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筋肉暴走注意報

 総合評価が100p超えました。ありがたいことです。

 やっとのことで冒険者の登録が終わった。

 受付のドジっ子さんはソノアという名前らしい。登録の最中に教えてもらった。思っていたよりも早く終わったのだけど、ソノアが二度目のへまをやらかして見かねた上司の人らしい男性が手伝ってくれた。そのときにもうこいつのところには並ばないでくれとまで頼まれてしまった。その横で「ひゃうぅぅ・・・・・・」とかソノアは言っていたけど男の人には完全に無視されていた。

 うーん。不憫な。


 なんでもソノアはギルド長の孫娘で実力はあるけど事務能力にいたっては皆無らしい。その実力も怪しいもので迷宮に潜ればすでに見つかっている罠を踏み抜き、平野に出れば何も無いところで転んで杖に溜め込んでいた魔法を暴発させてしまうというドジの徹底振り。

 下手に権力のある人の親戚のために下手に解雇できないのだとか。ギルド職員たちの頭痛の種だという。

 アタシは見ていて和むからいいけどね。あ、でも登録の受付だけはさっさと済まして欲しかったよ。


そういえば、シュウはどこにいったんだろう。冒険者ギルドの周りをふらふら歩き回ってるらしいけどぜんぜん見当たらないや。ミリアはずっとアタシの腕から離れないから迷子になる心配ないけど。


 きょろきょろと無造作にあたりを見渡す。王都に一番近い冒険者ギルドだけあってさすがに人が多い。この中から一人を見つけるとか無茶なんじゃないかとか思えてくる。


「あんまきょろきょろしてっと田舎者に思われるぞ」


 聞き覚えのある声にミリアとアタシは同時に振り向いた。そこには両手を頭の後ろに組んで立つシュウがいる。

 なんだ、すぐ近くにいたじゃんか。


「別にいーよ。アタシ達が田舎者だって事は自覚してるから」

「イヤミ言ってるんだけど」

「知ってるよ。クソガキ」


 言い合ってからアタシもシュウも笑い出す。何がおかしいんだか自分でもわかんないや。


「ところでカナメさ、登録遅かったけどもしかして一番端っこのあのねーちゃんところ並んだの?」

「ああそうだよ。わるいな、遅くなって」

「いいって、俺も登録するとき最初あそこに並ぼうか迷ったから」

「へー・・・・・・でも迷ったって事は結局並ばなかったんだろ」

「まあな、だってあんなに込んでるのに誰も並んでないんだぜ。何か問題があるとかしか考えられないだろ?」

「悪かったなぁ考える頭が無くて」

「そんな事言ってないだろ、まあなんだっていいじゃん。この話は終わりにしようぜ」


 アタシの腕にくっついたままのミリアの機嫌が少しずつ悪くなってきたことを察したのかシュウは話を切り上げた。

 ミリアは頭を少し撫でてやるとすぐまた笑顔に戻った。撫でて機嫌がよくなるとか田舎にいたときよりも動物っぽくなってないか?


「ねえカナメぇ、せっかく冒険者登録までしたんだから早く迷宮行こうよ~」

「そうだな。シュウもそれでいいか?」

「そもそもそういう目的だろ。それよりもカナメもミリアの姉ちゃんも戦えるのか? カナメは魔法使えるみたいだから大丈夫だと思うけど」

「大丈夫だよ。私だって田舎の迷宮潜ってたし」

「じゃあ決まりだな。アタシは珍しいアイテムとか探すのが目的だから戦闘は二人に任せるよ」

「私はカナメが怪我しないように気をつけてるね」


 アタシ達の言葉にシュウは「はぁ」とため息をついた。


「二人とも迷宮で戦う気さらさら無いね。今のうちに言っとくけど俺だけだとどこまで戦えるか分からないからな。一階しかいけなくても文句言うなよ」


 シュウは念を押すようにアタシに言った。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「筋肉の力ぁ!」

「筋肉様のおとおりだぁ!」

「・・・・・・・・・・・・」


 迷宮の一階、アタシとミリアの目の前を筋肉たちが爆走していく。筋肉たちの少し後ろにはサポートをするようにシュウが歩いている。

 迷宮一階のウサギっぽい魔物の大群は筋肉たちによってまさにちぎっては投げ状態。面白いように吹き飛んでいく。

 ・・・・・・どうしてこうなった。


 冒険者ギルドから約三十分くらいのところにある『ササキの迷宮』。その入り口で冒険者登録をする前に遭遇した筋肉たちと再会したのだ。

 「筋肉のすげぇところ見せてやる」と半ば強引にアタシ達のパーティーは拉致されるように連れて行かれた。


「カナメ、『筋肉』の人たちと知り合いだったのか!」

「ああ、不本意ながらね」


 『筋肉』とは彼らのパーティー名らしい。まさにシンプルイズベストだな。

 シュウ曰く、彼らはCランクのベテランであり、この前のオークもどきを倒すときの主戦力だったとか。結構有名らしい。

 見た目があれだけ派手ならいい意味でも悪い意味でも有名になりそうなもんだけど。

 で、そんなこんなで道中を同じくしたアタシ達は二つのパーティー合同で迷宮に潜っている。


 『筋肉』の人たちには一階の魔物は敵にすらならないらしい。おかげでアタシは安心して辺りに何かおちてたりしないか見ていられる。でもさっきからまだ一度もよさそうなもの見つかってないけどね。


 一階は『筋肉』の爆走もとい活躍により難なく進むことが出来た。シュウも一階のウサギっぽい魔物には苦戦することなく勝てたようだ。やられるだけの存在か。

 このウサギの名前は知らないが、やけに目つきが悪いからか可愛いものが好きなはずのミリアも吹き飛ばされるウサギ達に対して同情すらしていない。哀れウサギ。


 筋肉達の後ろに続くようにして地下二階へと降りる。下りるための階段は毎回場所が変わっているため探すのが大変らしいが意外と早く見つかった。

 地下に行けば行くほど珍しいアイテムとかあるらしいから、アタシとしては大歓迎だ。シュウはちょっとだけ不安な様子だったけど『筋肉』の人たちがいるからか安心したのだろう。後ろについていく。


 さっきから前を歩かないし、あとでヘタレと罵ってやろう。どんな反応するか楽しみだ。


 地下二階に出てくる魔物はタラッタラットだった。見た目はただのネズミ。

 かまれると痛いらしいけどリズミカルに攻撃してくるから、その攻撃パターンは読みやすいんだとか。


 ここでも筋肉たちは爆走する。


「筋肉の力ぁ!」

「筋肉様のおとおりだぁ!」

「・・・・・・・・・・・・」


 そのセリフは言わなきゃいけないのだろうか?


 ふと、アタシの腕に寄り添っていたミリアがすぐ隣の壁を指差した。


「ねえカナメ。ここの壁なんか変じゃない?」

「どこだ? 薄暗いから良く見えないや」

「ここだよここ。継ぎ目みたいなのがある」


 言われて目を凝らしてみるとたしかにそこは少しだけほかの壁と違っていた。

 さわり心地もほかの壁はしっとりしているんだけどこの壁はサラサラしていた。土じゃなくて砂みたいな感じ。


「『筋肉』の皆さーん。ここの壁ちょっと違うんだけどー。なんかあんのー?」


 呼びかけると、三人はその動きを止めてアタシの方を向いた。

 頭悪そうな筋肉Bが一人こっちに来る。


「これは隠し部屋じゃねぇか! こん中にはいいもんあること多いんだぜ」


 なんと、ラッキー。

 ほめてほめてーとでもいうようにミリアが寄り添ってくるのでその頭を撫でてやるとシュウの方を見て得意げな顔をしていた。


「よし、ぶっ壊すぞ」


 筋肉Bが腕を大きく振りあげて壁を殴りつける。

 壁はすぐにぼろぼろと崩れ落ちて、中の姿をアタシ達にさらした。


 中には魔物が一体と宝箱が一つ。


「うおおおおおおおおお!」


 突然、筋肉Bが叫びだした。なんだ、もしかしてあれはすごいレアなアイテムが入ってる宝箱なのか?


「あの魔物、めったに人前に姿を見せないマッスルボーイじゃねぇか。同行の士として是非捕まえて帰りてぇ」


 ・・・・・・超どうでもいい。


 中にたたずんでいる魔物はガタイのいい人型の魔物だった。この筋肉バカの発言を聞く限りマッスルボーイとか言う魔物らしいが、正直アタシにはのっぺらぼーで気持ち悪いとしかいえないや。

 いつの間にか戦闘が始まっていたみたいで筋肉Bとマッスルボーイはお互いに組み合っている。ぶっちゃけ見ていて暑苦しい。


 アタシはそれを尻目に宝箱へ向かうと期待しながらそれをあけた。中身は古臭い金貨が二枚。

 思ったよりもしょぼかったなぁ。


 戦いはあっという間に終わったみたいで、ぐるぐるに縛られたマッスルボーイを筋肉Bが担いでいた。一応金貨は貰ってもいいか聞いてみたら、ものすごくいい笑顔で了承された。

 なんでもアタシ達が隠し部屋を見つけたおかげでマッスルボーイを捕まえられたからいいんだと。


 筋肉たちは一旦帰るらしい。

 シュウもタラッタラットのすばやさに思いのほか苦戦したらしく、アタシ達も迷宮を出ることになった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 迷宮を出てからそのままシュウと分かれて、店まで戻る。

 店に着いたときにはすでに空は暗く、ご近所さんも寝静まった完全な夜になっていた。


 金貨は少しもったいない気もしたけど、穴を開けてアクセサリーにして一つはミリアにプレゼントした。

 遅くなったけれど、田舎の迷宮の攻略祝いだ。

 もう一枚を店頭に出そうとしたらミリアに止められたので、いまは工房に置きっぱなしになっている。


 たいしたことしてないけど今日は疲れた。

 明日からの予定は特に無いので、しばらくはまた暇な日々が続きそうだ。





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