町5
「せっかくだけど、私は飲めないから。
ところで、聞きたいことがあるんだけど」
「俺に?」
コヤギは空になったグラスを店主に渡しながら言った。
「魔法使いの知り合いがいるって聞いたんだけど。
紹介してほしいんだ」
「魔法使い?」
ハヌルの問いかけに、コヤギは口に持っていこうとしたグラスをカウンターに置いた。
「会いたいのか?
なぜ?」
「実は、このリンに魔法使いの素質があるらしいんだけど、まだ思うように使えなくて。
色々教えてもらえないかと」
ハヌルがいうと、コヤギはグラスから手を放し、スツールから降りた。
「教えるって言ってもなぁ・・・。
魔法なんて願ったらそのとおりになるだけで、コツも何も、特にないからなぁ」
コヤギは私を上から下までゆっくりと見ながら、近づいてきた。
「リン・・・だっけ。
どの程度使えるんだ?」
コヤギが私の周りをゆっくり回った。
「まったく・・・」
私はコヤギが私の周りを回るのにあわせて体の向きを変えた。
「まだ力があるのが分かったばかりで。
ミョックに襲われたときに、リンが叫んだら、ミョックが体から離れたんだ。
自分を守る力があるみたい、それくらいしか分からなくて」
ハヌルが、私の代わりに説明してくれた。
「プロテクトかな」
コヤギは回るのをやめて、またカウンターに戻った。
「プロテクト?」
私がおうむ返しに聞いた。
「自分を守る力、かな。
自分の体の回りにオーラを出して、ある程度の攻撃を防ぐんだ」
「それで・・・コヤギ。
その魔法使いを紹介してほしいんだけど」
ハヌルが続けた。
「知り合いに魔法使いはいないよ」
コヤギは置いていたグラスを手にした。
「武器屋の親父の勘違いか・・・」
ハヌルが肩を落とした。
「ちょっとした勘違いだな」
コヤギはグラスの酒を一口飲んで続けた。
「知り合いに魔法使いはいないが、俺が魔法使いだ」
「え?!
そうだったの?
全然知らなかった」
私も驚いたが、ハヌルはもちろん私以上に驚いたようだった。
「別に魔法使いかそうじゃないか、言ってまわることもないしな」
コヤギはつまみに出された・・・煮干か?・・・何かをつまんで言った。
「それに、ありがたいことにこの町は平和だから、魔法を使う機会もなかったし。
俺の魔法は攻撃がメインだから、平和な町ではほとんど役立たずだからなぁ」
「知らなかったわ・・・。
コヤギ、魔法使いだったの?」
店主が両手を胸の前で組んで言った。
「ね、ね、何かして見せてよ」
「俺のは攻撃魔法だよ?
下手に使ったら、この店、飛ぶよ?」
コヤギはそういいながらグラスをカウンターの上に置くと一歩下がった。
右手の人差し指を立てると、グラスに向かって軽く振り下ろした。
ポッ
グラスの酒に火がついた。
「まぁ!
すごい!
ねぇねぇ、これってファイアって魔法でしょ?
何かで読んだことあるわ!」
店主は興奮状態だった。
私は店主ほど興奮できなかった。
興奮より不安の方が大きかった。