空飛ぶ!僕のバイク
すごく寒くなってきた。こうまで寒いとさすがにみんなバイクに乗る気もなくなっちゃうよね。でも僕の場合は、全く逆なんだよね。寒い時に乗るバイクって、すごく気持ちのいいモンなんだ。朝の眠気なんてイチコロなんだからさ。
僕のバイクは50ccで、そんなに大きくないし、速くもない、っていっても、僕の頭の中では、でかくってすごく速いバイクに乗ってるつもりなんだけどね。アクセルを吹かすと、僕のバイクは気持ちよく応えてくれる。僕は全く、うまく乗りこなしちゃうんだ。まるで、プロのバイク乗りみたいにさ。
どのくらいうまく乗ることが出来るか君には想像できるかな。バイクに乗ってればなんだって出来ちゃうんだよ。バイクであっという間に家に帰ることだって、幼なじみのあの子のうちにだって、とにかく、すぐなんだ。まるでワープでもしちゃうみたいにさ。そんなもんだから、君が僕のバイクの後ろに乗せてくれって言っても乗せられないんだよ。それはあまりにも危険すぎるんだ。わかってくれるかな。でも、それだけじゃないんだ。こっからは、僕らだけの秘密の話さ。君以外には、話したことがないんだ。そんなことをしたら、僕も、僕のバイクも、どっかの研究者に連れて行かれちゃうからね。そんなのはごめんだよ。
だから、君もこのことを秘密にしていなくちゃならないんだ。つまり、僕のバイクが空を飛ぶことが出来るってことをね。全く、君までそんな目で僕を見るのかい。ねえ、僕だって立派な青年だよ。映画の観すぎではないし、夢だって見ていない。もちろんドラッグにだって手をつけたことはないぜ。
君が信じるか信じないかは別にして、僕がバイクで飛んで、どんな感じだったか話そう。そうすれば、君は嫌でも信じちゃうんだからさ。そっちのが僕にとっては手っ取り早いんだ。
あの日、2週間位前だったかな、すごく天気のいい日を覚えているかい。僕はいつものようにバイクに乗ってぶらりと走ろうと思ったんだ。強いお日様のおかげで、僕のバイクはまるで光っているかのように見えたんだ。それで、エンジンをかけたとき、バイクが僕に向かって喋り始めたんだ。でもこのことは何にも不思議なことではないんだよ。バイクはいつだって僕に向かって話をするんだ。
「今日は天気が良いから、あのお日様のとこまで突っ走って行くかい?」って具合にね。
「お日様のところまでだって?そりゃあ無理だよ。君はいつだって地面の上しか走れないじゃないか。」
僕のバイクは、ちょっとエンジンを吹かして、
「ほら、さっさと乗りなって。」って言うんだ。僕は言われるままにバイクにまたがったんだ。そしていつものように走り出そうとしたら、なんか様子が変なんだ。地面を走っている気がしないんだ。僕は空中を走ってた。地面から50センチくらいは浮いてたかな。僕はびっくりして思いっきりアクセルを吹かしちゃったんだ。焦ってたんだよ、分かるだろ。だって浮いてたんだぜ。思いっきりアクセルを吹かしたもんだから、今度はびゅーって一気に雲の上まで行っちゃったんだ。何秒くらいで雲の上までいったか、正直覚えていないんだ。とにかくあっという間だよ。
空での運転はもちろん最初は怖かったんだけど、だんだん慣れてきたら、すっごく気持ちが良いんだ。そこはなんもない世界なんだ。僕ら以外には何もね。ビルだって車だって、もちろん人だってね。あ、でもくちばしの大きな鳥が何匹か飛んでたよ。そいつらときたら、空飛ぶバイクなんてはじめて見たって顔でびっくりしてたんだから。
でもね、君に正直に言うんだけど、僕らはお日様のところまでは行けなかったんだよ、実際はね。行っても行っても、まるで近づかないんだ。まるで、お日様が地球上にはいないかのようにね。それで僕らは完全に諦めちゃったんだよ。君の言うとおり、もっと詳しく場所を調べておくんだったな。僕もバイクもどっちに行けばお日様のところに着けるか知らなかったんだ。
気がついたらお日様はどっかに行っちゃって、真っ赤な夕日が現れてきたんだ。だから僕らは急いで家に帰らないといけないと思ったんだ。だって、夕日の後には月が出てきて、世界を真っ暗に変えてしまうからね。そのくらい君にだってわかるだろ。だから僕らは雲の切れ間に飛び込んだわけさ。雲の中ってどうなってるか、僕はすごく知りたかったんだけど、僕は怖くて目が開けられなかったよ。だって、すごい強い風の音がしたんだもの。家に着いた頃には、すっかり真っ暗な世界になっちゃってて、そりゃあ怒られたよ。でもまさか雲の上にいたなんて言えないね。そんなことを言ったら、病院にでも入れられちゃいそうだからさ。
これが僕が最初にバイクで空を飛んだ話の一部始終だよ。もちろん今でも、そのバイクとたまに空をのんびり走ることはあるよ。でも、お日様にはまだ行けてないんだ。学校の先生が言うには、お日様って地球にはないみたいなんだ。
でもそんなのって、君は信じられる?つまり、太陽が宇宙にあるなんて。