町6
コヤギのような魔法が私にも使えるのだろうか。
ハヌルやナムは私が魔法使いだと確信している。
まだ、力が使いきれていないだけだと。
でも、実際そんな力が私にあるのだろうか。
今まで生きてきた中で、自分に魔法が使えたら、と思ったことは何度もあった。
子供のころテレビを見ながら、いつか魔法使いになるんだ、そう思ったこともあった。
でも実際は、そんなことは無理だと大人になったら十分理解していたことだった。
それがある日、魔法使いの素質があると言われた。
魔法使いっていう存在すら信じがたい。
そう思う反面、ここでは、この世界では何でもありかもしれない、そう思えるのも事実だった。
ただ、自分が魔法使いとしての力が十分あるのかどうか・・・。
ハヌルやナムの期待を裏切ることになるのでは?
そう思うと不安が心の中でどんどん大きくなっていった。
「ねぇねぇ、どうやったらそんなことができるようになるの?」
私が聞きたかったことを、店主が代わりに聞いてくれた。
「最初は無我夢中のうちにできた、って感じだったなぁ。
襲われたときに、『燃えちまえ!』って思ったら火が出た、って感じかな。
そのうちだんだん思うような火を出せるようになった」
コヤギはグラスをあけた。
そういえば、助けて、って心の底から願ったとき、変な海草が体から離れた気がする。
「燃えろ!ってやってみる?」
コヤギが私の前に、つまみの乗った皿を差し出した。
「できるかな・・・」
私は心の中で念じてみた。
燃えろ。
燃えろ。
燃えろ。
かなり強く願ったつもりだったが、まったく火が出る様子はない。
「リン、ロッド!
さっきのロッドを手に持ってやってみたら?」
ハヌルが提案した。
「無駄、無駄」
コヤギがグラスを傾けながら言った。
「ロッドは力を増幅させる力があるんだ。
使えない魔法を使えるようにするものじゃないからね。
念じても火は出ないよ。
火が出て、燃えてるところを想像して、心の奥底から願うんだ」
コヤギの言うとおりやってみた。
皿の上に火が立ち昇り、赤々と燃える、そんな場面を想像してみた。
結果は同じだった。
何の変化もない。
「まぁ・・・いざとなったらできるようになるかもしれないな」
コヤギが火のつかなかったつまみを取った。
「切羽詰ったら力が出るかもしれないから。
グエムルが現れたら戦ってみることだ。
でもロッドで殴るな。
折れるぞ」
私はコヤギの言葉にうなづいて見せたが、グエムルと戦うのか?
この私が?
できればそんなシーンは避けたい。
武器と呼べるものはロッドしかない。
でもそれで殴るなと?
では素手で戦うのか?
それとも・・・火かき棒?
「そうだ、これをやるよ」
コヤギが自分の腰に下げているものをはずした。