生還
絶叫マシンは大嫌い。
フリーフォールに乗ったことは生まれてから一度もない。
でも、今のこの状態がフリーフォール以上のものだというのはわかった。
無意識で兄の手を握った。
兄も私の手を握り返してきた。
それを感じたとたん、意識が薄れていった・・・。
水の音・・・?
意識がある?死んでない?ここはどこ?
天国って実在する?
少し目を開いてみた。
青い空、太陽・・・。眩しい。
波の音?冷たい・・・!
ゆっくりと、しっかりと目を開いてみる。
湖?池?海?
体が半分水の中にある。
また、目を閉じた。
静かに・・・思い出してみる。
確か・・・飛行機に乗ってて、落ちた・・・はず。
急にフリーフォールになって・・・兄の手を握って・・・。
兄?!
お兄ちゃん?!
兄と一緒だった。一緒に落ちた。
そう思ったとたん、反射的に体を起こした。
周りを見回した。
・・・何もない。
飛行機が落ちたはずなのに、何もない。
機体の破片ひとつ落ちていない。
兄の姿もない。
静かな浜辺。
波の音だけ。
ここはどこ?兄はどこ?
そのとき、気づいた。
無傷だった。どこも痛くない。
両手を見た。擦り傷ひとつない。
飛行機から落ちたと思ったのは・・・夢?
あれ・・・?
私の記憶は・・・?
ゆっくりと立ち上がり、浜辺へ上がった。
そのまま座り込んだ。
飛行機から落ちて無事なはずがない。
機体の破片ひとつ落ちていないなんてこともないはず。
やっぱり私の記憶がおかしくなったのかも。
考えてみたが、何も思い出せない。
最後の記憶は握り返してきた兄の手とフリーフォール。
ここがどこなのか、これからどこへ行けばいいのかまったくわからない。
「こんにちは」
急に背中から声をかけられた。