ソノアの金の玉
長らく開いてしまいました。すみません。
「魔法の練習をする前に、セラさんには適正を調べてもらいます」
そう言ってソノアが持ってきたのは、金色に光る拳大の球体だった。
「なんだ? これ」
「魔力の特性を調べる玉ですよ。魔法使いの間だと結構有名なんですけど、あんまり一般には広がっていませんね」
アタシの疑問にすぐさまソノアが答えてくれた。
「ルルー!」
ばしばし。とルルーが面白そうにソノアの取り出した球をたたいている。
「ちょ、やめてください! 高いんですよ!」
ソノアにつかまったルルーは少し残念そうな顔をしていた。
あの球が気に入ったのかな?
「まあ特性って言っても伝わりにくいと思うんですけど、人それぞれ得意な魔法ってあるじゃないですか。私だったら、火属性の魔法ですね。その人の魔力がどんな魔法に良く馴染むのか漠然と調べるためのものなんですよ」
「へー、そんな便利なものがあるんだな」
「そんなに正確なものでもないんですけど、魔法使いが弟子を取るときとかはまずこれで才能を調べることが多いです。やっぱり有名な魔法使いほど才能ある弟子を取りたがりますからね」
まれに例外もいますけど。とソノアは忌々しそうにつぶやいた。
なんかいやな思い出でもあるんだろうか。
「こんな感じです」
ソノアが手をかざすと、黄金の急の周りに淡い赤色の光が広がった。
いったいどういう仕組みをしているんだろうか。
「まあでもセラさんに適性を調べてもらうのはおまけみたいなものですね。そもそも魔物の卵ってただ魔力を与えればいいから別に魔法が使えなくても問題ないんですよ」
ソノアはセラの両手を背後からそっと手にとって球体にかざすよう導いている。
「肩の力を抜いてリラックスして、はい深呼吸」
すー。
はー。
セラの小さなかわいらしい息遣いが聞こえるとともに、それを二、三度繰り返したあたりでセラの肩の力が抜けて言ったのが傍で見ていたあたしにもよくわかった。
ソノアは意外と教師に向いているのかもしれない。教師じゃなくても、保育園の保母さんとか似合いそうだ。
・・・・・・無いな。想像してみてから思ったけど、子供たちにくすぐられて恍惚の表情を浮かべているソノアはなんか犯罪チックだ。
今のところアタシにだけ迫ってくることを考えればそこまで見境無くはないんだろうけどね。
「リラックスしたところで、今度は魔力を込めてみましょうか」
「うん。でもセラどうやってやればいいのか分かんないの」
「それをこれから教えますから、緊張しないで、肩の力を抜いたままにしてくださいね」
「うん」
セラに球体へ手をかざさせたまま、自分はセラの肩に手においてソノアは続けた。
「目をつぶって、私の手のひらから流れるものを意識してくださいね。それが分かったら、その流れを今度は球体に向けてセラさんの手のひらから流してみてください」
言われたとおりに、セラは目をつぶる。
なんだかしっくりきていない感じだ。
「よく分かんないよ」
「集中して、体の奥にある流れを意識してみてください。私も少しずつセラさんの体の中の流れを探っていきますから」
「う~ん」
首を傾げるセラ。
アタシの思っている以上に魔力の認識は難しいらしい。
アタシは迷宮もぐっている最中に魔法を使えるようになったから、あんまり覚えていない。
始めのうちはミリアと一緒に剣で前衛をしていたけど、だんだんアタシの動きがついていけなくなって魔法を使うことに専念したんだっけ。
その魔法も魔物の使っている魔法を見て基本を覚えたからなぁ・・・・・・。
そういえば、迷宮の中は魔力で満ち溢れていたから魔力の流れを認識するもの楽だった。
店の中も同じようにすればセラも何かつかめるかもしれない。
そう思ってアタシは魔力を体から漏れ出すようにして店の中を満たしていく。朝方、角に魔力を半分くらい渡しているけど店内くらいの大きさだったらたいした労力も無く簡単にできる。
ただ、バルーンバードの卵に影響が出ないようにその周りだけは魔力が触れないように気をつけておいた。
もしアタシのせいで卵が孵っちゃったらセラも悲しいだろうしね。
「え? この魔力、カナメさんのですか?」
始めに反応したのはソノアだった。
さすがに現役の魔法使いだけ会って気づくのが早い。
「セラのほっぺたもなんだかぴりぴりするよ」
「ルルー」
「ルルーもそう思うの?」
「ルー」
ぴりぴり、か。そんなに強く魔力を放出したつもりは無かったんだけどさ。子供は刺激に敏感なのかね。
「それですよセラさん、そのぴりぴりを意識してみてください。なんとなく感じられたら、今度は自分の内側にもぴりぴりが無いか探して見てください」
「うん・・・・・・・・・・・・あった。あったよ!」
目を開いてにっこりと笑みを浮かべるセラ。
「わぁ・・・・・・魔力っていろいろなところにあるんだね」
一度コツをつかむと後は早い。セラもすぐに身の周りの魔力の有無を感じ取れたみたいだ。
「じゃあ今度はその魔力をこの球に向けてみてください」
言われるとセラはきょろきょろするのをやめて目をつぶると、球へと向き直った。
ソノアはもうセラの肩に手を置いていない。
その様子を見ていたら、自転車で『掴んでるよ』といいながら後ろを離しているやつを想像してしまった。
やっぱりなんだかんだでソノアは教師に向いていそうだ。
変態だけど。
「・・・・・・え?」
そんなことを考えていたアタシの想像ははソノアの驚きの声によって中断された。
アタシも何があったのかと二人のほうへと目を向ける。
ただ、まぶしいという表現が一番あっていたかもしれない。
その金色の球体は光っていた。
セラの魔力で黄金の球は確かに光り輝いていた。
けれど先ほどソノアの見せたように色のついた光ではなく、ただ単に光っていた。
「驚きました・・・・・・まさかセラさんの魔力が聖属性とは」
「聖属性?」
初めて聴いた言葉にアタシは疑問を投げかける。
「まあ、単純に言えば初代勇者のパーティーにいた僧侶のと同じ属性です。特徴といえば、癒しの力を持つことでしょうか」
「ふーん、セラがねー・・・・・・」
「百年に一人ほどのペースで見つかっているそうです。私も文献で知っていただけで、直接見たのは初めてですね」
セラって珍しいんだなー。
「カナメさん、どうしましょうか?」
「どうって?」
「世間にばれたら、大騒ぎですよ。それとたぶん教会がセラさんの身柄を引き取ろうとします」
「ほかに誰も知らないんだから隠しとけばいいだろ。一応セラのお父さんとかロメールさんに伝えて、判断してもらえばいいんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・そうしましょうか」
何も知らずににっこりと笑うセラ。
うん。かわいい。