごろを教えてくれる。

 蓋を開けると、真っ白な湯気が立ち上った。


 ミリアが鍋奉行よろしく鍋の具材を各々の小鉢に取り分ける。

 具のほとんどは、白菜、豚肉、豆腐だ。


 アタシのところには、ほとんど白菜と豆腐しか入っていない。

 最近アタシがあんまり積極的に豚肉を食べていないのを理解してるみたいだ。


 気遣いのできるいい嫁さんになるな。


「ほらカナメ、あ~ん」

「ん、あむ・・・・・・・・・・・・うん。うまい」


 ミリアの箸からアタシの口元にもってかれた白菜をアタシは一口で頬張った。


「はい、あ~ん」

「ん、あむ」


 出汁の良く染みた白菜を咀嚼してから飲み込むと、すでに次のがアタシの口元にスタンバイされていた。

 それもまた一口で頬張る。


 アタシも自分のをよそってもらっているから、普通に食べたいんだけど。

 まあせっかくだし、いいか。

 小鉢のものも冷める前に食べればいいしな。


 なんだかシュウがうらやましそうな顔で見ているけど気にしない。

 こら、箸から肉がずり落ちてるぞ。

 やっぱりミリアに気があるのか。


 ソノアは黙々と食べている。

 お代わりももう三杯目だ。

 それでもまだ鍋の中にはいっぱいあるから、なくなる気配は無い。もし食べ切れなかったとき、明日の朝食になる可能性があるからできれば全部食べきりたいところだ。


「はいカナメ、あ~ん」

「もういいよ。自分で食べるから。ミリアもアタシに食べさせてばっかりでまだぜんぜん食べてないだろ? 冷める前に食べちゃおう」

「そしたらまた温めればいいよ。ほら、あ~ん」


 まあ、それもそうか。


 アタシは素直に受け取って、目の前に差し出される豆腐に口をつけた。

 うん。

 おいしい。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 なんだかんだで、鍋は四人で全部食べきってしまった。

 アタシも主にミリアの箸からだったけど結構食べた。


 ミリアが残っただし汁にご飯を入れ始めたときはもう食べられないと思っていたけど、雑炊は雑炊であっさりとおなかの中に納まってしまった。


 太らないか、ちょっと心配だった。

 今度迷宮に行って軽い運動しないとな。


 シュウは明日から迷宮の五階層に潜ると言っていた。

 ソノアも魔王軍の幹部がなんとやらとか言って王都のギルドマスターをしている祖父に呼び出されたようで、明日は一日大変そうだ。


 アタシは。


「あー、暇だ」


 なんだかんだで久しぶりのこの台詞を呟いた。





 人が鍋を囲むシーン、好きです。

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