ログハウス1
何から聞こう?
改めて聞かれると、分からないことだらけで、何を聞けばいいのか思いつかなかった。
「あなたの名前は?」
私の口から出た質問は単純なものだった。
「あ、名前も名乗ってなかったね。
私はハヌル」
「私は…」
名乗ろうとした。
え…私は誰?
私の名前は?
思い出せない。
やっぱり飛行機事故のせいで、記憶喪失?
「自分の名前がわからないんでしょ?」
彼女はチェストの下の方の引き出しからケトルとカップを出した。
「私もそうだった。
あの浜辺にたどり着いた時はなぁんにもわからなかった。
ちょうど1年くらいになるかな。
ちょっと待っててね」
彼女はカップを2つ、テーブルの上に置くとケトルを持って、入ってきたドアから出て行った。
すぐに戻って来ると、暖炉に火を入れ、五徳にケトルを置いた。
そんな彼女の動きを見ながら、飛行機に乗ってから今までのことを順番に思い出してみた。
どこからどこまでが現実で、何が夢なのか…。
「あなたはどこに住んでたの?」
逆に彼女から質問された。
「神戸」
自分の名前すら覚えてないのに、どこに住んでたかは覚えてるらしい。
「コウベ?聞いたことないなぁ」
神戸って・・・そんなに知名度低いのか。
「神戸・・・知らん?」
「うん」
「有名だと思っててんけどなぁ」
「きっと違うとこだね」
そう言う彼女の一言一言が理解しがたかった。
彼女の説明によると、彼女も私も、こことはまったく違う世界から飛ばされてきたらしい。
なぜそうなったのかわからない。
でも、ここの土地の人たちは、『えらばれしもの』だからここに呼び寄せられたと言う。
誰が選んだのかはわからない。
何のために選ばれたのかもわからない。
ここに住んで1年近く経つ彼女にもわからないらしい。
と・・・そんな話がにわかに信じられるわけもなく、誰かにだまされているとしか思えなかった。
話しているうちにケトルの湯が沸いた。
ナイフを使って、熱くなったケトルを彼女はテーブルまで運んだ。
カップ類を出したのと同じ引き出しから、小さな箱を取り出した。
ふたを開けると、ハーブのような香りがした。
「いい香りでしょ。
このあたりで取れる薬草。
気持ちを落ち着かせてくれるよ」
彼女はケトルに葉を数枚いれ、蓋をしてしばらく待った。
それからカップに湯を注いだ。
きれいな青い色をした、少し飲むには抵抗のありそうな青い色をしたお茶だった。
彼女はカップを両手で抱えるように持つと、フーフーと吹きながら一口飲んだ。
それを見てから、私もカップを手にして少しだけ飲んでみた。
少し酸味が感じられるが、飲めなくはない。
その時、急に外が暗くなった。
窓は開いているし、玄関のドアも開いているのに光が消えた。
急に夜中になったようだった。
「テーブルの下に!」
彼女が叫んだ。
「?」
ボーっと座っている私を、彼女はテーブルの下に押し込んだ。