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黄色い小人

 子供たちが林の中から戻ってきた。その手元には木の実やらなにやらいろいろなものが抱えられている。けれど変なものを採ってきた子はほとんどいないようで、大体が食べられるもので安心した。

 昼食は食べられるものが作れそうだ。

 子供たちもそれが心配だったのかみんながみんな「これ食べられるー?」ってアタシに聞いてきた。


 作るのは、シチューだ。食べられるものだったら大体なかにぶち込めるから楽でいいし、ある程度の味も保障できる。見たところ毒っ気のある食べ物をとってきた子はいないから、解毒作業もしなくてよかった。

 一手間あるだろうなと思っていただけにちょっと拍子抜けだ。

 けど楽でいいか。


「これ食べられるの? お肉だよ」


 火から少しはなれたところで子供たちがなにか話している。集まっているのは子供たちの中でも年齢が低い子供たちだ。

 まさか肉をとってきたのかな? 出所が気になるけど、肉があるならぜひシチューに入れたい。

 だってうまいじゃん、肉。


「なーどうしたんだお前ら。肉とか聞こえたけど」

「これ食べられるー?」


 肉と思しきものを抱えていた子供の両腕に抱えられているものを見てアタシは驚愕した。


「にゃー」


 たしかに肉なんだけど。

 肉というよりは、生物だ。


 それは白黒の島縞模様の猫の姿をした魔物だった。そいつが子供の腕の中で可愛らしく啼いている。

 この魔物はたしか足長猫といったはずだ。王都の付近にしか生息しない魔物でやけに人懐っこい奴だ。だからこそ、子供でも捕まえることが出来たのだろう。


「にゃー」


 しかもこいつ、「なになに? 遊んでくれるの?」みたいな目をしてアタシの方を見てくる。

 食べようと思えばたぶん食べられないことも無いんだろうけど、人に危害を加える魔物でもないし、シチューに入れるのは憚られた。


「・・・・・・こいつは食わないから逃がしてやれ」


 子供はアタシの言うことを素直に聞いて足長猫をそっと地面に置いた。けれどすぐにその場から逃げようとはせず鍋の周りを面白そうにくるくる回っている。

 こうなるとちょっとだけいたずら心が芽生えてくる。


「ほれ、その鍋ん中入ってみろ。あったかいぞ~」

「やめなさい」


 ミリアにべしんと後ろから頭を叩かれた。

 うう・・・・・・痛い。


 目元にたまった涙をぬぐいながら、子供たちが持ってきた木の実とか良く分からないけど食べられそうなものを下処理しながら鍋に投入していく。

 うん。いい匂いだ。

 こうしていったん茹で上がったものを一度お湯から上げて、別の鍋に移し今度はシチューにする。


 こうなると今度は出来るのを今か今かと待つ子供たちがかわるがわる鍋の中を覗き込んでくる。

 戻ってきてからしばらく足長猫と遊んでいたセラもいつの間にかまたアタシの横で鍋をじっと見ている。


 ・・・・・・ん?

 アタシは目をこする。

 見間違い? 違う。淡い黄色に光る小指くらいの小さな少女がセラの肩に乗っている。


「なあセラ・・・・・・」

「なあに? カナメおねえちゃん」

「その肩に乗ってるの何だ?」


 アタシの言葉にセラは自分の肩に乗っている少女と視線を合わせると「んー」と首を傾げて答えた。


「ともだち」


 うん。訳わかんない。


「林の中できのみ探してたらね、丸くて水色の鳥さんの頭にのってたの。鳥さんはお友達とはぐれちゃったらしくて、この子と一緒にお友達のところまで連れて行ってあげたの」

「はぐれた鳥? 水色って事はバルーンバードか?」

「たぶん。前にカナメおねえちゃんにあげた羽とおんなじのが頭に生えてた」

「じゃあ群れからはぐれた奴か。で、結局そのはぐれ鳥の頭に乗ってたこの黄色いちっこい奴はいったいなんなんだ?」

「よくわかんない。でもね、セラさっきこの子と友達になったの」


 「ねー」とセラは肩の小人に笑いかける。小人も笑いながらセラの肩の上で跳ねていた。

 まあ何でもいいか。害があるわけでもなさそうだし、セラとも仲よさそうだし。

 でもこのちっこいのは人の言葉が分かるのか? セラはあんまり気にしないで話しかけていたけど、友達になったって事はそれだけの知能を持っている気がする。


「お前、喋れるか?」


 アタシは目線をセラの肩の上の小人まであわせて問いかけた。


「ルルー」

「るるー? 名前なのか?」

「ルルー」


 わかんねー。

 もうどっちでもいっか。


 そんなことを思っていたら突然小人はセラと自分を交互に指差して、


「セラ! セラ! ルルー!」

「へー、名前は分かんのな。ってことはお前はルルーって名前か」

「ルルー! ルルールルー」


 嬉しそうにセラの肩の上でルルーは飛び跳ねる。そしてアタシを指差すと、困惑した表情で首をかしげた。


「ん? どうした?」


 言葉を話さないから、なんて言ってんのかわかんないや。


「ルルーね、カナメおねえちゃんの名前が聞きたいって。きっとお友達になりたいんだよ」

「セラはこいつの言っていること分かるのか?」


 アタシが聞くとセラは首を横に振る。

 でもなんとなく分かるところがあるんだろう。


 アタシはルルーの頭に人差し指をやさしく寄せて撫でながら名前を教えてやった。


「アタシはカナメ。よろしくな」

「カナエー?」


 惜しい。


「カ・ナ・メ」

「カナメ!」

「そうだ。んで、こっちにいるのがミリア」

「私?」


 唐突に名前を呼ばれたミリアが動揺する。いつの間にか子供たちもアタシとセラの周りに集まってルルーとのやり取りを眺めている。


「ミリア。ミリアミリア!」


 そんな調子で子供たちも一人ずつ順番に自己紹介をしていった。

 その間にシチューは出来上がり、スプーンで一すくいとって味見する。うん、美味い。


「あー! カナメ姉ちゃんつまみ食いしてるー!」


 そんなアタシの姿を誰かが指摘して、子供たちが責めるようにしてくるのでアタシは全員分をそれぞれのお皿によそってやるとみんな嬉しそうにお皿を受け取っていった。

 アタシが作ったんだから味見くらいしたっていいじゃないか。


 子供たちは思い思いのところに座ってシチューをほおばっていた。

 セラもほかの子供たちと一緒になってシチューを食べていた。時折ルルーにスプーンに少しだけ掬ったシチューを分けていたりもしていた。

 自分の顔より大きいスプーンから一生懸命にシチューを舐める様はなかなかに可愛らしかった。


 全員が食べ終わったころ、空は少し薄暗くなっていた。


「よーしお前らー、帰る準備しろー」


 アタシの号令と共に、予想外に手際よく動き始める子供たち。今の子供たちには片付けも遊びのうちなのかもしれない。

 アタシとしては楽で助かる。


 だけど一人セラだけは何故かアタシが暇つぶしに作った釣竿のところにしゃがんでいた。


「セラー、早くしろー」


 一声かけるとあわてたようにアタシのところへ駆けて来る。そしてアタシの腕を掴むと。


「カナメおねえちゃん。あの釣竿貰ってもいい? ルルーが気に入っちゃったみたいでなかなか離れてくれないの」


 あの片手間で作った釣竿か、どうせ置いたまま変えるつもりだったから貰ってくれる人がいるんならそっちの方が良いか。というか、ルルーもつれて帰る気なのか。


「ああ、好きに持ってっていいぞ」

「ありがとう! ルルー、持ってって良いってー」


 そういって釣竿のところまでまた駆けていく。再び戻ってきたときにはセラは釣竿を両腕に抱きかかえるようにして、ルルーは釣竿の先っぽのところに両腕でぶら下がってきゃっきゃと笑っている。

 なにが面白いんだか・・・・・・。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 日が暮れる前には街についた。ルルーは結局セラに懐いたみたいで、釣竿にぶら下がったままセラと一緒についていった。

 良かったのかな?

 まあロメールさんもおおらかな人だし、ルルー一人くらいなら一緒に住めるだろう。


 店に着くとアタシはすぐに服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。

 そして布団につくと、そのままばたりと倒れこむ。

 今日は楽しかったし暇も潰せたけど、やっぱり子守は疲れた。

 店の戸締りとかはミリアに任せて、アタシはもう寝よう。

 人任せバンザーイ。


 そんなことを考えていたらいつの間にかアタシはぐっすりと眠ってしまっていた。





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