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猫かぶり

「はい、終わったよ」


 二十分くらいで作り終えた錠剤型のポーションを布袋に入れてシュウに渡すと、ソノアが目を丸くして驚いた顔をしていた。


「カナメさん、それ全部今作ったんですか・・・・・・」

「ああ」

「嘘・・・・・・ありえない。早すぎる」

「ソノアも気にしちゃ駄目だって。カナメはいろいろ規格外なんだから。俺に魔法剣を教えてくれたのもカナメなんだぜ」

「それは本当ですか? もしそうだとしたらギルドに臨時職員として迎え入れたいくらいなんですけど・・・・・・あ、でもアタシに今そんな権限無いや」


 なんというか、不憫な。


「それはそうとカナメさん、ここだけの話なんですが・・・・・・」


 ソノアはわざとらしい前置きをして話を始めた。

 ここだけの話って響きには何だか心躍らされるね。


「噂だと近々王都に・・・・・・・」

「王都に?」

「魔王の軍勢の一つが仕掛けてくるようですよ」

「は?」


 魔王? なにがどうしてそうなった。


「祖父から聞いた話なのですが、なんでも魔王軍の幹部の一人が王都にある何かを狙っているみたいでして」

「そうは言ってもしょせん噂だろ? その信憑性はどこにあるんだ?」

「祖父はギルドマスターですので、突拍子も無いことは言わないかと。私も早めにパーティーを組んで早々に別の地域へ避難するようにと云われています」


 だからパーティーを組みたがっていたのか。

 しかし、魔王とかアタシの関係ないところでやってほしい。アタシの店にその災禍が飛び火とかまっぴらごめんだ。


「その話シュウは知ってんの?」

「一応伝えてはありますが、シュウさんはこの近くを拠点にする気でいるみたいです。あまりここから離れるつもりはないかと。それに、『勇者がいるんだろ? 何とかしてくれるんじゃね?』って言ってましたし」


 シュウなら勇者とか、ちやほやされるだけの使えない奴って言いそうだけどなぁ。


「現に今の勇者様はお一人で魔王の幹部を討伐したこともある経歴を持った方ですので心配はないかと思われます。それに勇者様は異世界の方らしく、パーティーの方もお強い方のようですし」

「へー、そこそこの実績があるのか。あの捻くれたシュウでも大丈夫って言うって事は相当なんだな」

「そうなんでしょうねー」


 ああ。

 これか。


 さっき感じた違和感の正体。

 もう魔王とかどうでもいいや。こっちの方が絶対面白い。


「ソノアさぁ・・・・・・」


 やべ、敬称つけるの忘れてた。

 まあいいや。


「ドジっ娘ってキャラ作りだろ」


 アタシの言葉にぷいと顔を背けるソノア。アタシには見えないけど、たぶんその表情は固まっている。


「え?」


 シュウがアホみたいな声を出してその場に固まる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ほれほれ、本当の事言わないとわき腹くすぐっちゃうぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私には効きません」


 そういってさりげなく肘の位置を下げる。

 アタシは問答無用にわきわきさせていた手をソノアのわき腹に差し込んで思うがままに蹂躙した。

 そんな肘程度アタシには妨害にすらなりはしない!


「あっ! はひゃああははひょっとひゃめっ・・・・・・あはははははあはあはあはっははははやらっひゃあはは!」


 何もかもぶっ壊れたような笑い声を上げるソノア。アタシはくすぐりのテクニックだけは他の誰にも負けないと自負している。

 たとえ効かないという人でも笑わせる自信がある。

 ソノアはすっごい分かりやすいくらい自分からくすぐりに弱いことを吐露してくれたけどね。


「はぁ・・・・・・・・・・・・」


 顔を真っ赤にして力尽きたようにその場に倒れるソノア。必死に抵抗していたからローブもしわだらけで衣服もぐちゃぐちゃに着崩れている。

 その姿のまましばらく息を整えた後、アタシのほうを恨みがましい目で見てきた。


「どうして私が猫をかぶってるって分かったんですか?」

「え、マジで?」


 驚いているのはシュウだ。アタシがくすぐるという一連の流れに思考がついていかなかったらしい。ここに来てやっと正常な考えを取り戻したようだ。


「しゃべり方に違和感があったからね。あと、情報に漏れが無い。・・・・・・様に聞こえたから」

「まさかそれだけの理由で私をくすぐったんですか!」

「うん」


 アタシは頷いて肯定する。


「はあー・・・・・・素が出てたのかなぁ・・・・・・」


 思いため息をつきながらソノアは立ち上がった。

 さっきまでとはどことなく雰囲気が違う。



「迂闊でした。自分でも認めちゃったんでもうぶっちゃけちゃいますね。なんでキャラを作っているかって言われたら、そっちの方が仕事しなくていいからですよ」

「どういうことだ?」


 アタシの疑問にソノアは答える。


「優秀だと仕事しないといけないじゃないですか。嫌って言ってもいろんなところから回ってくる。だからですよ。ドジな人間に大事な書類を任せようとか、誰も思わないでしょ。まあでも、パーティー探すときはその所為で少しだけ苦労しましたけどね」

「分かるわーその気持ち」


 アタシも親に実家を継げって言われたときそう思ったね。継げってどういうことだよ。農家じゃん。多少魔法で工作が出来るからって農機を作れとかバカじゃないの。

 だから半分家出のような形で田舎を出てきたんだけどさ。


「とりあえず、シュウに一言かけといたほうがいいんじゃないか? また固まってるぞ」

「そうですね。シュウさん。改めてよろしくお願いします」

「・・・・・・・・・・・・えっと。ソノア、さん? よろしく」

「今までどおりソノアでいいです」

「え? でも『ドジっ娘受付嬢』じゃあないんですよね?」

「何ですかその嫌な二つ名。それに敬語もやめてください。今までどおりでお願いします」

「え・・・・・・いままでのソノアとソノアさん同じ人なんですか?」


 その言葉にソノアはこめかみを指で押さえつけた。

 アタシは内心爆笑しながら二人のやり取りを見ていた。まさかあの捻くれたクソガキがこんな面白いことになるとは。

 ソノアも諦めろ。自業自得だ。

 二人ともしばらく今日のことでからかえそうだ。店に来るたびに言ってやろ。


「カナメはこうやってせっかくのお客さんを減らしていくんだね・・・・・・」


 少しはなれたところでミリアが呟いた気がしたが、アタシはやめないぞ。

 やると決めたらアタシはやるんだ。




 ソノアは個人的にお気に入りのキャラです。

 シュウとセットじゃなくてもちょくちょく出てくることになるかも・・・・・・

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