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決闘

 荷物置き場と化している、普段は使うことのない部屋。

 その中の荷物を一つ一つアタシはがさがさと探っていた。お目当ての自前の杖はもう半年以上目にしていない。どこかにあると思うんだけどなぁ・・・・・・。


 田舎を出るときに一緒に持ってきた小道具の中には見つからなかった。どこにいったんだろう。


「カナメー、なに探してるのー?」


 なかなか部屋から出てこないアタシのことを心配してかミリアが声をかけてきた。

「見つからないなら手伝うよ」

「助かるよ。アタシが昔使ってた杖を探してるんだけどさ、どこにあるか知らないか? ほら、ミリアと一緒に迷宮に潜ってたときによく使っていたやつ」

「ああ、あれなら・・・・・・」


 そう言いかけて、ミリアは固まった。


「どうした? 心当たりでもあるのか?」


 アタシの問いかけに何故か言いよどんだミリア。なんでか分からないけどアタシと目をあわそうとしない。

 この反応は知っている。昔からミリアが何かアタシにいい辛いことをしていたときにする目だ。

 アタシのそんな心情を察してか、ミリアも言い訳するように言葉を紡ぐ。


「べ、別に隠してないよ。心当たりあるからちょっと待ってて。すぐに持ってくるから」


 ミリアは慌てて部屋を出て行った。忙しい奴。

 何か隠しているみたいだけど、アタシは杖が見つかるならいいんだ。誰だって隠し事の一つや二つくらいあるだろうし、いい辛いことまでわざわざ言わせるのも悪い気がする。


 しかし、久々に荷物をあさったら存外に疲れた。

 ふぅ・・・・・・と近くの荷物の入った箱に腰をおろす。ふと、無造作に置かれた棒状のものが視界に入った。

 何かと思ったらこの前の市で買った『まおーさまのつえ』と銘打たれた杖だった。一瞬、この杖でいいかなと思ったけど、やっぱないな。さすがにダサいというか、恥ずかしい。


 売りつけたおっちゃんはこの杖だとろくに魔法が使えないとか言ってたけど、使ってみたら普通に魔法は使えた。

 もしかして詐欺られたか? でも使えるものを「使えない」なんて売りつけるバカはいないだろうしなぁ・・・・・・。うーん。商売は難しいね。


 そんなことを考えたらどたどたと階段を駆け上がる音が聞こえた。ミリアが戻ってきたみたいだ。

 直後に部屋の扉が開く。


「はい! 杖!」

「ああ、ありがとう」


 それにしても「はい! 杖!」とか説明が簡潔すぎるだろとか思いながら、手渡された杖を受け取った。


「昨日も使ってたから少しべたべたするかもしれないけど、ちゃんと拭いたから大丈夫だよ」


 ん? 使ったとかべたついていたとか、すごく気になるんだけど、どういうことだろ。


「なあミリア・・・・・・」

「なあに?」


 やめよう。聞くのが怖い。

 気にしないのが一番だな・・・・・・。とアタシの腕よりも少し短い杖を試し振りしながら思った。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「『固定』、『火炎のファイアランス』、『風のウインドランス』、『氷柱のアイスランス』、『大地のアースランス』、『雷電のサンダーランス』、『光のライトランス』、『闇のダークランス』」


 ソノアがアタシの目の前で息継ぎもないがしろに杖に留めていおいた呪文を開放する。


 決闘当日、朝から店を空け例の荷物運びの兄ちゃん半日かけて冒険者ギルドまで連れて行ってもらった。

 ついて早々、審判と思しき女性のギルド職員にギルド前の広場まで案内された。

 そこにはソノアが杖を構えてすでに臨戦態勢に入っていたのだ。

 アタシはとんとん拍子に進んでいる流れについていけないまま、言われるままにしていたらいつの間にか決闘が始まってしまった。


 開始早々にソノアの魔法の連発である。唱えられた魔法ははまだそのすべてを開放されていないのか、ソノアの支配圏に収まったまま放射状に宙に浮いていた。


「ふふふ、事前に詠唱を済ませておきました。カナメさん、早く負けを認めないとこれを一斉に放ちますよ!」


 ・・・・・・うわぁ、めんどくせぇ。そもそも決闘前に魔法を詠唱しておくとか反則じゃないのかよ。


「勝つためには私はどんな手段も使います。そして勝ったら、カナメさんにくすぐってもらうんです!」


 若干引きつつ周りを見ると、冒険者と思える人たちからギルドの職員の人まで、全員が全員呆けたように口をぽかりとあけてソノアの周りに浮かぶ七本の槍を見ていた。


「信じられねぇ・・・・・・あれって、ドジっ娘の受付さんだろ? 七属性の上級魔法を同時使用とか伝説級の魔法使いじゃねぇか・・・・・・」


 野次馬の誰かが呟いていた。そういえばソノアは杖に留めておいた魔法を爆発させてしまうようなドジっ娘で通ってたんだっけ。キャラ造ってただけだったけどさ。


「頑張れカナメー!」


 ただ一人空気を読まないミリアが大声でアタシを応援していた。その横にはミリアの付き添いで来ていたシュウが他の野次馬たちと同じように呆然としていた。

 生意気なシュウのぽかんとした顔はいつ見ても笑える。


「さぁカナメさん降参してください! そして私を悶絶させるくらいくすぐってください! さぁ! さぁ早く!」

「嫌に決まってんだろ」

「仕方ありません。行きますよ! 『全開放』!」


 声と同時にソノアの上に放射状に待機していた槍は一斉にアタシへと目がけ、その穂先を向け飛んできた。

 避けるのは簡単だけど、魔法の余波だけでもアタシはたぶん吹き飛んでしまうくらいの威力はありそうだった。田舎の迷宮に潜っていたときはこれくらいの魔法は何度でも連続してぶっ放してくる魔物がいたから、対処法も分かってる。

 答えはシンプルだ。迎撃して、魔法もその余波も全部打ち消してしまえばいい。


 アタシは杖に魔力を込めて、一振りで飛来してきた槍全部に杖を叩きつけた。

 属性を込めない魔力を纏った杖は、属性魔法を簡単に霧散させる。田舎の迷宮では、五十階を越えたところから無属性の魔法を使う魔物が出てきてアタシも潜るのを断念したくらいだ。


 万能な様でいて魔法なんて、弱点だらけだ。


「・・・・・・・・・・・・え?」


 ソノアはまるでかき消されることが予想できなかったとでもいうように、遅れた反応を示した。

 観衆も静まり返っている。こちらはソノアが魔法を使ったときから静まり返っていたからあんまり変わっていないんだけどね。


「行けー! カナメー!」


 うん。空気の読めない子が一人いたね。

 あれ? アタシの親友だよ・・・・・・。


「きっと偶然です! 行きますよ! 『大嵐ストーム!』


 ソノアは開き直ってすぐに魔法の詠唱を唱え始める。

 器用なことに、本来であれば広範囲に被害を与える魔法の魔力を無理やり捻じ曲げて槍の形へと生成していた。

 どうしてそんなに槍にこだわるんだろう・・・・・・。

 けど、あの魔法は厄介だ。打ち消そうにも、中途半端に消してしまうと魔法が元の形に戻って広範囲に雨霰、雷を降り注ぐ。もし中途半端に打ち消してしまって元の魔法に戻り冒険者ギルドの建物とかに被害を与えたら大変だ。

 最悪の場合、弁償しろとか言われるかもしれない。そうなったら洒落にならん。

 すぐにアタシは行動に移った。


「『霧の鳥かご』! 『温熱ヒート』!」


 無詠唱だけど、杖があるからそんなに威力は下がっていない。必要なのは発動の言葉だけだ。


「うわっ! なにこれ? 息苦しい!」


 突如として自身を包むように現れた霧にソノアがあわてた声を出す。

 よし。詠唱も中断できた。


「でもこれくらいで私を止められるとは思わないでください! 『風の・・・・・・』」

「『温熱ヒート』『温熱ヒート』『温熱ヒート』『温熱ヒート』!」

「うー・・・・・・蒸し蒸ししてあっつい!」


 ソノアは蒸し暑さに耐え切れなくなったのか詠唱を中断させてまでローブととんがり帽を脱ぎ捨てた。その下は真っ白の薄いシャツと短パンのみ。汗ばんでいるせいかシャツは少し体にくっついている。


「はぁ・・・・・・息・・・・・・はぁ・・・・・・風の・・・・・・はぁ」


 息苦しさの所為で詠唱もままならないみたいだ。

 当然、下手なサウナよりもよっぽど熱くなっている。

 ソノアは自分をを包む霧からなんとか逃れようと走り出したけど、魔法で生まれた霧だ。振り切ろうとしても振り切れない。

 むしろ走ったせいで余計にただでさえ息苦しかったのが息も絶え絶えになったことで呼吸もままなくなり、おまけに暑さで全身から汗を流してしまう始末。


「うおおおおおおおおお!」


 汗にぬれてぴっちぴちになったシャツを目撃した野次馬の冒険者たちが次々に我に返ったように歓声を上げた。


「もぉ・・・・・・ムリ」


 ソノアは限界が来たようでその場にへたりと座り込んでしまった。


「よし、勝った」


 勝利宣言とも呼べないような勝ち鬨をあげる。


「あ・・・・・・えっと、カナメさんの勝利です」


 呆気にとられていたギルド職員の女性はアタシの勝利を肯定してくれた。


「やったね! カナメ!」


 ミリアがアタシのところまで駆け寄って来る。


 とりあえず、アタシは倒れているソノアを介抱しようとゆっくりと彼女に近づいた。


「あ・・・・・・・・・・・・」


 ぼんやりとした目でアタシに気付いたソノアは力なく声を出した。意識はあったらしい。


「カナメさん・・・・・・くすぐってくれるんですか?」


 だめだこいつ、ぶれないな。

 負けたんだからせめてちょっとくらいの自重してほしかった。





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