魔法使いを目指そう
「お、セラ。久しぶり」
アタシは店の扉を空けて入ってきた少女を見て言った。
「カナメお姉ちゃん、こんにちわ・・・・・・あれ? 今日ミリアお姉ちゃんいないの?」
「ああ、いま買い物に行ってるよ。そっちこそ、ルルーがいつものところにいないけど、留守番でもしてるのか?」
いつもの所とは、ルルーが好んで座っているセラの肩の上のことだ。
普段ならそこで足をぷらぷらさせているんだけど、今日はセラと一緒に行動してないのかな?あの小ささで一人歩きをするなんてすぐに迷子になりそうで怖い。
「ルルーはお店の外にいた絵本の中の魔法使いさんみたいな人が気になるって」
「ああ、またソノア来てたのか」
「とんがってる帽子の先っぽにつかまってる。なんだか楽しいみたい」
うわぁ・・・・・・すごく簡単にその様子が想像できる。
そして何故ソノアは店の中に入ってこないんだ? 決闘でアタシに負けてからよく店の近くをうろうろしている。それなのにアタシが声をかけようとするとどこかへ走り去ってしまうのだ。
けどまたすぐに店の近くをうろうろしている。
もはや軽いホラーだね。
「えーっと、悪いんだけど外の変態魔法使い呼んできてくれないか?」
「お友達なの?」
「ああ、大体そんなところだ」
「いいよー。ルルーも一人に出来ないもんね」
「頼んだよ」
セラは面白そうに店の外にかけていくと、すぐにソノアをつれてきた。
年上の人間が年下の女の子に服の裾を引っ張られる姿はなかなか見ていて面白いけど、それにオプションで帽子の先っぽに黄色くて小さい人が楽しげにくっついている。
不思議な光景。
ソノアも小さい子相手には強引に出来ないのか、されるがまま引きずられている。
「ちょ、こら、このローブ高いんだから、引っ張らないでよ!」
「カナメおねーちゃん呼んでるよー。お友達じゃないの?」
アタシの前まで引きずられてくるソノア。
何故だかアタシと目をあわそうとはしない。
「・・・・・・・・・・・・ひさしぶりですね」
「嘘付け。毎日のように来てたじゃねぇか」
「細かいことを気にしてるといいお嫁さんになれませんよ」
何故そんなことをソノアに言われなきゃいけないんだ。
田舎にいたときからガサツだと言われていたけど、まさか王都に来て一年半もたってから同じようなことを言われるとは思わなかった。
「余計なお世話だ」
アタシはふてくされる表情を隠そうともせずに言葉を返した。
「ところで・・・・・・」
ソノアが手近なポーションをいじりながらアタシを見据えた。
どうでもいいけど、落としてくれるなよ。割れたら掃除がめんどくさいんだ。
「いくら出せばくすぐってくれるんですか?」
「いくら積まれてもやらねぇよ!」
それを言うためだけに来たのか。こいつは。
もうほっとこう。
「セラは今日はなにしたい?」
アタシは癒しを求めてセラに話を振った。
「あのね、これ・・・・・・」
言葉を濁しつつセラは肩にかけたかばんをおろす。セラが言いよどむなんて珍しい。
かばんを開けると。そこには大量の藁。
「・・・・・・・・・・・・なに? この藁の山」
「違うの。この中にあるの」
「ルルー!」
ソノアの帽子の先っぽにしがみついていたルルーがそこから飛び降りるようにしてセラのかばんの中へとダイブした。
なにやらガサゴソと、藁の中でうごめいている。
「ルルー!」
勢いよくかばんから顔を出したルルーに、白黒の縞模様の入った卵が抱えられていた。
ルルーよりもかなり大きい。子供の手のひら位。よく持てたな。
「お出かけしたときに拾ったの。魔物? だと思うけど」
「ふーん」
「ままとぱぱには捨てるか壊すかしなさいっていわれた」
そうだろうなぁ・・・・・・一応魔物の卵? だし。危険じゃないとは言い切れない。
っていうか魔物って卵から生まれるんだな。初めて知った。
「これ、バルーンバードの卵じゃないですか?」
「「え?」」
セラとアタシの声がかぶった。アタシたちの目がソノアに向く。
「たぶん。確信は持てないけどバルーンバードの卵だと思います。縞々が特徴ですから」
さすが元ギルド職員。知識は豊富だ。
変態であることとキャラ作りしてたことを除けば結構優秀みたいだし。
ちらとセラのほうを見る。
じっ・・・・・・と卵を見つめているセラ。
「バルーンバードだった大丈夫だろ。買いたかったらお母さんとお父さんに聞いて来るんだな」
「うん。そうする」
こくり。と頷くセラ。
「魔物の卵は一定以上の魔力を与えると孵ります。温めなくてもいいし、ほっといても大丈夫ですよ」
だって、よかったな。セラ。
「ちょっとお母さんのところ行ってくるね。ルルーはここでちょっと待ってて」
「ルルー!」
ビシリ。と敬礼をするルルー。
そういうのどこで覚えるんだろう?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一時間くらいして、満面の笑みを浮かべたセラが意気揚々と店の扉を空けた。
「飼っていいって!」
聞かなくてもよく分かるよ。
「良かったですねー。一応魔物だから餌も魔力で済みますし」
へー。
「でね、カナメお姉ちゃん」
「どうした? 改まって」
えっとね。と前置きをするセラ。
「この子を卵から孵すのに魔力が必要なので、魔法を教えてください」
・・・・・・え?
「お願いします」
ぺこりと丁寧にお辞儀をするセラ。
その姿は小動物のようで何だか可愛い。
「でもなぁ、アタシ、教えるのは苦手なんだ・・・・・・あ。いるじゃないか」
適任が。
「セラ、そこの黒いのに教えてもらえ」
「黒? このお姉ちゃん?」
「え? 私ですか?」
急に話を振られて戸惑うソノア。
「ソノア、お前魔法使いだろ? 基礎とかやった事あるんじゃないか?」
「はい。魔法は祖父に教えてもらってましたね」
「じゃあ任せた」
「よろしくね。お姉ちゃん」
アタシとセラに挟まれて断りづらいと思ったのかソノアはどこか諦めたようにため息をつく。
「・・・・・・カナメさん。貸し一つですよ」
この話を境にですがしばらく不定期更新になります。
時々思い出したように更新するかもしれないので温かい目で見ていただければ幸いです。