薬草狩り3
私の叫びが届いたのか、モノがハヌルから少し離れた気がした。
ハヌルの体からモノが少し浮いたように見えた。
モノとハヌルの肌の間の隙間に指を入れることができた。
引き剥がしてみようとした。
モノの力は強く簡単にははがれなかったが、肌とモノの間にナイフを入れ切り裂いた。
「貸して」
ハヌルが私からナイフを受け取り、自分でモノを切り裂いた。
ハヌルから離れたモノはいくつもに切り分けられたはずなのに、ひとつに塊り、海の中へ消えていった。
「今のは何?」
「今のは何?」
私とハヌルは同時に言った。
私がたずねたのは当然、今のモノのこと。
「今のは、このあたりの海に住んでるミョックってグエムル」
「グエムル?」
「妖怪と言おうか・・・怪物ってとこかな。
で、今のは何?」
「何・・・て、ミョックなんやろ?」
ハヌルがたずねたのは、モノのことではなさそうだった。
「今、リンが叫んだら、ミョックが離れたでしょ?
あれが体についたら、毎回はがすのにはかなり苦労する。
なのにリンが叫んだら、ミョックが体から離れた」
「何、って言われても・・・
ハヌルが死んでまうって思ったから、助けて!って思って、つい、叫んだだけ」
「ふーん。
声に反応するのかな・・・
ま、いいや。
あんなのがいるから気をつけて。
よく見ると海草とは色が違うから。
緑がちょっときれいなのがミョック。
下手に触るとまたやられるよ」
「で・・・薬草はどんなん?」
「海草から生えてる透明なやつ。寄生してるっていうのかな」
ハヌルはしゃがんで次々と海草の塊りをつついて回った。
私は直接触るのが怖くて、火かき棒でかき回ししながら探した。
何度かミョックに触れてしまったらしく、火かき棒を上ってきたが、あわてて火かき棒を放すと、ミョックも離れた。
ハヌルも何度か触ってしまったらしく、手に巻きついた瞬間ナイフで切り離していた。
日が高く上った。
種はいくつか見つかったが、肝心の本体はまったく見つからない。
「休憩しようか」
ハヌルが提案した。
私は、薬草を探す手を止めた。
「ちょっと待っててね」
ハヌルは私の横で靴と上着を脱いだ。
腰の水筒やウエストバッグを砂の上に下ろした。
ナイフを口にくわえるとそのまま海の中へ飛び込んでいった。
しばらくして戻ってきたときには顔くらいの大きさもある魚を一匹捕ってきた。
「大丈夫なん?」
私が尋ねた。
「何が?」
「さっきのミョック、海の中に入っていったやん。
海の中におるんちゃうん?」
「あぁ。大丈夫。
あいつらは、水の中じゃ力が出ないのか、襲ってこないから」
そう言いながら、浜辺に流れ着いた木切れを手際よく組んだ。
石でかまどのように覆い、木切れに火をつけると、うえに薄い石を乗せた。
火が大きくなる前に、ハヌルは手早く魚をさばいた。
おろした魚を石の上に置くと、気持ちいい音がしておいしそうな香りがし始めた。