戦闘2
「何も悪いことしてへんやん・・・」
いくら犬が嫌いだといっても、何もしてこない犬を殴るなんてことはできなかった。
「殴ったら怒って襲ってくるし、下手したら死んでまうかもしれんやん」
「倒さなきゃ。
夜になるとこの子らは豹変するんだよ。
この子らがいる限り、町はずっと門を閉ざして、自由に出入りできないんだよ?」
ハヌルが言った。
「だからって・・・無駄な殺生せんでもええやん」
私は目の前に寝そべる犬を見下ろして言った。
「無駄とも言い切れないよ。
その子たちは食料になるからね」
ハヌルはウィンクして見せた。
「食べるん?!」
私は改めて犬を見下ろした。
「ここじゃ食料は自給自足が原則。
店で買えるものもあるけど、買えないものもある。
町には畑があるから野菜は売ってる。
でも、こういう動物は私たちが捕って町に売りに行ったりするんだ。
だから、がんばれ~」
どこまで本当なのだろう、と思えるようなハヌルの言い方。
「あかん。
私にはできん。
何もしてないのに殴れんよ」
私の声はどんどん小さく消え入りそうだった。
「食料調達!」
ハヌルが叫んだ。
私は心を決めて目をつぶってこん棒を振り下ろした。
ギャン!
犬の悲鳴が聞こえた。
急所ははずしたらしい。
眼を開けると、犬が牙をむいて飛び掛ってきた。
大きな赤い口。
鋭い牙。
黄色い眼。
太い前足。
とがった爪。
殺される!
そう思って必死でこん棒を振り回した。
当たったかもしれない、当たらなかったかもしれない。
ただ、犬の牙が私の腕をかすったのは分かった。
「助けて!」
私は何かが犬を貫いてくれる瞬間を想像した。
意識したわけではなかった。
何かが犬を貫いて、そのまま地面に釘を打ったようにとどまってくれたら!
ドーン!
まぶしい光と一緒に大きな音がした。
私は後ろに弾き飛ばされた。
「リン!」
ハヌルが駆け寄ってきた。
私はしりもちをついた。
犬も同じように弾かれたようだった。
私と同じように倒れている。
息はあるようだったが、立ち上がれないようだった。
ハヌルは私が無事なのを確認すると、剣で犬の首を飛ばした。
私は思わず目を閉じた。
不思議なことに首を切られた犬からは一滴の血も出なかった。
「大丈夫、リン?
どうやったの?」
倒れたままの私にハヌルが手をさし出して立たせてくれた。
「どうやったも何も・・・何があったん?
何が起こったか、ようわかってない」
私はズボンのすそやお尻をはたきながらハヌルに尋ねた。
ハヌルの話によると、私が犬を殴る。
犬が私に飛び掛ってくる。
私がこん棒をやたらめったら振り回す。
私が倒れそうになったとき、犬に雷が落ちたらしい。
「今の雷、リンがやったの?」
ハヌルの興奮が伝わってくる。