表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

初心

「あー・・・・・・暇だぁー」


 アタシは久々にその言葉を呟いた。迷宮から帰ってきてからというもの、代わり映えのしない日が続いている。

 朝起きて、朝食を食べて、ミリアの剣にするための材料である白い角に魔力を注ぎ、ミリアと一緒に店番して。午後にはご近所さんと話したりたまに来る近所の子供たちの相手をしたり。

 日課にしている角への魔力供給も朝のうちには終わってしまう。はっきり言ってここ数日は碌に何もすることが無く手持ち無沙汰だ。


「なぁミリア」

「なぁに?」

「暇ー」


 アタシよりもすることが少ないミリアに愚痴を言ってみる。ミリアだって、暇なはずだし。それにもしかしたらなにか時間を潰せる提案をしてくれるかもしれない。


「そお? 私はカナメが暇そうにしているのを見るのに忙しいけど」


 ・・・・・・駄目だ。役に立たない。そんなことが暇つぶしになるのはミリアだけだ。


「じゃあさ」


 唐突に、ミリアは提案する。



「せっかく晴れてるんだし、ピクニックに行かない?」

「はぁ?」

「この前冒険者としての登録もしたし今は自由に城壁の外へ出られるでしょ。だからどっか見晴らしのいい場所に行こうよ」


 その言葉を聞いてアタシは空を見上げる。太陽はすでに真上に昇っていて直視できないくらいに眩しく輝いている。けれど肌をさすような暑さは無くて、やさしく撫でられるようなあたたかさだ。外出するなら絶好の日和だ。ピクニックもいいかもしれない。


「そーだなー・・・・・・行くかー」


 アタシのとぼけたような間の抜けた声にミリアは嬉しそうに頷いた。


「うん! 行こう! 私お弁当作ってくるね」


 椅子から立ち上がり急ぎ足で駆けていくミリアを見送る。そういえば最近出かけたりして結構な割合で店を空けている気がする。

 どうせ人来ないし。

 でもこのままじゃ良くないよな・・・・・・。

 ま、暇よりましか。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「わー、カナメおねえちゃん凄いねー」


 アタシが石釜戸の中の薪に魔法を使って火をつけると隣に立っているセラが面白そうにその様子を眺めていた。


「危ないからあんまり近くによるなよ」

「はーい」


 アタシが呼びかけると、周りで気ままに遊んでいた子供たちが元気良く返事した。元々アタシとミリア二人でピクニックに出かけるはずが、何故か子供たちを含めた十人ちょっとの団体での遠足になってしまった。

 場所も城壁の外は危ないので町外れの林の中。

 アタシが店を閉めて出かけるときに近くにいた顔見知りの子供たちに見つかってしまった所為だ。この子供たちはたまに店に遊びに来て、アタシがお菓子とかあげてたらすっかり懐いてしまった。その子達に「どこ行くのー?」とか聞かれて素直に答えてしまったのが良くなかった。すぐに話が広がってあっという間に店の近くに子供たちが増え、おまけに全員が全員「連れてってよー」と叫ぶので仕方なく連れて行くことにした。

 そのときに一応子供たちに親にも一言かけてこさせてたんだけど、子供たちが言うよりも早くに親にはその情報が伝わっていた。

 ご近所さんの繋がりは恐ろしい。


 そんなこんなで今に至る。アタシは子供たちの昼ごはんを作る準備をして、ミリアは子供たちと一緒に遊んでいる。

 そんな中セラだけは魔法とか料理に興味があるようでずっとアタシの隣でアタシのする作業を真剣に覗いている。そんなに面白いかなぁ。


「あのね、魔法が何も無いところから出てくるのが見てて楽しいの。お母さんとか魔法使うけど、そんなにすぐ木に火がつかないの」

「うーん。そうだな、今度お母さんに『風魔法を使いながら一緒に火魔法を使ってみるといい』って教えてあげてくれ。もしかしたらそれですぐに火がつくようになるかもしれない」

「うん。わかった。おうちに帰ったらお母さんに言ってみるね」


 笑いながら言うセラ。


「ついでにお店の宣伝もな」


 つい冗談交じりで言ってしまう。


「わかった。それも言ってみるね」

「ごめん。言わなんで良いから。冗談だって」

「そんなこと無いもん。カナメおねえちゃんのお薬凄いもん」

「あはは、ありがとな」


 そんな話をしているうちにだんだんと火が周りの薪にも移り強くなってきた。アタシはそれを見て土魔法を応用して土鍋を作り出す。

 作る料理は、シチューだ。ただ、材料が無いから現地調達になる。

 そこで・・・・・・。


「おーい、お前ら林ん中から食べられそうなもの採って来ーい」


 いっぱいいる子供たちを使うことにした。多少毒があるものでも毒性が強くなければアタシの魔法で大体の毒は抜くことが出来るから、見た目さえ悪いものじゃなければ食べられる。


 アタシの号令と共に、ミリアを含めた子供たちがいっせいに林の中へと駆け込んでいった。

 味はなんとかなるだろ。子供たちも自分が食べられないようなものはとってこないだろうし。


「セラはどうする? みんなと一緒にとりにいくか? こっちはしばらくすること無いぞ」

「うん。おいしそうなもの採って来るね」

「頑張れよ」

「はーい」


 セラも元気良く飛び出していった。

 転ばないだろうな。


 さて。とアタシは土鍋に向かいなおす。中に入れた水はしばらく沸騰しないだろう。

 それまで何するか・・・・・・。


 意味もなく手近にあったちょっと長めの木の棒を拾ってみる。

 なんとなくいい雰囲気の棒。

 釣竿とか作れそうだ。


 表面の皮を削ってそれに魔力を送り強度を上げ、しなりが出るように調整する。。

 大体の形は出来た。けどまだちょっと重いな・・・・・・。

 棒に浸透した魔力を使って木の中を削ると、だいぶ軽くなった。強度は魔力の調整をしてあげておく。


 あとは糸をくくりつける部分を作って終わり。

 針は土魔法を使って作り出した。

 ・・・・・・糸が無い。


 作ったけど無駄になっちゃったな・・・・・・。


「ふあ~あ」


 大きなあくびをして、長い丸太を横にしただけの椅子とも呼べない椅子に座る。


「火の番って、案外暇だな」


 子供たちが食料を手に帰ってくるまでしばらくかかりそうだ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ