夜明け2
次の朝、私とハヌルは夕べの食器を洗い、服を着替え町に行くことにした。
一晩寝ると不思議なもので、見るだけで恐かったヌッテたちが恐くなくなった。
むやみに近づこうとは思わないが、平気でそばを通れるようになった。
前日と同じように、ハヌルが町の扉の隙間にナイフをさして掛け金をはずして、中に入った。
コヤギはちゃんと番をしていた。
「おはよう、ハヌル、リン。
早いな」
とても前日に昼間から飲んでいたようには見えない。
「おはよう、コヤギ。
昨日はちゃんと寝ずの番ができた?」
ハヌルが尋ねると、コヤギは親指を立てて見せた。
「ちょっとだけ、魔法使えたよ、私」
コヤギに報告した。
「おお!
何の魔法だ?
火か?
火なら俺と同じだ!」
コヤギは想像以上に興奮して喜んでくれた。
「あ・・・いや・・・。
残念ながら雷っぽい」
私は小さい声で言った。
「雷?!
うらやましい!
使い方によっては相手を麻痺させれるだろ?
生け捕りにしたいときに重宝するよ」
コヤギは興奮して話し続けた。
まだ使い方がよく分かっていない、と口を挟みたいのだけど、コヤギは魔法談義を続けた。
ハヌルは興奮しきってるコヤギを呆れたように見ていた。
私はコヤギに両肩をつかまれ、ゆすぶられ、抱きつかれ・・・。
ここの世界も悪くないなと思い始めた。
テレビもパソコンもないけど、グエムルとかってモンスターがいるけど、悪くない。
温かい人がいるし、ハヌルという家族もいる。
でも・・・
ハヌルは元の世界に戻ることを諦めたという。
でも、私は諦めない。
いつかもとの世界に戻る。
兄さんを探す。
ウサギを追いかけて穴に落っこちた彼女の物語は夢だったけど、これは夢じゃない。
幻でもない。
この夢幻の世界のどこかに、私が以前暮らしてた世界と通じる道があるはず。
いつかきっと戻る。
でも、その日まで、この世界のみんなと楽しく暮らしていこう。
この世界のことは、まだまだ分からないことだらけ。
だから面白いと思う。
コヤギに何度も抱きしめられながらそんなことを考えていた。
~~~夢幻のかなた 第一部 完~~~